2025年10~12月期のセクター別M&A動向――過去最高更新から見えてきた26年の展望
2025年の日本におけるM&A市場は、件数・金額共に過去最高を記録した。豊田自動織機の非公開化やソフトバンクのアンペア・コンピューティング買収など巨額案件が金額を牽引する一方で、企業の組織再編や新規事業開発の手段としてM&Aが積極的に利用されるようになってきている。 本稿では、2025年通期および直近四半期(10~12月)のセクター別M&A動向と26年の展望について、当社M&Aアドバイザリー部のセクターリーダーがレポートする。
概況:大企業の事業再編と海外投資の増加
2025年10~12月期は、高市政権の発足と共に日経平均が上昇した。11月初旬につけた終値の史上最高値を年が明けてからも更新するなど、その勢いは続いている。セクター別で見ると、直近ではコミュニケーション以外では押しなべて堅調である。
一方、EBITDAマージンはコミュニケーションやヘルスケアセクターが高水準を維持するなど、多くのセクターで利益が改善した。
2025年のM&Aは5,115件(前年比8.8%増)、35兆7,437億円(同74.7%増)と過去最高を更新した。件数の増加は国内案件が中心だが、金額ではクロスボーダー案件も伸びに寄与しており、海外投資ファンドによる投資や国内企業の海外投資が目立つようになっている。
また、国内外のアクティビストファンドの動きが活発化する中で、非上場化を伴うMBOは引き続き増加傾向にある。市場の要請から大手企業グループの事業再編や親子上場解消などの動きも多く、国内のM&A市場は2026年も活況が続くと予想される。
10~12月期のM&Aは、テクノロジーやインダストリアルズセクターが件数・金額両面において活況、件数においてはコンシューマーリテール系、金額面においてはヘルスケアセクターにおいても活発な取引が見られた。
2025年M&Aディール数と金額
ディール数
金額(10億円)
出所:レコフデータを元にFMI作成
インダストリアルズセクターの主なM&A案件
2025年は、豊田自動織機の非公開化や富士通ゼネラルのパロマ・リームホールディングスへの売却など、大手企業グループの事業再編に伴う大型案件が見られた。
10月~12月期には、ホンダによる日立からのAstemo買収や京セラによるNECからの日本航空電子工業株の取得、NOKとかつて同社から独立したイーグル工業の経営統合などがあった。パナソニックは、子会社のパナソニックハウジングソリューションズの株式80%をYKKへ譲渡した。
また、事業再編(三菱ロジスネクスト)、MBO(トプコン)、アクティビストへの対応(フジテック)、同意なき買収への対抗(牧野フライス製作所)など理由は様々だが、ファンドをパートナーとした非公開化の動きも目立った。
企業は事業再編を含めた迅速な意思決定を市場から求められており、今後もM&Aは有力な手段となる一方で、TOB価格を含めたその手法の妥当性や効果については丁寧な説明が必要になるだろう。
インダストリアルズセクターの主なM&A案件
2025年M&A金額順(下線はPEファンドなど関与案件、*は10~12月期の公表案件)
2025年10~12月期 その他の主なM&A案件(下線はPEファンドなど関与案件)
出所:レコフデータを元にFMI作成
コンシューマーセクターの主なM&A案件
コンシューマーセクターでは、ベインキャピタルによるヨーク・ホールディングス(イトーヨーカドーなど)の買収やトライアルホールディングスによる西友の買収など、スーパーマーケット業界で大きな動きがあった。
10~12月期においては、アサヒグループホールディングスによる英ディアジオからの東アフリカ事業買収が目立つ。国内市場の大きな成長が見込めない中で、海外市場を強化していく動きは今後も増えていくと予想される。
コンシューマーセクターでは、かつて高収益を上げた事業やブランドの再編も進んでいる。ワールドによるカジュアル衣料販売のライトオンの完全子会社化、U-NEXTによるブラザー工業からのカラオケ事業(JOYSOUND)の買収などはその例といえるだろう。
2025年M&A金額順(下線はPEファンドなど関与案件、*は10~12月期の公表案件)
2025年10~12月期 その他の主なM&A案件(下線はPEファンドなど関与案件)
出所:レコフデータを元にFMI作成
IT・ビジネスセクターの主なM&A
