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獅童×初音ミクの超歌舞伎、集大成にして新たな一歩 松緑の『丸橋忠弥』、獅童×寺島しのぶの『芝浜』で一年を結ぶ~『十二月大歌舞伎』第一部・第二部観劇レポート

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第一部超歌舞伎 Powered by IOWN『世界花結詞』(左より)平井保昌=澤村精四郎、源朝臣頼光=中村獅童、傾城七綾太夫実は将門息女七綾姫=初音ミク

「松竹創業百三十周年」と冠し、多彩な新作歌舞伎から三大義太夫狂言の通し上演まで、幅広いラインナップで賑わいをみせた2025年の歌舞伎座。その1年を結ぶ12月公演『十二月大歌舞伎』が、2025年12月4日(木)に開幕した。第一部と第二部をレポートする。

第一部 午前11時開演

超歌舞伎 Powered by IOWN
世界花結詞(せかいのはなむすぶことのは)

中村獅童と初音ミクによる、伝統と最新技術が融合する舞台を創り出してきた、超歌舞伎。その10周年を祝う演目だ。歌舞伎座の前にはコラボ人力車がお目見えし、場内の売店にはペンライトが並ぶ。初音ミクファンの法被が祝祭感を盛り上げる。

時代は、西で藤原純友、東で平将門が時を同じくして朝廷へ反乱を起こした「承平天慶の乱」から月日が過ぎた頃。雷鳴とともに幕が開くと、盗賊の鬼童丸(中村歌昇)の前に、純友の霊(市川青虎)が現れる。鬼童丸は、実は純友の忘れ形見・藤原元純だったことが明らかに。そして将門の娘・七綾姫(初音ミク)とともに、源頼光を討つよう告げられる。鬼童丸は、蜘雲の化け物の阿闍梨(市川猿弥)、山姥の茨木婆(中村蝶紫)とともに、打倒頼光を誓った。

第一部超歌舞伎 Powered by IOWN『世界花結詞』(上)源朝臣頼光=中村獅童、(下)傾城七綾太夫実は将門息女七綾姫=初音ミク

そこへ盗賊の袴垂保輔(中村獅童)、頼光の弟・頼信(中村種之助)、頼光の家臣・平井保昌(澤村精四郎)、赤姫姿の初音姫(尾上左近)や、奴の萬平(中村獅一)たちが現れる。鐘がゴーンと鳴り「だんまり」に突入する。だんまりは、歌舞伎独特の演出だ。暗闇の中で、敵味方が入り乱れてアイテムを奪い合う、これが始まった時、「古典でよくみる、ゆっくり動くあれだ」と分かった気持ちになっていた。ところが一転。絢爛なロックに「ロミオとシンデレラ」のフレーズが響き、スクリーンにはキャストの名前が映し出される。歌舞伎俳優たちは、古典の様式のまま、だんまりを落とし込んで融合させる。観客を古典歌舞伎の世界に引き込みながら、決して守りに入らない超歌舞伎のマインドを、鮮烈に示すオープニングだった。

第一部超歌舞伎 Powered by IOWN『世界花結詞』(左より)傾城七綾太夫実は将門息女七綾姫=初音ミク、源朝臣頼光=中村獅童、頼光弟源頼信=中村種之助、初音姫実は白鷺の精霊=尾上左近

第一部超歌舞伎 Powered by IOWN『世界花結詞』(左より)袴垂保輔=中村獅童、傾城七綾太夫実は将門息女七綾姫=初音ミク

今勢いのある若手俳優のキャスティングにも注目だ。歌昇は、獅童が勤めた鬼童丸に真正面から向き合い、堂々とした太さと涼し気な眼差しで色気をみせる。種之助の頼信は、高貴な佇まい。白鷺への慈しみと、武将としての芯のつよさを明瞭な台詞回しにのせる。歌昇と種之助という実の兄弟で演じる対決シーンは、客席が緊張感に包まれた。尾上左近が勤めるのは、初音姫実は白鷺の精霊。白鷺の精霊は、超歌舞伎『積思花顔競』でミクが勤めた役と重なるキャラクターだ。満開の桜と常磐津が彩る鬼童丸との『関の扉』のオマージュでは、ふたりの大らかな踊りに、場内の空気も明るくなる。また、左近の超歌舞伎へのまっすぐなリスペクトは、役の心にそのまま通じる。幕外の引っ込みには大きな拍手が起きた。花道を、白鷺の精が懸命に飛翔する姿に胸をうたれた。

