その数分が命取り 訪問看護、駐車場が見つからない問題
看護師が自宅を訪ねて、体調をみたり、点滴や薬の管理をしたりする「訪問看護」。その拠点となる「訪問看護ステーション」が、先月、全国で初めて2万か所を超えました。10年前のおよそ2倍です。病院ではなく家で療養したいという人がそれだけ増えています。
1分1秒を争うのに、駐禁が気になる
ただ、車で家に向かう看護師たちには「ある共通の悩み」があるようです。滋賀県の「草津市訪問看護ステーション」の倉津有妃さんに聞きました。
社会医療法人誠光会・草津市訪問看護ステーション 倉津有妃さん
私ではないですけど、一緒に来てたケアマネジャーさんが、駐禁を切られてしまった。1分1秒でも早く来てほしいって利用者さんも思いますし、私たちもちょっとでも早く行ってあげたいって思うんですけど、駐車場が近くになかったら、ちょっと遠くに停めないといけないし。でも少しでも早く行ってあげたいから、もう夜中やしいいだろうと思って、路駐をすることもある。「でも駐禁大丈夫かな…」っていうのを考えながら、利用者さんに対応をする。一軒家もマンションもありますし、来客用駐車場って1~2台はあるんですけど、ほかのサービスが使ってたりとか。どこがっていうよりは、全体的に車で行くところにはそういった悩みはつきものなのかなという印象がありますね。
訪問先に駐車場があればいいのですが、家の車で埋まっていたり、停める場所がない家は珍しくありません。コインパーキングも近くにあるとは限りませんし、髪を洗うセットや長靴、点滴の道具…コインパーキングに停めたとしても、大荷物を抱えて歩かなければなりません。
ちなみに、倉津さんは、1日に5軒から6軒を訪問。1軒につき、30分から1時間ほど滞在しますが、やむを得ず家の前に車を停める時は、利用者の家族に、時々外を見てもらうこともあるそうです。現実問題、急変で呼ばれたときには、駐車場を探している場合ではない…。
時間を決めた許可証では、急変に間に合わない
では、引っ越しのトラックと同じように警察に申請して「駐車許可」を取ればいいのでは…と思いますが、これもうまくはいかないようです。この駐車場問題について実態を調査した、日本訪問看護財団の事務局次長、大竹尊典さんに聞きました。
日本訪問看護財団・事務局次長 大竹尊典さん
駐車許可証の制度というもの自体が、「日時を特定しなきゃいけない」。つまり、「今日13時半から、大竹さんの家に訪問をするので、13時半~14時半の間、何丁目何番地、どことこの辺りに駐車をします」というふうに申請しないといけない。ピンポイントで求められるケースがほとんどだったんですが、時間帯とか日時が指定されてしまうと、緊急の時に駐車許可証って適用されないんですよ。ここから3時間後に緊急での呼び出しがあって、それは指定の時間帯じゃないので「違法駐車」になっちゃうんですよ。やっぱり緊急の訪問はいつ呼ばれるのかもわからないですし、そうなった時に許可証は結局出しても意味がないっていうような形になっちゃってたっていうことですよね。
この「駐車許可証」、時間と場所を決めて申請するので急な呼び出しには使えないようです。大竹さんたちの調査では、「駐車場所を探している間に、利用者の状態が悪くなった」という回答が少なくありませんでした。中には、「到着した時には呼吸が止まっていた」というものもありました。
そしてこうした声を受けて、去年7月、全国のルールが見直されています。「駐車禁止除外標章」という札が、看護師の車にも適用されたんです。言葉は難しいですが、駐車禁止の場所でも、取り締まりの対象から外れるというルールの緩和。あらかじめ交付を受けて、緊急訪問の時、フロントガラスに出して使うもので、訪問のたびに時間と場所を申請する必要はありません。
ただし、大竹さんによるとこのカードは実質、一つの事業所につき一枚の運用になっているようで、ルールは緩和されましたが、実態に即していないのではないか、という現場の声もあるようです。
町ぐるみで駐車場をシェア
そうした中で、冒頭の倉津さんが働く滋賀県・草津市では、ほかの地域にはない動きが始まっています。「草津市訪問看護ステーション」の事務課長で、理学療法士の浜田康夫さんです。
社会医療法人誠光会・草津市訪問看護ステーション・事務課長 浜田康夫さん
「じゃあ、なんとかならへんのかな、地域の力で」ということで、空いてる駐車場をシェアできないかと話し合ってくれてた。地区の会長さんたちが「来てくれてはったけど、それ大変やったんや、知らんかったわ」ということで、町内会回って、空いてる駐車場を「貸したれへんか」と声かけ合ってくれて。「うち、車、駐車場4台停めてるんやけど、普段2台しか停めてへんから2台空けれるで」「空き家が出て更地になっちゃった、じゃあここは置いてもらってもいいんじゃないか」。会社とか商店とかコンビニとかにも声かけてもらって、「確約取ってきたからここ使えるで」とか。高齢者の方が増えてきた、病院も施設も足らないとなって、「在宅に、在宅に」と国も進めているので、地域でもそういうのを支えていこうという取り組みをしてくれてあったんです。個人的には僕、実は1日に3枚、切符切られたことありました。3枚ですよ。これ、びっくりしましたけどね。
その名も「地域助け愛応援駐車場」。草津市の社会福祉協議会が中心になって、3年かけて少しずつ広げてきて、現在、市内およそ50か所で駐車スペースが解放されているそうです(およそ700台分!)。
また、近い動きは東京にもあり、八王子市では、市立の小中学校の駐車場を訪問医療や介護の車に開放しています。担当者も「停める場所がないという相談が寄せられていた」と話していましたが、こうした取り組みは、まだ一部の地域に限られています。在宅医療を推し進める国の掛け声に、現場の受け入れ態勢が追いついていないことが見えてきました。
(TBSラジオ『森本毅郎・スタンバイ!』より抜粋)