しっとり…「生」食感のフロランタンが誕生!廃棄されていた“おから”に10倍の商品価値をつけて
北海道の食を深堀りして、その価値を見つめるシリーズ「食の未来を考える」。
今回ご紹介するのは、フランスの伝統的な菓子の『フロランタン』です。
クッキーの一種ですが、このスイーツで地域の活性化を狙う人たちがいます。
駒ヶ岳の麓、オシャレな建物が目をひく、おおば製パン。
こだわりのまき釜から出てきたのは、フランスの伝統的スイーツ『フロランタン』。
本来はサクサクと固い食感ですが、こちらは、生の『フロランタン』です。
食べると…これまでのフロランタンとは一線を画すしっとりした食感!
「生」というだけのことはあります。
商品名は『生フロランタン おまめとみるくに花束を』。
しっとり感の秘密は、フロランタンの生地に混ぜ込まれた“おから”です。
開発したのは、眠っている資源で新しい産業と食文化の創造を目指す、函館のグループ、「ローカルレボリューション」。
「世の中で、光の当たってないものは価値がないものなのか…というと、そうではないと思う。見方を変えたり、角度を変えたりすることがすごく大事だなと思う」
そう話すのは岡本啓吾代表。
ローカルレボリューションは、2022年、岡本さんが、友人のミュージシャン、シェフと3人で設立しました。
近年、北海道南部で大量に水揚げされるようになったマイワシ。
しかし、地元では馴染がなく、価格が安いことが悩みでした。
そこで、世界初のマイワシを使ったアンチョビ=「ハコダテアンチョビ」を開発。
新たな価値を生み出すことができたのです。
今回の「おまめとみるくに花束を」のプロジェクトは、豆腐店の悩みがきっかけでした。
廃棄していたものに「あえて」商品価値を
函館市の隣、七飯町の勝田商店です。
木綿は硬く、絹ごしはのど越し良く。
最適な食感と風味を引き出す職人技が、地元で人気を集めています。
一方、頭を悩ませているのが、豆腐を作る際に大量に出てくる“おから”。
多い日には1日100キロに上り、その大半が、家畜のエサになっています。
食物繊維やカルシウムを豊富に含んだ“おから”。
昔から、おふくろの味として食べられてきましたが、調理の手間などから、人の口に入るのは、全体のわずか1%とも言われています。
勝田商店の勝田吉一代表は「“おから”って、お客さまに本当に安く売るか、廃棄するという感覚しかなかった」と話します。
1キロ30円で引き取られていたおから。
商品価値をつけるため、岡本さんたちは、10倍の300円で取引しています。
「あえて、そこに商品価値をつけようという運動ができたことはビックリしました。“いいんですか?”という感じです…そういう金額で買ってもらっていいんですかという感じでした」勝田代表は驚きを隠せませんでした。
一方の岡本さんは目標を明確にしています。
「ビジネスとしては大失敗、メーカーとして考えれば利益はあまりない」
「だけど、そもそもの“入口”はそこじゃない。関わる人たちが豊かになることで、自分たちも豊かになるというサイクルが広がっていくことが一つの目標なので」
『生フロランタン』のキャラメルソースには、脱脂粉乳も使われています。
北海道の生乳から作られる牛乳やバターの消費に、間接的に貢献する狙いがあります。
“関わる人も、モノもすべてが持続可能に…”。
商品名の『おまめとみるくに花束を』には、“おから”にも脱脂粉乳にも、花を持たせたい…そんな思いが込められています。
価格は、3個入り=1400円に決めました。商品に込めた思いは伝わるのでしょうか。
価値に気づいてもらう
北の空の玄関口、新千歳空港です。
舌の肥えた観光客に通用するのか…。初めてローカルエリアを飛び出し、1か月の限定販売です。
試食したお客さんからはこんな声が。
「しっとりしていて甘さが控えめでフワフワでおいしい」
「おからと脱脂粉乳で作ったとは思えない。健康によさそう」
「おいしかった。ちょっと甘みが濃いけど、そんなに飽きない感じ」
評判は上々…。想像を超える売れ行きで、『生フロランタン』は生産が追いつかないほどでした。
「『生フロランタン』がたくさん売れて、それでたくさん消費量が賄えるかといったら、そうではないと思っていて。その価値をみんなが気づいていって、お菓子以外でも活用が広がっていくことが、僕は目標だと思っている」岡本さんはそんな展望を見据えています。
社会の課題を発信する新スイーツ。
解決の道のりは、決して甘くはありませんが、地域に新たな変革を生み出そうとしています。
文:HBC報道部
編集:Sitakke編集部あい
※掲載の内容は「今日ドキッ!」放送時(2024年5月22日)の情報に基づきます。