植物観察の楽しみが一気に広がる!樹木医・櫻井健太さんに伺う花が咲く前の「つぼみ」の世界
植物は、開花に注目が集まりがちだが、花が咲く直前の「つぼみ」もとてもかわいらしい。樹木医・櫻井健太さんは、植物の「つぼみ」の写真を撮り続けている。
櫻井健太さん
植物の魅力を伝えようと植物の写真を撮り続けた結果、花の写真だけではなく、咲く前のつぼみの姿や花の裏側のガクの部分、花が終わって崩れかけている姿、色づく前の実など、誰も注目しないであろう部分にフォーカスを当てることが楽しくなってしまった。
和菓子みたいでかわいい!
「つぼみの写真を撮り始めたのは2020年頃です。世田谷区の羽根木公園に梅の花の写真を撮りに行ったら、少し時期が早く、あまり開花していませんでした。
他になにか撮れるものはないかなと思って見つけたのが、つぼみでした。それまで全く気にしていませんでしたが、コロコロして和菓子みたいな姿形のつぼみは、すごくかわいい!と目を奪われて。
そこから、花だけではなくつぼみの写真も撮るようになりました」
自然の造形美が詰まっている
ひとくちにつぼみと言っても、その姿かたちは多種多様。中でも櫻井さんのお気に入りは、乙女椿のつぼみだ。
「 “自然”とは一見、対称性がなく不規則に思えますが、分解していくと実はルールに基づいているものがたくさんあります。
乙女椿のつぼみには、実は花びらの配列にフィボナッチ数列に基づく規則性が潜んでいます。矛盾していますが、“自然の中の不自然さ”を感じるんです。
こうした造形美も、つぼみの魅力です」
さらに、花だけでなくつぼみも楽しめるようになると、植物の観察時期は一気に広がる。
「花が有名な公園に、開花時期の初期に行けば、花だけでなくつぼみの状態も見ることができます。つぼみも楽しめるようになると、たとえ花が咲いていなかったとしても『つぼみを見られた!』とうれしくなりますよね。小石川植物園のように樹名板が設置されている場所だと品種が分かるので、観察にもってこいです」
「つぼみを見る時は、花が八重咲きなのか一重咲きなのか意識してみてください。
例えばヤマブキは、花びらが重なる八重咲きだとつぼみが丸いですが、一重咲きのものは先端が尖って、ジェラートみたいな形をしている。
咲き方に注目すると、徐々につぼみの違いも見えてきます」
つぼみは、植物のダイナミックな変化の現れ
現在は造園会社で資材販売・公園設計に携わる櫻井さん。植物に興味を持つきっかけを尋ねた。
「実は小さい頃は植物にまったく興味がなく、ケヤキとツバキの違いも分からないくらいでした。もともと自然豊かな場所で育って、虫が好きだったので、大学時代は農学部で昆虫の研究をしました。
植物に興味を持ったのは、大学で受講した植物の授業がきっかけです。樹木の葉っぱには互生(ごせい)や対生(たいせい)などさまざまな付き方があると教えてもらうと、街の景色が全く違って見えたんです。
『樹木を見る』という意識であらためて街を見ると、なんて面白いものに囲まれているんだろうと気づきました。植物はどこへ行っても植えられているし生えています。その土地ならではの植物を見られるので、退屈することがない。
もっと植物を深く学びたいと思って、大学院では植物の研究をしました。在学中に樹木医の資格も取得しました」
つぼみ観察は、植物を新たな目線で探究する入り口にもなった。
「つぼみは、植物の変化がダイナミックに観察できる段階。つぼみを気にすることで、枯れた後どういうふうに実がなるのかといったことにも興味が湧くようになりました。
植物は一見動かないように見えても変化しているということが分かると、さらに植物観察が面白くなりました」
見ごたえある写真とわかりやすい言葉で、植物の面白さを日々発信する、櫻井さん。その背後には、地球環境への思いがある。
「最終的には、地球環境問題に対して何かしら貢献したいと思っています。そのためには、自然にもっと興味を持つ人を増やさなければなりません。
つぼみは『かわいい』という引きがあるのが魅力です。まだ世の中に気づかれていない植物の魅力に、僕ができれば最初に気づいて、みんなに伝えていくということを軸に、今後も活動を続けていきたいです」
取材・構成=村田あやこ ※記事内の写真はすべて櫻井健太さん提供
『散歩の達人』2025年11月号より
村田 あやこ
路上園芸鑑賞家/ライター
福岡生まれ。街角の園芸活動や植物に魅了され、「路上園芸学会」を名乗り撮影・記録。書籍やウェブマガジンへのコラム寄稿やイベントなどを通し、魅力の発信を続ける。著書に『たのしい路上園芸観察』(グラフィック社)。寄稿書籍に『街角図鑑』『街角図鑑 街と境界編』(ともに三土たつお編著/実業之日本社)。