【訪日外国人客増加】今年前半の訪日客が過去最高!賑わいは嬉しい反面、混雑やマナー違反など「観光公害」の問題も。県内の現状や課題についても解説!
静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「訪日外国人客増加」。先生役は静岡新聞の橋本和之論説委員長です。(SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」 2024年7月23日放送)
(山田)今年上半期の訪日外国人客が累計1778万人に上り、上半期としては過去最高ということです。肌で感じるぐらいでしたね。あちこちで旅行者を見かけます。
(橋本)コロナが収束し、日本人もそうですが旅行需要も急速に回復しつつあったところに、外国人の場合は歴史的な円安が拍車をかけて、激増しているということだと思います。
これまで年間で最多を記録したのがコロナ拡大の前年の2019年で3188万人でした。当時の円ドルのレートを調べてみたんですけど、1ドル110円前後でした。今は160円前後なので、当時に比べると同じドルの金額で4割以上余分に買い物ができると。
(山田)すごいですね。
(橋本)もちろん、東日本大震災の後に政府が外国人客の国内誘致に本腰を入れたことや、SNSで海外にもいろいろな旅行情報が伝わるようになってきたことも関係していると思います。そうした影響で日本の文化や自然が広く知られるようになったということがあると思いますが、そうした日本の魅力を5年前より相当安く堪能できるということで、訪日客が増えているのだと思います。
(山田)これは外国人客からしたら来やすいし、昔は「日本はいい、高い」というイメージがあったと思うんですが、そのサービスが安く受けられる。そりゃ、来ますよね。これだけ増えると、経済効果もかなり大きいということですね。
(橋本)宿泊や買い物などの消費額は、2024年上半期が約3兆9000億円、これも上半期での新記録だということです。年間の過去最高記録は2023年の5兆3000億円ということですが、今のペースだとこれも大きく上回るということになりそうです。
観光公害の問題が深刻化
(山田)これだけ外国人観光客が多く来てくれて、観光地やホテル、旅館も潤っていいなと思うんですけど、一方でマイナス面も当然あると思うんです。
(橋本)一つ問題になっているのは、オーバーツーリズム。これは「観光公害」と訳しますが、この問題が指摘されてます。外国人に人気の観光地は混雑がひどかったり、交通機関が混雑したり、マナー違反で地元の人たちが迷惑してたりします。私有地に入ったり、路上にゴミが散乱してたりして迷惑しているという話があちこちで頻繁に取り上げられています。
少し前に、お隣の山梨県のコンビニが、看板の上に見える富士山を綺麗に撮影できるスポットということであまりにもSNSで有名になったため、近所迷惑で苦情が出て、町が黒い幕を張って見えなくするという話がありました。これ、海外から見るとちょっと変なことをしてるなというのもあったんだと思うんですが、日本だけじゃなくて海外でもニュースになったということです。
静岡県でも似たような状況がありました。今の最新情報だと、だいぶ収束してるそうなんですけども、富士市の富士山夢の大橋の写真を撮る観光客が交通の妨げになって問題になりましたね。
さらに県内関係では富士山の登山シーズンに入ったので、ちょうど先週末に外国人登山客の救助要請が相次いでいるということも報道されていました。東京の渋谷などでは路上飲酒やゴミの放置も問題になっていて、そうした問題があるところは自治体が条例で規制強化するというような動きも出ているということですね。
(山田)富士山を写真に撮るときに道路の真ん中の方に出たほうが綺麗に撮れるから、外国人観光客がたくさん出ちゃってるんですよね。
(橋本)信号を守る、守らないとかもちょっと日本と感覚が違うところがあるのかもしれません。旅行に来ていて浮かれた気持ちになっていることも合わさって、そういうことになっているのではないかなと思いますけど。
(山田)観光には来てもらいたいんだけど、こういう混雑やマナー違反というところは、解決しなきゃいけないというとこですかね。
(橋本)マナーの啓発や情報提供で混雑を未然防止するには、例えば「こっちは混んでいますよ」という情報をネットを通じて観光客に対して提供して混雑を防ぐ、というような取り組みが有効だと言われています。