前半から、ソフトバンク、三菱電機、NECといった国内大手による海外大型案件が相次ぎ、日本企業の選択と集中の姿勢がより鮮明となった。一方で、ラクスルやカオナビといった成長過程にある新興企業が、短期的な市場の評価に左右されず中長期のバリューアップを目指すため、MBOによる非上場化を選択する動きも目立った。
また、構造的な人材不足を背景に、テクノプロホールディングスやフォーラムエンジニアリングなど、人材派遣・エンジニアリング領域へのファンド投資が相次いだ点も、業界再編の予兆として特筆すべき動きである。
10~12月期では、単なる規模拡大のみならず特定の付加価値を狙い撃ちした戦略的買収が見られ、特筆すべきものとして下記の案件が挙げられる。
・ソニーグループによるピーナッツホールディングス買収:スヌーピーで知られる『ピーナッツ』のIP取得(持ち分39→80%)。IP(知的財産)ビジネスの強化と、グローバルでのライセンス事業の主導権を確保。
・東京海上ホールディングスによる米アグリヘッジ買収:アグリヘッジは農畜産物の価格変動リスクに関するコンサルティングや保険販売を行う。北米市場での保険販売・コンサルティング体制の加速。
・BIPROGYによるカタリナマーケティングジャパン買収:同社にとって過去最大のM&Aであり、高いマルチプルで話題となった。リテールDX領域でのデータ利活用サービスの抜本的強化。
12月に報道された日本製鉄による日鉄ソリューションズ(NSSOL)の売却観測は、近年のITセクターにおける再編の文脈において、極めて象徴的な分岐点となる可能性を秘めている。
ここ数年、国内IT業界では、親会社が上場IT子会社をグループ全体のDXを牽引する中核資産と再定義し、意思決定の迅速化とシナジー最大化を図るグループ内取り込みがトレンドの主流であった。住友商事によるSCSK、NTTによるNTTデータ、伊藤忠商事によるCTCの完全子会社化などはその代表例であり、いわば垂直統合による囲い込みの動きといえる。
しかし、今回の日鉄ソリューションズの売却観測は、こうした流れとは対照的に、事業ポートフォリオの抜本的な見直しに基づく戦略的カーブアウトの動きである。製造業を本業とする親会社にとって、市場評価が高まったIT子会社を売却することは、投下資本利益率(ROIC)の向上や脱炭素投資といった成長分野へ経営資源を集中させるための、極めて合理的な経営判断となり得る。
日鉄ソリューションズの動向は、親会社がIT子会社をグループに内包すべき武器と見るか、資本効率を最大化するための売却対象と見るかという、日本企業のキャピタル・アロケーションの変容を象徴している。本件の動向は、今後同様の構造を持つ他の一部上場IT子会社のバリュエーションや、業界全体の再編シナリオを占う試金石となるだろう。
IT・ビジネスサービスセクターの主なM&A案件
2025年M&A金額順(下線はPEファンドなど関与案件、*は10~12月期の公表案件)
出所:レコフデータを元にFMI作成
化学セクターの主なM&A案件
2025年下期は、レゾナックやAGC、旭化成など大手メーカーによる、事業再編に伴う売却案件が多く見られた。素材・化学セクターでは低い株価純資産倍率(PBR)に悩む企業が多く、資本効率の改善を狙った選択と集中による大企業のカーブアウト案件が今後も継続すると見込まれる。その他、上場会社の非公開化を目指す動きも見られた。
化学セクターの主なM&A案件
2025年M&A金額順(下線はPEファンドなど関与案件、*は10~12月期の公表案件)
2025年下期 その他の主なM&A案件(*は10~12月期の公表案件)
出所:レコフデータを元にFMI作成。※非公開化案件については、当初公表案件及び金額を記載しており、現在進行中のものも含まれる
進む石油化学業界の再編
2025年は石油化学の再編が進んだ。9月には三井化学、出光興産、住友化学が、エチレンから製造されるポリオレフィン(ポリプロピレン、ポリエチレンなど)の国内事業を統合することで基本合意した。三井化学が65%、出光興産が35%出資する樹脂メーカーのプライムポリマーが、住友化学からポリプロピレンなどの事業を2026年4月に譲り受ける。
8月には旭化成、三井化学、三菱ケミカルが西日本で保有する2基のエチレン製造設備について、生産能力の最適化に向けて、有限責任事業組合(LLP)を設立。2026年1月に水島コンビナートのエチレン製造設備を停止し、大阪府の設備に集約すると発表した。2030年をめどにグリーン化を実装した新たなエチレン生産体制を実現するとしている。