第一部超歌舞伎 Powered by IOWN『世界花結詞』(左より)渡辺綱奥方小夜風御前=中村時蔵、袴垂保輔=中村獅童

第一部超歌舞伎 Powered by IOWN『世界花結詞』(左より)卜部季武=中村種之助、坂田公平丸=中村夏幹、碓井貞景丸=中村陽喜、平井保昌=澤村精四郎

劇中には、女流の舞踊家も艶やかに登場。そして緑のペンライトと「初音屋!」の大向うに迎えられ、“翠の御髪の舞姫”、傾城七綾太夫実は将門息女七綾姫(初音ミク)が舞を披露する。ミクだからこそ実現するケレンでは、歌舞伎俳優たちのリアクションが息を吹き込む。獅童との舞は、ヴァーチャルであることを忘れる息のあいよう。芸も技術も進化するほど自然になり、そのすごさが見えにくくなる。美しい映像と、アナログな金棒引きの音が融合した花魁道中の、深い没入感は印象的だった。廓のシーンでは、和泉屋の女将おしき(市川門之助)が頼もしかった。

数々の出番や見どころを、花形俳優たちに託した獅童。それでもなお、存在感は圧倒的だ。源頼光と盗賊の袴垂保輔の2役を演じ分け、一幕目の幕切れには古典の演出で、観客に絶景をみせる。中村時蔵の渡辺綱奥方小夜風御前が、古典の空気と華やかさを濃厚にする。そして獅童の保輔と精四郎の平井保昌の対峙は、竹本の義太夫が重厚に語り、熱い涙を誘った。迎えたクライマックスでは、端正な顔立ちの碓井貞景丸(中村陽喜)、赤っ面で元気いっぱいの坂田公平丸(中村夏幹)も活躍。広い舞台をところ狭しと蜘蛛四天たちのアクションが畳みかけ、立廻りも展開し、盛り上がり続けた。

第一部超歌舞伎 Powered by IOWN『世界花結詞』(左より)伊予掾藤原純友の霊=市川青虎、坂田公平丸=中村夏幹、源朝臣頼光=中村獅童、碓井貞景丸=中村陽喜、白鷺の精霊=尾上左近、卜部季武=中村種之助、和泉屋女将おしき=市川門之助

第一部超歌舞伎 Powered by IOWN『世界花結詞』フィナーレの様子

これまでに上演された超歌舞伎の作品の、印象的なシーンを再構成した通し狂言となっている。まるで昔から通し狂言『世界花結詞』があり、派生して数々の“超歌舞伎物”ができたかのようだった。超歌舞伎には、もともと古典歌舞伎のオマージュがふんだんに織り込まれているため、ミクファンや歌舞伎ファンは、幾重もの既視感を楽しめるはず。カーテンコールでは客席がスタンディング状態に。ペンライト一つひとつの光が無数の線になり、舞台も客席もすべてを繋げる。幕切れには客席も含めた、大きな絵面の見得となっていた。熱い喝采でアンコールへ。キャスト皆が集まった大団円の拍手の合間に、「これが超歌舞伎!」と獅童。最高潮の熱気のまま終幕へ。最新技術をとりいれた超新作歌舞伎でありながら、その作風は重厚な超古典であり、まさに“超”歌舞伎だった。

第二部 午後2時45分開演

一、丸橋忠弥(まるばしちゅうや)

江戸時代のはじめに、幕府転覆を狙い由井正雪一味が企てた「慶安の変」。これを題材にした講談を、河竹黙阿弥が脚色した。このたびは尾上松緑の丸橋忠弥に、竹柴潤一の補綴、西森英行の演出で、新たな『丸橋忠弥』となる。

第二部『丸橋忠弥』丸橋忠弥=尾上松緑

はじまりは江戸城のお堀端。茶屋で中間たちが酒を飲んでいると、酔っ払いがやってくる。揚幕から、ドタドタ足音を響かせて千鳥足で七三へ。酒好きらしい台詞は、聞いているだけで、こちらもほろ酔い気分になるが「飲まずには、いられぬわい」の一言に、ほのかな苦みを覚えた。この酔っ払いが、実は槍の名人であり幕府転覆を目論む一味の、丸橋忠弥(尾上松緑)だった。

周りの目を欺くため、わざと飲んだくれのふりをしているらしい。舅の弓師藤四郎(河原崎権十郎)相手にも、それは変わらない。しかしふとした瞬間に、大きな目は鋭く光る。犬を追い払う素振りで橋の上からお堀に石を投げ込み水深を偵察しようとすると、通りすがった松平伊豆守(市川中車)が近づいてきて……。

第二部『丸橋忠弥』(左より)丸橋忠弥=尾上松緑、松平伊豆守=市川中車

犬のあとをついてお堀の周りを歩きはじめた時、舞台がダイナミックに廻りはじめた。その回転が、円の中心にある江戸城の大きさを立体的に想像させた。伊豆守の傘で忠弥の周りから雨が消えた時は、雨音をあらわす下座が止まり場内が静まる。忠弥がごくりと喉を鳴らす音まで聞こえてきそうな緊張感が広がった。松緑の見得に並ぶ、中車のラインが描く形も美しく、均整がとれた舞台空間だった。

丸橋忠弥の住居の場では、甲斐甲斐しい女房おせつ(中村雀右衛門)や、忠弥の母おさが(市川齊入)、ふたたび現れる藤四郎との掛け合いから、忠弥の生活が滲む。そこへ一味の加藤市郎右衛門(坂東亀蔵)と柴田三郎兵衛(中村吉之丞)が訪ねてきて……。