あとは、例えば警備の人件費や、いろんな啓発のための広報にもお金がかかったりするので、観光公害対策に使う費用の一部を観光客に何らかの形で負担してもらうということも考えられます。入場料に一部上乗せするなどの対応が一つの選択肢になると思います。
各地には、いろいろと知恵を絞って先進的に対策に取り組んでる地域もいくつかあり、効果が出ているところもあります。国はそういう地域を指定して、他の地域にそのアイデアを役立ててもらうようなこともやっていますし、必要な経費の補助事業もしています。
また、自治体や観光団体が、「こういう悩みがあるんだけど、どこか参考になるケースありませんか」とか「こういう対策はどうしたらいいですか」ということを相談する窓口を設けるなど、一定の取り組みが行われています。
(山田)旅館やホテル、その他の施設によっては、外国人観光客からより高くお金を取るっていうところもあったりしますよね。これが対策になるのかどうかわかりませんが。
(橋本)外国人だからというのが良いか悪いかは別として、施設や公共交通機関の中には混雑時期には料金を高くする取り組みをしているところもありますね。それによって混雑をできるだけ解消して平準化し、時間と地域の集中によって出てくる弊害を未然に防ぐ対策を各地で進めていると思います。
地元市民が、生活の足を使えない…!
(山田)僕が個人的にもう一つ問題だと感じるのは、日本人が楽しめなくなっちゃうというところだと思います。
(橋本)それはもちろんあります。例えば京都だと、普通に市民が足で使ってるバスがものすごく混雑してしまい、駅前に人が並んで、仕事や通学で使いたい人たちが乗れなかったり次のバスを待たなければいけない状況になっていたりします。
地元の皆さんにいろいろと迷惑がかかる上、そういう状況が慢性化すると、観光客の皆さんも大変だったり嫌な思いをして帰ったりしていくわけですよね。次に来るのをためらい、外国人であれば「今度は日本をやめて他にしよう」ということにもなりかねないと思います。
(山田)やっぱり「日本は良かったね」という思いで帰ってもらいたいですよね。
(橋本)そうした懸念があるので、先ほど話したような対策もできるだけ講じて、観光公害が起きないようにしていかなければいけないなと思います。
(山田)他にも、外国人観光客が増えたことに対して課題などはありますか。
(橋本)訪日客の宿泊先の7割が三大都市圏に偏っているということで、もっと地方の良さを知ってもらって、滞在を促す努力が必要だと言われています。分散すれば観光公害の防止にもなり、地域経済にもプラスになると思います。
政府は地方空港の就航を増やすための支援制度を設けたりとか、全国に35ある国立公園に高級リゾートホテルを誘致したりというようなことも方針として打ち出しています。国立公園のホテルについては、小規模で環境に配慮してもらうということを説明してるようですが、元々豊かで貴重な自然があるところが国立公園になっているので、そこの自然を壊すことに繋がらないかがちょっと心配になりますよね。しっかり歯どめをかけないといけないと思います。
あとは、空港の話で言うと、就航を増やすのはいいんですが、身近な静岡空港を見てみると、まだ中国路線が戻っていない原因の一つは人手不足なんです。空港で働くスタッフが十分に確保できていない状況です。1回コロナでぐっと減ってしまい、戻すのはなかなか大変だという状況なので、もし「路線を拡大して」と言うならばその辺りをどうしたらいいか、ちゃんと国にも民間と一緒に考えてもらう必要があるかなと思いますね。
(山田)課題はたくさんありますね。われわれ静岡県としても、観光公害を防ぎながら、観光客にたくさん来てもらうといいですよね。
(橋本)中部運輸局が毎月、宿泊旅行統計というのを発表しています。中部地区に宿泊する外国人客の数字を毎月出してくれるんですが、他県に比べると静岡県は回復が遅いんですよね。
(山田)そうなんですか。
(橋本)原因はいろいろと言われているので、私もはっきり説明できないんですが、その原因を分析して観光公害防止策と併せて対策を打っていくことが必要なのかもしれません。
(山田)東京いいけども、静岡おいでよって感じですね。本当に、われわれ静岡にも関わる問題ですね。今日の勉強はこれでおしまい!