【東京・神宮前】太田記念美術館『歌川広景 お笑い江戸名所』開催!謎の絵師が生み出した、笑える浮世絵とは?
江戸時代の浮世絵師、歌川広景を知っていますか?「歌川広」とあると、どうしても「広重(ひろしげ)」を連想しがちですが、広重ではなく「広景(ひろかげ)」。歌川広重の門人として活動したと言われる人物です。 この歌川広景の代表作、「江戸名所道戯尽」全50点などを公開する展覧会が、 東京・神宮前の太田記念美術館にて開催されます。謎の浮世絵師、歌川広景とは?見どころをご紹介します。
生没年不詳、専門家でも正体が分からない謎の絵師。
まず歌川広景とはどのような人物なのでしょうか。実のところ生没年は不詳、生家や家族などを記した資料もなく、その正体は専門家でもよく分かっていません。
また活動した期間も3年弱と短く、現在、確認されている作品は65点あまり。すべて大判の錦絵で、肉筆画や摺物などについては未だ発見されていません。
そうした広景の代表作とされるのが、「江戸名所道戯尽」全50点です。歌川広重の「名所江戸百景」と同じく幕末の江戸の名所を舞台としていますが、広景の作品は「お笑い江戸名所」シリーズとも言えるもの。野良犬に魚を盗まれたり、蕎麦を頭からかぶったり、タヌキやキツネに化かされたりと、江戸っ子たちの日々の暮らしに起きた笑いのハプニングがユーモラスに描かれています。
代表作「江戸名所道戯尽」の見どころとは?
「江戸名所道外尽 壹 日本橋の朝市」は、北詰に魚市場の立ち並んでいた日本橋にて、野良犬が魚売りの隙をつき、たらいの中から魚を盗み出す光景を描いた一枚です。彫物の入った魚売りが凄まじい険相で野良犬を追っかけていますが、すでに手遅れなのか、野良犬は獲物をくわえ、どこか得意げな表情で逃げているようにも見えます。
増上寺の南側を流れる渋谷川に架かっていた赤羽橋を舞台とした「江戸名所道戯尽 十四 芝赤羽はしの雪中」も、ハプニングの一瞬を見事に捉えた作品です。
雪の積もった橋を渡ろうとした男性が滑らせ、勢いよく尻もちをつくと、その衝撃で下駄が外れて飛び、前を歩いていた人物の顎に命中。痛みと驚きが入り混じる瞬間が生き生きと描かれています。しかし転倒した男性には呑気な笑みも浮かんでいて、見る者の笑いを誘うのです。日常の失敗が悲劇ではなく、喜劇として表現されているようにも思えないでしょうか。
笑いと言えば「江戸名所道化尽 九 湯嶋天神の台」も面白い一枚です。蕎麦屋が出前の最中、野良犬に足を噛まれてしまい、蕎麦をひっくり返してしまいますが、あろうことか隣を歩いていた武士の頭に蕎麦が被ってしまいます。
当然ながら武士は不愉快な表情をしていますが、何故か供の者はその姿を見て、指さしながら口を開けて大笑い。何とも楽しそうな様子を見せています。
広重の「名所江戸百景」を意識して制作。作品の一部をトレースも。
歌川広重の「名所江戸百景」が制作されたのは、1856年2月から1858年の10月、数え60〜62歳の頃でした。しかし1858年9月に病気で世を去った広重は、全点の刊行を見ることはなかったと言われています。一方、広景の「江戸名所道戯尽」が刊行されたのは、広重の最後の刊行が終わってから僅か3ヶ月後。よって広景が広重の作品を意識していたことは十分に考えられます。
また構図や描写においても、広景は広重作品の一部をトレース。基本的なレイアウトも一致している上、落款についても広景は広重の筆跡をかなり模倣しているとされています。現代の観点からすれば盗作とも受け止められかねませんが、そもそも江戸時代の浮世絵師は、他の浮世絵師の作品を模倣することに対し、さほどタブーの意識はなかったようです。
二代歌川広重の作品20点も同時に公開!
太田記念美術館では、2017年以来、8年ぶりに「江戸名所道戯尽」全50点を一挙に公開。同館のSNSに投稿されて話題となった作品から、まだ知られていないレアな作品まで、広景のユーモラスな世界を思う存分に堪能できます。
さらに広重のもう一人の弟子である二代歌川広重の作品20点も同時に公開し、広重一門の多彩な世界を味わえる貴重な機会が実現します。
どのような人物であるか、その正体も定かではないものの、時代を超えて現代の私たちの心をとらえてやまない歌川広景の「江戸名所道戯尽」。あなたも『お笑い江戸名所』で、江戸の人々が見た風景と笑いのセンスに触れ、浮世絵のもう一つの魅力を再発見してみてはいかがでしょうか。
※参考文献:「ヘンな浮世絵 歌川広景のお笑い江戸名所」 コロナ・ブックス(平凡社) 監修:太田記念美術館、著:日野原 健司
展覧会情報
『歌川広景 お笑い江戸名所』 太田記念美術館
開催期間:2025年11月14日(金)〜12月14日(日)
所在地:東京都渋谷区神宮前1-10-10
アクセス:JR山手線 原宿駅(表参道口)より徒歩5分。東京メトロ千代田線・副都心線 明治神宮前駅(5番出口)より徒歩3分。
開館時間:10:30~17:30 ※入館は17時まで
休館日:月曜日(11/24は開館)、11/25
観覧料:一般1000円、大高生700円、中学生以下無料
美術館HP:『歌川広景 お笑い江戸名所』 太田記念美術館