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大阪交響楽団常任指揮者の山下一史「先輩の偉業を伝えなければ」外山雄三、小澤征爾のことや、その他のことも大いに語る

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大阪交響楽団 常任指揮者 山下一史

2022年に大阪交響楽団の常任指揮者に就任した山下一史。3年契約のラストイヤーに入ったタイミングで、契約の延長が発表された。山下一史は現在の大阪交響楽団をどう見ているのか。またこの先、何をしようとしているのか。就任から3年目のシーズンについて、山下にあんなコトや、こんなコトを聞いてみた。

常任指揮者 山下一史が、大いに語ってくれた (c)ai ueda

●堺に本拠地を置くオーケストラとして、堺市民が誇りに思える活動をしていきます。


――2022年に大阪交響楽団の常任指揮者に就任されましたが、2025年からさらに3年間の契約延長が決まったとお聞きしました。

素直に嬉しいです。元々、大阪交響楽団とはずっと時間をかけて関係を築いて来た訳ではありません。就任の前の年にコロナで来日出来ない外国人指揮者の代役で立った4月定期演奏会(第247回)と3月の依頼公演の感触が良かったということで、常任指揮者に決まりました。その前にご一緒したのは2005年まで遡ります。なので、常任指揮者になってから、1回ずつのコンサートで関係性を深めていくプロセスを踏んできました。この2年間で随分お互いの関係が深まったと思います。今回、3人の指揮者全員の契約更新が決まったことも嬉しかったです。それぞれに特色をもった指揮者ですので、お互いに刺激を貰っています。引き続き現在の指揮者体制で、楽団の実力向上と更なる発展を目指していきます。

3人の指揮者全員の契約更新が決まったことは嬉しかったですね

――これからの3年間で何をやろうと思われていますか。

やはりこれからも、私の原点というべきリヒャルト・シュトラウスの作品を採り上げて行きたいです。今シーズンは、年2回の定期演奏会のうち1回は外山雄三作品を採り上げますが、もう1回はリヒャルト・シュトラウスの組曲「町人貴族」、交響詩「ドン・ファン」、交響詩「死と浄化」を演奏します。それと、4月20日(土)にフェスティバルホールにて行う『関西6オケ!2024』では、歌劇「ばらの騎士」組曲を選曲しました。大阪交響楽団には非常に優秀な大阪響コーラスがあるので、彼らと一緒に、合唱付きの宗教曲なんかが出来るといいですね。ヴェルディ「レクイエム」や、ベートーヴェン「ミサ・ソレムニス」、ブラームス「ドイツ・レクイエム」といった曲は、オーケストラにも合唱団にも大変勉強になると思います。

いずれは、大阪響コーラスと一緒に、合唱付きの宗教曲を演奏したいです   写真提供:大阪交響楽団

――昨年の今頃、大阪交響楽団は、堺に本拠地を置くオーケストラとして、堺市民が誇りに思えるような活動をしていくと熱く語っておられました。

そうですね。私は現在、千葉交響楽団の音楽監督をやっています。街とオーケストラの関りについて、色々と経験して来て、私なりの考えもあります。今回、スケジュールが上手く調整出来て、3人の指揮者で堺市の永藤英機市長とお会いする事が出来ました。大阪交響楽団の活動については理解を頂いているようなので、これからも堺市、堺市文化振興財団としっかりと連携しながら、地域に根差したオーケストラ活動をやっていこうと思いました。6月15日(土)の『フェニーチェ堺名曲シリーズ』​には永藤市長にお越しいただきたいです。

フェニーチェ堺でリハーサル中の大阪交響楽団  写真提供:大阪交響楽団

――『フェニーチェ堺名曲シリーズ』も昨年に続いて第2回が決まったそうですね。

そうなんです。堺にこれだけ立派なホールがある事をまだまだご存知無い方が沢山いらっしゃいます。ホールの素晴らしさと、そのホールを本拠地としている大阪交響楽団をしっかりアピールする意味でも、「フェニーチェ堺名曲シリーズ」を継続していく必要があります。昨年の実績を評価いただいて今年2回目が決まりました。ピアノ独奏に人気と実力を兼ね備えた牛田智大さんをお迎えします。

『フェニーチェ堺名曲シリーズ』をよろしくお願いします

――プログラムを教えてください。

シューマンのピアノ協奏曲とチャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」という名曲プログラムです。牛田さんの人気もあって、チケットの初動は上々。フェニーチェ堺の響きは、ザ・シンフォニーホールとはまた違った魅力があります。ぜひ満席のお客様にお越し頂きたいです。

ピアニスト 牛田智大 (c)Ariga Terasawa

●名誉指揮者 外山先生の功績を伝えていく役割が僕にはあると思うのです。


――4月定期演奏会(第271回)が目前に迫っております。ここでは昨年7月に亡くなられた大阪交響楽団名誉指揮者 外山雄三さんを偲んで、外山さんの作品だけを演奏されると聞いています。

