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副業公務員どこまで許せる? 東京都職員が副業で別会社の理事就任「これってあり?」

新しい働き方メディア

「2024年1月から、東京都の職員と並行して、一般社団法人公民共創サードプレイス推進機構の理事として正式に副業をスタートしました」という一通のメールを受け取った。すぐに、都庁職員でシンガーソングライターとしても活動している人物を思い出した。

【写真】都庁を背にする副業公務員・磯部健太さん

以前、webメディア I amで彼の記事を掲載したことあった。今度は一般社団法人の理事で役員報酬を得ているという。しかも副業は東京都公認。早々にコンタクトを取った。都庁隣の新宿西口公園のスターバックスで桜吹雪が舞う中、磯部健太さん(39歳)に話を聞いた。

作家や講演活動はあっても、役員報酬の副業は初のケース

日本の首都・東京。小池百合子率いる東京都政の中枢・都庁は、出先機関も含め約3万人の職員、28局からなる日本最大の地方自治体だ。新宿新都心にそびえる都庁には約1万人以上が勤務する。東京都政策企画局・戦略広報部報道課に在籍する磯部健太さんは首から職員カードをぶら下げて「時間有給を取りました」と現れた。

実は副業職員は少なくはない。「本の執筆、講演会などで副業をしている人は意外と多いんですよ。でも、社団法人の理事として役員報酬を受け取る副業が認められたのは初めてのケースだと思います」と磯部さん。

都民としては気になる本業への影響

しかし、ここで税金を納める都民として真っ先に浮かんだのが「東京都民の税金で成り立っている都政に勤める職員が副業? しかも理事で役員報酬?」という半分やっかみだった。「本業をおろそかにするのではないか」疑惑は、上司や同僚だけでなく、血税を払う都民全員の共通認識だろう。

そこで気になるのは

1.なぜ、社団法人の理事になることができたのか

2.なぜ、有償での副業が都で認められたのか

3.本業である地方公務員としての業務に支障はないのか

この3点だ。

磯部さんは、大学卒業後、宮城県の民間企業に就職。「1年半、製薬会社で薬を売ってました。いわゆる薬箱を各家庭に売っていたんです」と磯部さんは笑顔で話す。製薬会社での営業経験を経て25歳で東京都の職員に採用された。地方自治体では2〜3年で部署を異動になるのが通例で、磯部さんも例に漏れずさまざまな部局で働くことになる。

コロナ、報道担当で仕事以外何もできない日々

そして2019年、34歳で配属されたのが都の長期計画を担う局は「仕事以外、何もできないくらいに忙しかった」という。直後に起こった新型コロナウイルスのパンデミック。磯部さんは2021年に戦略広報部の報道課へと異動になった。

毎日定時に発表される東京都の新型コロナウイルスの感染者数。また「3密」「ウィズコロナ」が記憶に残る小池百合子都知事の記者会見などを一手に引き受けていたのが、この部署だ。記者会見の手配、会場の手配はもちろん、メディアとのやりとり、小池知事の動線確認。

激務が続く中、「自分の好きな歌でバランス」を取ろうと考えた磯部さん。シンガーソングライターとして活動を始める。自分で歌を作って配信したり、口コミでベンチャー企業から会社のテーマソングを作ってほしいと言われるも、東京都では音楽での副業が禁止のためお金をもらうことはできなかった。

それでも「大好きな音楽で誰かの役にてたり、喜んでもらえるのであればと思って、無料で引き受けていました」と言う。この頃からマーケティングの勉強を始めたと言う。

一方で仕事は相変わらず忙しい日々が続く。戦略広報部の業務は、都全28局のプレスリリースをすべてチェックし報道機関やさまざまなメディアに配信することだ。

ずっとこんな働き方でいいのか?と自問

「都が年間に配信するプレスリリースはざっと6〜7千件です。それを約10人体制ですべてチェックして、修正点を各局にフィードバックするんです」

プレスリリースとは、例えばイベントを開催するときに多くの人に知ってもらうために、メディアに取り上げてもらうための資料だ。いくら東京都といってニュース性や面白みがなければリリースはスルーされる。するとイベントに人が集まらず失敗に終わってしまう。これを防ぐためにはいかにメディアに取り上げてもらって多くの都民に告知できるかが重要になる。そのリリース配信を一手に引き受けるのが磯部さんの部署ということになる。

歌の活動をきっかけにマーケティングの勉強をしていたこともあり、リリース作成は得意分野でもあった。マーケティングの知識を仕事に活かしながら、「もっとマーケティングのスキルを磨きたい」と思うようになった。同時に「このままの働き方でいいのだろうか」と自問自答し始めたと言う。

地方公務員がなぜ別組織の理事に就任?

そんな時に出会った、一般社団法人公民共創サードプレイス推進機構。ここは地方自治体と企業をマッチングすることで地方行政を活性化することを目的としている。都の職員としての自分の仕事とも親和性があると考え「マーケティングのお手伝いをしたい」と自らプロボノを申し出たのだ。プロボノとは専門知識を有するものがボランティアで活動することだ。

平日の夜、土日に「これまで勉強してきたマーケティングの知識をフル稼働させてプレゼン資料を作ったんです」。それが功を奏して、理事として手伝ってくれないかとオファーを受けることに。

ここでふと立ち止まる。「このまま無償でやり続けるべきか」と。もちろん自分のマーケティングの知識が誰かの役に立つのは、やりがいがある。しかし音楽活動でもずっと無償で楽曲提供をしてきた。

出した結論は「やるなら有償で責任を持ってやりたい」だった。「金額の多い、少ないではなく、働いた分はちゃんとお金がほしいと思ったんです」と磯部さんは明かす。社団法人とも話し合い、有償で理事になることを取り付けた。しかし問題は東京都の説得だった。

申請から許可までは時間がかかった

先にも述べたように、都職員でも副業をしている人は意外といる。しかし、社団法人とはいえ、理事で有償となるとハードルはぐんと上がる。

まず磯部さんは人事部に相談に行った。もちろんすんなり申請が通るはずはなかった。その理由は「前例がない」ゆえに「精査が必要」というもの。結果、認められるまでに時間を要した。

副業のせいでと言われない工夫

そんな磯部さんが徹底的に心掛けたのが「副業をしているから、本業がおろそかになっている」と言われないこと。そのために心掛けているのが、

1.業務の効率化

2.無駄な残業をしない

3.部下に残業をさせない

この3つを徹底しているという。しかし本当に副業によって業務に支障がないのか?

磯部さんが副業を始めたのが2024年の1月。そして1年に一度の業務査定が3月にあった。地方公務員も会社員同様、昇給や賞与については考課が行われるのだ。「実は副業を始めた後にも関わらず、評価が普通よりよかったんです」と顔をほころばせた。

今、徐々に公務員にも副業への道が開かれている。地方公務員は公務員の約8割を占め、地方行政において地域サービスを担う重要な役割を持つだけに、その意義や責任は非常に大きい。しかし地方公務員も一個人であり、それぞれの生き方や仕事のやりがいを抱えている。磯部さんのケースは、地方公務員の副業への大きなきっかけになったのではないだろうか。

*2024年4月からは東京都政策企画局の企画・計理に関わる総務部に異動となりました。

取材・文/長谷川恵子

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