血筋か、才能か?94歳にして現役の〈国宝〉狂言師を追う『六つの顔』ほか“芸を極めし者たち”映画5選
人間国宝=94歳現役の狂言師を追う
人間国宝の狂言師・野村万作を追ったドキュメンタリー映画『六つの顔』が、8月22日(金)よりシネスイッチ銀座、テアトル新宿、YEBISU GARDEN CINEMAほかにて全国順次公開となる。
650年以上にわたり受け継がれ、人々を魅了してきた「狂言」。その第一人者であり、芸歴90年を超える今もなお現役で舞台に立ち続ける人間国宝の狂言師・野村万作。本作は、ある特別な1日の公演に寄り添い、万作が磨き上げてきた珠玉の狂言「川上」と人生の軌跡に迫る。
このたび、万作が人生をかけて到達した芸の境地を映し出した珠玉のドキュメンタリー映画『六つの顔』の公開を記念して、芸を極めし者たちの生き様に迫る映画を5作ピックアップ。社会現象レベルのヒットで話題の“あの映画”と併せて、ぜひチェックしよう。
『六つの顔』
8月22日(金)より全国順次公開
94歳にして現役の狂言師、人間国宝・野村万作が人生をかけて到達した芸の境地
650年以上にわたり、生きとし生ける者の喜怒哀楽を表現し、人々の心を魅了し続けてきた「狂言」。その第一人者であり、94歳の今もなお現役で舞台に立ち続ける人間国宝の狂言師・野村万作は、2023年に文化勲章を受章した。
映画『六つの顔』では、受章記念公演が行われた特別な1日に寄り添いながら、万作の過去と現在の姿を浮かび上がらせる。万作が公演で演じるのは、近年、ライフワークとして取り組み、磨き上げてきた夫婦愛を描く珠玉の狂言「川上」だ。映画では、物語の舞台である奈良の川上村・金剛寺の荘厳な原風景も贅沢に収録。万作が長年追求してきた世界観を、その至芸とともにスクリーンに刻む。
さらには、90 年を超える芸歴のなかで先達たちから受け取り繋いできた想いや、今もなお高みを目指して芸を追求し続ける万作の言葉を収めた貴重なインタビュー映像も交え、息子・野村萬斎や孫・野村裕基をはじめとする次世代の狂言師と共に舞台に立つ模様を、臨場感あふれる映像で映し出す。
日本映画界を代表する製作陣が織りなす、至高のドキュメンタリー
監督は『ジョゼと虎と魚たち』、『のぼうの城』などを手掛け、田中泯を追ったドキュメンタリー『名付けようのない踊り』でも高い評価を受ける犬童一心。また、万作が過去を振り返るなかで心に浮かぶ「六つの顔」を、『頭山』で米アカデミー賞にノミネートされた山村浩二がアニメーションで表現。
さらにナレーションを俳優のオダギリジョーが務めるなど、日本映画界を代表する製作陣が集結。監修は野村万作、野村萬斎が手掛けた。 モノクロームで映し出される「現在」、アニメーションで紡がれる「過去」、そしてカラーで立ち現れる狂言「川上」の研ぎ澄まされた美しさ――。豊かな映像表現で織りなす、至高のドキュメンタリー映画が誕生した。
8月22日(金)よりシネスイッチ銀座、テアトル新宿、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
『国宝』(2025年)上映中
任侠の一門に生まれながらも、歌舞伎役者として芸の道に人生を捧げ、後に国宝となる男の激動の人生を描いた壮大な一代記。
主人公の喜久雄は、抗争によって父を亡くした後、上方歌舞伎の名門の当主・花井半二郎に引き取られ、歌舞伎の世界へ飛び込む。そこで、半二郎の実の息子として、生まれながらに将来を約束された俊介と出会う。生い立ちも才能も異なる二人。ライバルとして互いに高め合い、芸に青春をささげていくのだが、多くの出会いと別れが、運命の歯車を大きく狂わせてゆく――。
小説家・吉田修一自身が3年間歌舞伎の黒衣を纏い、楽屋に入った経験を血肉にし、書き上げた渾身作を、『悪人』『怒り』に続いて李相日監督が映画化。喜久雄を演じた吉沢亮は、歌舞伎の稽古に1年半もかけて役作りを行なった。
『書かれた顔』(1995年)配信中
当代きっての歌舞伎役者で、誰もが知る女形のスター坂東玉三郎。1980年代、退廃的な映像美で世界中に熱狂的なファンを生んだ、スイスの映画監督ダニエル・シュミットが、女形という特異な存在を通して、ジェンダー、生と死、そしてフィクションとドキュメンタリーの境界線上に、虚構としての日本の伝統的女性像を浮かびあがらせる。
「鷺娘」「大蛇」「積恋雪関扉」を演じる玉三郎の美しい舞台映像。そして、撮影後ほどなくしてこの世を去った女優・杉村春子、日本舞踊家の武原はんの語りや、舞踏家・大野一雄の荘厳な舞踏など、20世紀末日本の黄昏に消えゆくレジェンドたちの“最後の姿”を捉えた貴重な記録。本作に挿入されるフィクションパート「黄昏芸者情話(トワイライト・ゲイシャ・ストーリー)」では青山真治が助監督を務めている。
『FOUJITA』(2015年)配信中
エコール・ド・パリの寵児として世界的に活躍した画家・藤田嗣治の半生を描いた、日本・フランス合作映画。
1920年代、「乳白色の肌」で裸婦を描き、エコール・ド・パリの寵児となっていたフジタ。戦争を機に日本に戻り、数多くの「戦争協力画」を描いて日本美術界の重鎮に上りつめていく。5番目の妻である君代と疎開の村で敗戦を迎えることになるが――。
パリと日本、戦前と戦後。フジタは二つの文化と時代を、どう超えようとしたのか。フジタの知られざる世界を静謐な映像美で描く。フジタを演じるのは、『六つの顔』でナレーションを務めたオダギリジョー。監督は、アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた『泥の河』や、カンヌ国際映画祭審査員グランプリを受賞した『死の棘』の小栗康平。
『名付けようのない踊り』(2022年)配信中
世界的なダンサーとして活躍する田中泯の踊りと生き様を追ったドキュメンタリ−。1978年にパリでデビューを果たし、世界中のアーティストと数々のコラボレーションを実現してきた田中泯。映画『たそがれ清兵衛』(02年)から始まった映像作品への参加も、いまや日本のみならず、ハリウッド映画にも出演するまで広がっている。
独自の存在であり続ける田中泯のダンスを、『メゾン・ド・ヒミコ』(05年)への出演以来、親交を重ねてきた犬童一心監督が、ポルトガル、パリ、東京、福島など各地をめぐり撮影。さらに、アカデミー賞ノミネート作品『頭山』の山村浩二によるアニメーションと上野耕路の音楽が加わり、田中泯の生き様が紐解かれる。
犬童監督、山村浩二、上野耕路は、『六つの顔』で再集結。ぜひ併せて鑑賞しよう。