そうです。現役最高齢指揮者 外山雄三先生が名誉指揮者として熱く指導されていたオーケストラですので、その楽団の常任指揮者として僕には先生の作品を指揮する責任があると思うのです。指揮者としての先生は皆様ご存知ですが、作曲家としての先生の側面も皆様に知って頂こうと思い、先生の作品だけを並べた演奏会をやります。

名誉指揮者 外山雄三先生のオーケストラ作品の魅力をお届けします

――確かに外山さんが最後にポジションを持って、厳しく指導されていたのは大阪交響楽団です。山下さんとしては自分がやらないと! という思いなのですね。

先生とはご一緒したことはありませんが、微妙にすれ違ってきています。先生が仙台フィル(仙台フィルハーモニー管弦楽団)の音楽監督を離れられたタイミングで、私が指揮者に就任しました。大阪交響楽団でも先生の後に現在のポジションを頂きました。先生と師弟関係がある訳ではありませんし、それほど語れる思い出もありません。1982年に、民音の指揮コンクール(現在の『東京国際指揮者コンクール』)で、ブラームスの3番のシンフォニーの第1楽章を指揮した後に、外山先生が「良かったよ」と褒めてくださいました。厳しい先生として有名だったので、嬉しかったですね。

常任指揮者 山下一史と名誉指揮者 外山雄三  写真提供:大阪交響楽団

――外山さんが亡くなられた後に、ご自宅まで弔問に行かれたそうですね。

はい。先生の八ヶ岳のご自宅まで赤穂事務局長と伺いました。「主人のデスクは亡くなった時のまま手を付けていないんですよ」と奥様が仰ったのですが、デスクの上にブラームスの「ドイツ・レクイエム」のスコアが、最終曲「主にあって逝く死者は幸せだ」の頁が開いた状態で置かれていました。特に指揮の予定は無かったようですが。実は先生はクリスチャンです。奥様が仰った言葉に心を打たれました。「主人はいつもこのダイニングの一番端の席に座るので、もっと真ん中に座れば? と言うと、ここが良いと言っていたのです。亡くなった後、その席に座って判りました。その席からだと、ちょうど目線の先に十字架が見えるのです。主人はいつも、部屋の真ん中に置かれている十字架を見て過ごしていたのですね」と。八ヶ岳からの戻りの列車の中で、外山先生の作品だけに特化した定期演奏会をやろうと、赤穂事務局長と話し合いました。

名誉指揮者 外山雄三 (c)飯島隆

――外山さんのヴァイオリンコンチェルトは、首席ソロコンサートマスターの森下幸路さんがソリストを務められます。

森下さんは外山先生のコンチェルトは何度も弾かれていますから心強いです。私と森下さんの付き合いは古いですよ。いろんなオーケストラでゲストコンマスとして弾いて貰っていますし、大阪交響楽団でも森下さんには随分助けて貰っています。森下さんは外山先生の信認も厚いですし、一緒に先生の作品に取り組めて嬉しいです。この演奏会では森下さんはソリストですので、楽団のコンマスは林七奈さんにお願いしています。林さんはこれまでの実績を買われて、4月からは楽団のソロコンサートマスターに就任されて、一層厚い体制になります。

首席ソロコンサートマスター 森下幸路 (c)mick park

――外山さんのオーケストラ作品の特徴は?

外山作品で演奏会をやろうと決めて、かなり集中して先生の作品を聴き込みました。それまで、私もご多分に漏れず「管弦楽のためのラプソディ」くらいしか存じ上げなかったのですが、聴き込んでいって感じたのは、1960年代に書かれた作品が最も充実していて、生気に満ちているということ。特徴としては、どこか懐かしい和の旋律とリズムですね。外山節というと陳腐になりますが、独特の世界観があります。大阪交響楽団は外山先生の指揮で何曲か自作自演をされていますが、今回演奏する4曲の内、ヴァイオリン協奏曲第2番以外はオーケストラも私も、初めて演奏します。どうぞご期待ください。

名誉指揮者 外山雄三 (c)K.Miura

――名曲コンサートとしては、ピアニストの菊池洋子さんと現在進行中のプロジェクト、『菊池洋子の“ベートーヴェン協奏曲チクルス”Vol.2』が8月10日(土)に行われます。

5曲あるベートーヴェンのピアノ協奏曲に加え、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲をベートーヴェン自身がピアノ用に編曲した作品も加えた、全6曲を3年間で演奏しようという大きなプロジェクトです。演奏はライブ録音されます。『チクルスVol.1』は昨年の『第128回名曲コンサート』として行われ、ピアノ協奏曲第3番と第4番を演奏しました。菊池洋子さんのピアノは素晴らしいの一言。かなり勉強されているようで、カデンツァはその片鱗が見えました。第3番はライネッケのカデンツァを、第4番の第1楽章はベートーヴェン、第3楽章はブラームスのモノを選ばれるといった具合に、聴衆に向けたサービス精神も素敵でした。この時のCDはキングインターナショナルから発売されています。今回は、ベートーヴェン青年期の名曲第2番と、演奏機会の少ないヴァイオリン協奏曲のピアノ編曲版を、「献堂式」序曲と合わせてお聴き頂きます。

