【商店街時計店の変態的情熱】第1回「時計は人生の伴侶」高知の正美堂時計店専務・合田さんが語る“時計”との付き合い方
「時計って、オーダーメイドで作れるって知ってましたか?」
高知市帯屋町商店街にある昭和44年創業の「正美堂時計店」の専務、合田圭四郎さんは、そんな言葉から話を始めてくれた。
創業50年以上を誇るこの時計店。
全国からわざわざこの店を目指して訪れる人が後を絶たないのは、合田さんという人物の“時計”に対する哲学が、どこか人を惹きつけるからだろう。
時計が“ただの時間を知る道具”ではない理由
現代人の多くがスマートウォッチやスマホで時間を確認する時代。腕時計をあえて身に着ける人は減ってきている。そんな中で合田さんは、こう言う。
「スマートウォッチしか関心がない人にとっては、うちの店は関係ないかもしれません。でもね、時計って機能だけじゃなく、“その人の人格や性格”が出るんです」
時計にはTPOやセンスが宿る。派手な時計、地味な時計、古びた時計――それぞれの選択がその人自身を語っているという。
「時計にはその人がどういう“時間”を大切にしているかが出る。時間の過ごし方に価値を感じられない人には、時計は必要ないんじゃないですかね」
「持っていたけど、今はしていない人」にこそ
合田さんの店を訪れる人たちは様々。
これまで、いろいろな時計をつけてきたけれど、自分が求める究極の時計を作りたいという人、人生で初のオーダーメイドの時計を作ってみたいという人、そして、かつて時計をしていたけれど今はしていないという人。
「いまも時計をつけている人は、こだわりのある方が多いです。オーダーメイドの時計を作りたいという方は、“時計を持つ価値”を感じていらっしゃるんでしょうね。」
「時計=時間を知るためのもの」という機能主義から、「時計=自分を映す鏡」へと視点を変えれば、また違った価値観が見えてくるかもしれない。
「高い時計だけが良い時計」じゃない
「ハイクラスの時計ブランドの価格がどんどんあがっていますが、高い時計だけが良いものなわけではないと考えています。うちの店ではこだわりのある時計を取り扱いたい、価値を知ってほしいという想いで"商売"をしています。その中のひとつであるオリジナルウォッチでは、いろんなパーツを集めて時計を組み立てて、この世にひとつだけのものを作りたい。そして、その価値をもっと知ってほしい…と思ってます。ここまでくると、もはや、ある種“変態”ですね」
そう言って笑う合田さんの“変態”とは、深い愛着やフェティシズムが込められたもの。誕生日や結婚記念日、退職などの節目に贈られる時計は、単なる物ではなく、時間を物語として留める象徴になる。
「うちの店に自分好みの時計を持ち寄って、自慢し合うような(笑)。そんな変な人たちが集まってくる場所にしていきたいですね」
時計を“選ぶ”ではなく“会いに行く”
「うちは、できれば“ちゃんと会って話をして”時計を選んでほしいんです。通販もやってるけど、それだけじゃ伝わらないものがある」
できることなら高知の店で、直接顔を見て、手に取って時計を選んでほしい――そんな思いがある。だからこそ、展示会も年に2回、東京と大阪で開催しているというが、
「是非、高知に変態に会いに来てください(笑)」
時計を通して、人と向き合う
一般的には、時計は何度も買うものではないかもしれない。それがゆえに、「買ってもらってからが本当のお付き合い」だと合田さんは言う。
「修理やメンテナンスって、実はその人との付き合いがずっと続くってことなんです。大手メーカーは部品がなくなったら終わり。でも、うちは違う。純正の部品が無くなっていても、その代わりになるパーツを探し出して、なんとかして直したい。そこには“使命感”があるんですよ」
そう話す合田さんの目は、時計ではなく、その向こう側にいる“人”を見ているようだった。
(第2回に続く)
店舗情報
正美堂時計店
営業時間:11:00~17:45
住所:高知県高知市帯屋町1丁目14-5
HP:正美堂