エチレン製造設備をめぐっては、この他、丸善石油化学が2026年度に、千葉県で単独運営する1基を止め、住友化学との共同出資会社に一本化する計画がある。また出光興産と三井化学が連携し2027年度をめどに千葉県の設備を集約し、川崎市ではENEOSが2027年度に2基のうち1基を停止する計画がすでに明らかになっており、統廃合が加速している。5月には三井化学が石化事業を分社化し業界再編の核とする方針を発表したことも注目された。
なお、出光興産と三井化学は2010年にLLPを活用して千葉のエチレンを統合したが、当時、大型生産設備の運営を伴うLLPは国内初のケースであり先進的な事例となった。
背景にあるのが、中国で進む大規模な新増設である。内需の減少傾向も相まって供給過剰となっており、国内エチレン製造設備の稼働率は、好不況の目安とされる90%を39か月下回っている。(2025年10月は速報ベースで76.2%)
ポリオレフィン業界は1990年代後半から2000年代前半にかけて再編が活発化、1994年に16社あったが現在は10社に集約された。今回の統合を呼び水として、再び再編が活発化する可能性がある。
ヘルスケアセクターの主なM&A案件
2025年の大型案件としては、三菱ケミカルグループによる田辺三菱製薬のベインキャピタルへの売却や塩野義製薬による田辺ファーマからのALS治療薬事業取得やJTの医薬事業取得などが挙げられ、製薬業界におけるM&Aの動きが活発だった。
また、アドバンテッジパートナーズによる日本調剤のTOBやアインホールディングスによるクラフト(さくら薬局)の買収など、ドラッグストアや調剤薬局に対する大型のM&Aが近年増加しており、ファンドも交えた業界の再編が続いている。12月にはツルハとウエルシアが経営統合を完了し、勢力争いの激化が予想される。
ヘルスケアセクターの主なM&A案件
2025年M&A金額順(下線はPEファンドなど関与案件、*は10~12月期の公表案件)
2025年下期 その他の主なM&A案件(*は10~12月期の公表案件)
出所:レコフデータを元にFMI作成。
エネルギーセクターの主なM&A案件
2025年は、JERAによる米シェールガス権益の取得が金額において突出しており、他に中部電力によるエネチェンジからのEV充電事業の合弁設立や、ベインキャピタルによるレジルの買収などの案件があった。
レジルはマンション一括受電サービスを中核として、脱炭素領域での事業展開を行っている。同社は2024年4月に東証グロース市場でIPOしたが、比較的短期間で非公開化を選択したことになる。
全体の傾向として、大型・小型、買収・資本参加の違いはあるが、件数では再生エネルギー・脱炭素系の企業を対象とするM&Aが多くを占めており、特に10~12月期では全体の半数以上となっている。環境問題への対応が求められる中、今後もこうした傾向は続くだろうと考えられる。
エネルギーセクターの主なM&A案件
2025年M&A金額順(下線はPEファンドなど関与案件、*は10~12月期の公表案件)
2025年下期 主な再生エネルギー・脱炭素関連のM&A案件(*は10~12月期の公表案件)
出所:レコフデータを元にFMI作成。
本記事の執筆者一覧
インダストリアルズセクター、コンシューマーセクター:山田 毅(https://frontier-eyes.online/author/tsuyoshiyamada/)
IT・ビジネスサービスセクター:野坂 直道(https://frontier-eyes.online/author/naomichi-nosaka/)
化学セクター、ヘルスケアセクター 河島 義尚(https://frontier-eyes.online/author/yosinao-kawashima/)、溝渕 誠二(https://frontier-eyes.online/author/yosinao-kawashima/)、池田 勝敏(https://frontier-eyes.online/author/katsutoshi-ikeda/)
エネルギーセクター:古賀 彰(https://frontier-eyes.online/author/akira-koga/)
執筆者:フロンティア・マネジメント株式会社 MAアドバイザリー部