ピアニスト 菊池洋子 (c)Yuji Hori

●巨匠クラスの指揮者が次々といなくなり、寂しくなります。


――昨年、外山さんに続き飯守泰次郎さん、そして今年になって小澤征爾さんが亡くなられました。そして井上道義さんが今年いっぱいで引退されます。巨匠クラスの指揮者が次々といなくなりますね。

そうですね。現役最高齢指揮者だった外山先生(92歳没)に次いで、小澤征爾さん(88歳没)がお亡くなりになりました。それによって昨年亡くなられた飯守泰次郎さん(82歳没)の同世代の、秋山和慶さん(83歳)、小林研一郎さん(83歳)が現在ご活躍されている指揮者としては一番上の世代となります。その下だと尾高忠明さん(76歳)、井上道義さん(77歳 2024年で引退)、少し下に小泉和裕さん(74歳)です。その下は、高関健さん(68歳)、大植英次さん(67歳)、大友直人さん(65歳)、広上淳一さん(65歳)、大野和士さん(64歳)。そして佐渡裕さん(63歳)と私が同い歳で、一つ下が藤岡幸夫さん(61歳)、二つ下が飯森範親さん(60歳)と続いていきます。​

常任指揮者 山下一史 (c)飯島隆

――山下さんもその世代ですね。小澤征爾さんと直接の関係はお有りでしたか。

もちろん。同じ桐朋学園ですからね。私は指揮科ではなく、チェロ科でした。指揮は副科でしたが、桐朋は副科も本科と同じ扱いで選抜オケにも同じ条件で参加出来たので、オーディションを受けて指揮をさせて頂きました。小澤さんのレッスンは選ばれた者だけが受けられるのですが、それも受ける事が出来ました。大学を出てすぐにドイツに渡りましたが、小澤さんがレールを敷いてくださっていることを色々の所で実感しました。世界中のメジャーオーケストラを指揮されて、世界に齋藤メソッドというモノを深化させられたと思います。また、ご自分で聴かれたワールドクラスのオーケストラの音を、我々後輩をはじめ下の世代に教えてくださいました。私も小澤さんの偉業をしっかり下の世代に伝えていかなければと思っています。

小澤さんの偉業は、しっかり下の世代に伝えていかなければと思っています

――小澤征爾さんはヘルベルト・フォン・カラヤンのお弟子さんですが、山下さんもカラヤンのアシスタントを務めておられました。

カラヤン先生が亡くなって35年が経過しましたが、現在のようにオーケストラのポストを頂くようになると、カラヤン先生が仰っていた意味が分かります。「カラヤンは暴君だ!」みたいなことを聞きますが、先生はとてもオーケストラを尊重されていました。「オーケストラはドライブするものではない。キャリーしなさい!」は、常に言われていました。古くからのベルリンフィルのメンバーは「カラヤンがいちばん私たちを自由にしてくれた」と言っていました。カラヤン先生も小澤征爾さんも、強引にオーケストラに言うことをきかせている訳でありません。彼らは吸い付けられるように、指揮者の思い通りにしてしまう。催眠術のように。現在、東京藝術大学で教えていますが、貴重な経験をして来たと思います。曲の解釈は指揮者にゆだねられます。私は「指揮者がやりたいことをオーケストラに伝えるためには、その技術より、この技術の方が適している」といったことはレッスンで教えられますが、「指揮者としてどうあるべきか」は、レッスンで教えられる事ではありません。実戦で経験するしかない。指揮者にとっては楽器がオーケストラです。外の世界に出て、自分で経験することが大事です。

歌心に溢れた大阪交響楽団の演奏を一度お聴き頂きたいです (c)飯島隆

――山下さん、最後にメッセージをお願いします。

常任指揮者に就任して2年。メンバーとのコミュニケーションも図れ、イイ感じで音楽作りが出来ていると思います。現在、個性の違う3人による指揮者体制ですが、共通しているのは3人共にそれぞれのキャリアでオペラとのつながりが深かかった、というところです​。オペラをはじめ、歌モノを演奏する機会は関西では一番多いオーケストラです。歌心に溢れた大阪交響楽団の演奏を一度お聴き頂きたいです。コンサートホールでお待ちしています。

ミュージックパートナー 柴田真郁、常任指揮者 山下一史、首席客演指揮者 髙橋直史(左より)

『第271回定期演奏会』で外山雄三のヴァイオリン協奏曲第2番を、ソリストとして演奏する首席ソロコンサートマスターの森下幸路からのメッセージをご覧いただこう。

「音楽作品は時空越えて永遠であるとよく言われますが、それを実感しています。外山雄三マエストロと共演した想い出、習ったことは計り知れませんが、書いてくださった「楽譜」は僕の礎です。先生は楽譜に忠実であれ、といつもおっしゃっていました。フレーズ(旋律やモチーフ)を決して端折らずに演奏しなさい! 今でも天国から厳しいアドバイスが聞こえてきます。 演奏するにあたり、外山先生とのご縁、作品に最大の感謝の気持ちを込め、弛まず演奏家としてこの想いを伝えていきたいです」

今シーズンも、大阪交響楽団をよろしくお願いします   (C)飯島隆

取材・文 = 磯島浩彰

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