第二部『丸橋忠弥』(左より)加藤市郎右衛門=坂東亀蔵、柴田三郎兵衛=中村吉之丞、忠弥女房おせつ=中村雀右衛門、丸橋忠弥=尾上松緑

忠弥の本心を知り、「娘、許せよ」と手をあわせる舅。夫の覚悟に頬を紅潮させるほどに喜ぶ女房。負担になるまいと始末をつける母。交錯する家族の思いが明らかになった頃、気づけば住まいは、大勢の捕り手たちに囲まれていた。

ここから幕切れまで、緩急まじえながらも、止まれない大立廻りになだれ込む。豪快に笑い、槍を奪われても家の鴨居を振り回す忠弥は、負ける気がしなかった。近習頭の石谷左近に市川男寅。大久保民之丞に尾上左近。表に出ると、しっとりとした唄が聞こえてくる。捕手の声が響き、ツケが打たれ、揺らめくような照明。忠弥のアドレナリンを疑似体験するような、現実味のわかない陶酔感に包まれた。忠弥の剥き出しの殺気が、色気を纏っていた。

第二部『丸橋忠弥』丸橋忠弥=尾上松緑

松緑に身軽な印象はない。その密度や重量を感じさせる身体が、戸板を駆けあがり、綱に落ち、組み上げられた戸板から着地するのだ。松緑はもちろん、捕り手を勤める俳優たちも、一瞬の緩みも許されない。緊張感は客席にも伝わってくる。忠弥が躍動感に溢れるほど、破滅への疾走をみるようだった。アクロバティックで大迫力の舞台は、万雷の拍手で結ばれた。歴史を振り返れば、一味のクーデタは失敗に終わる。ヒーローになれなかった男が、逃げもせず諦めもせず戦い抜いた姿が、目に焼き付いた。

二、芝浜革財布(しばはまのかわざいふ)

落語の人情噺をもとにした世話物で、年の瀬にふさわしい一幕だ。「朝明けの潮」と題された緞帳が上がると、暗転から物語が始まる。

魚屋の政五郎(中村獅童)はお酒好きなあまり、仕事もおろそかに。女房おたつ(寺島しのぶ)に苦労をかけている。ある朝、やっと仕事に出かけた政五郎だが、あっという間にかえってきてしまう。大金の入った革の財布を拾ったのだ。政五郎は、仲間を集めてどんちゃん騒ぎを始めるのだが……。

第二部『芝浜革財布』魚屋政五郎=中村獅童

酒にだらしのない政五郎だが、どこか憎めない。時折見せる表情は、子どものようで愛嬌がある。なにより、おたつがそばにいることで、「こんなちゃんとした女房がいるのだから、良いところもあるに違いない」と思わせた。おたつが、夫の食べ物の好みを思い浮かべてにっこりした時は、つられて頬がゆるんだ。

第二部『芝浜革財布』(左より)魚屋政五郎=中村獅童、錺屋金太=梶原善、大工勘太郎=市川中車、桶屋吉五郎=澤村精四郎、左官梅吉=市川猿弥

朝早くても、おつまみ持参でやってくる大工勘太郎に市川中車、左官梅吉に市川猿弥の距離感も心地よく、錺屋金太に梶原善、桶屋吉五郎に澤村精四郎も集まって、どんちゃん騒ぎがはじまる。梶原には初めての歌舞伎の舞台だが、金太は誰よりもごきげんに酔っていた。都々逸がはじまるのも、話がループし始める人がいるのも、言い争いになるのも、いつものことなのだろう。そもそも参加者たちが、何がおめでたいのか分からないまま祝宴が続く、その大らかさが心地良かった。サービス満点の笑いまでふりまいて、明るく楽しくお開きに。だからこそ政五郎が眠り、ひとり片づけをするおたつの背中は寂しかった。政五郎の改心とおたつの嘘に笑い、笑いながらしんみりした。おたつの嘘が、ふたりにとって最後の灯のようだった。

『芝浜革財布』(左より)政五郎女房おたつ=寺島しのぶ、魚屋政五郎=中村獅童

それから三年後の大晦日。お芝居だから一瞬で時間が過ぎるけれど、政五郎には苦労もあり、おたつも心に思うところがあったはず。ふたりが思いを明かすやりとりに、それでも明るく乗り越えてきた姿が重なってみえた。商売がうまくいったこと以上に、女房や友だちの存在が、何よりの幸せだと気づかされる。おめでたさいっぱいの幕切れに、一足はやくお正月が来たようだった。

『芝浜革財布』(左より)政五郎女房おたつ=寺島しのぶ、魚屋政五郎=中村獅童

第一部も第二部も、熱く盛り上がり、明るい気持ちで結ばれる舞台となっている。歌舞伎座『十二月大歌舞伎』は12月26日までの上演。

取材・文=塚田史香

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