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「支えられる」から「支える」側へ。役割から育つ自信――TRPGのゲームマスターとして活躍する青年たち(金子総合研究所/東京学芸大学・加藤浩平先生)

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「支えられる」から「支える」側へ。役割から育つ自信――TRPGのゲームマスターとして活躍する青年たち(金子総合研究所/東京学芸大学・加藤浩平先生)

TRPGの「ゲームマスター(GM)」とは

TRPGでは、参加者は大きく二つの役割に分かれます。一つは、物語の主人公となる「キャラクター」を作成し、そのキャラクターとして行動する「プレイヤー」です。もう一つは、「ゲームマスター(GM)」といい、物語の舞台や状況を説明し、プレイヤーが担当するキャラクター以外の登場人物や敵の行動を受け持ちながら、プレイヤーの発言や行動に応じて展開を調整し、セッション(TRPGをプレイすること)全体を進行する役割です。

GMは、ゲームの進行役であり、時に審判役であり、同時に物語の語り手でもあります。たとえば、プレイヤーたちの操る「騎士」や「魔術師」といったキャラクターたちが封印された魔法のアイテムを求めてダンジョン(石造りの迷宮)に入る……という物語であれば、GMがそのダンジョン内の光景や遭遇する出来事を説明・描写します。また、戦闘になればモンスターの行動を担当し、プレイヤーたちが行動に迷えば、選択肢を整理しながら「いま何が起きているのか」を分かりやすく示していきます。GMは、セッションの場全体を見渡しながら、プレイヤーたちが物語を楽しめるようにルールに沿いながらも臨機応変に進行・運営をしていく役目を担っているのです。

ゲームマスターとして活躍するASD(自閉スペクトラム症)の青年たち

筆者が講演会などでTRPGについて紹介する中で、GMは複数のプレイヤーの発言を聞き取りながら、その場に応じて柔軟に判断し、状況を説明し、時には即興的に対応する、そういったマルチタスクが求められる役割である……と話すと、聞いている学校の先生や支援者、保護者の方々から「じゃあ、ASDの人にはGMは不向きですね」と言われることも少なくありません。しかし、それは大きな誤解です。筆者が運営するTRPG活動の中で、複数名のASDの青年たちがGMを担当してくれています。

筆者が発達障害の子どもたちを対象にしたTRPG活動を始めた当初、GMを担当していたのは、筆者自身やTRPG経験の豊富なボランティアスタッフでした。参加していた子どもたちの多くはTRPG未経験者であり、まずは遊び方を知る必要があったからです。

ところが、活動を長く続ける中で、プレイヤーとして参加していたASDの青年たちの中から、「自分もGMをやってみたい」と言い出す人が現れました。もちろん、最初からうまくできたわけではありません。試行錯誤を重ねながらの挑戦でしたが、本人たちなりに工夫を重ね、少しずつ「場を回す役割」を担うようになっていったのです。

タイジさん――試行錯誤を重ねながらゲームマスターとして育っていったケース

ここでGMとして活動している青年の事例を二つ、GM以外で余暇活動に貢献してくれている青年の事例を一つ、紹介したいと思います。

一人目はタイジさん(仮名)。小学生の頃にASDの診断を受け、対人コミュニケーションが苦手で通級でSSTなどの支援を受けていました。一方でコンピュータのRPG(ロールプレイングゲーム)が大好きで、高校生の頃にお母さんの紹介で筆者のTRPG活動に参加しました。活動に半年ほど参加した後、本人から「GMに興味があるので、やってみたい」と相談を受けたので、事前の準備などを筆者やスタッフがサポートして、タイジさんにGMをやってもらいました。

タイジさんの初GMは、シナリオ(TRPGの物語のあらすじ)に設定を詰め込み過ぎて時間がオーバーしそうになったり、進行管理にも手探りの部分が多かったりしましたが、プレイヤーの発言への対応にも言葉に詰まりながら、何度もルールブックを確認しつつ、何とか最後までやり遂げました。筆者や周囲のスタッフは「初めてのGMとしては十分なできだ」と思いましたが、本人は「思ったようにできなかったな……」と少し暗い表情でした。

その後、タイジさんは1年ほどGMをせず、プレイヤーとしてTRPG活動に参加していました。周囲も保護者もタイジさんにGMを強要することはなく、静かに見守っていました。そして1年後、再びGMに挑戦したタイジさんは、1年前とは別人のように、シナリオを順調に進め、プレイヤーの子どもたちの突飛な発言にも柔軟に対応しながら、物語を調整しながらセッションを進めるようになっていました。ある時「なぜまたGMをするようになったの?」と聞いたところ、その理由を少しずつ喋ってくれました。タイジさんの話を統合すると、GMをうまくできるようになりたいので、プレイヤーとしてセッションに参加しながら、ほかのGMがどのようにゲームを進行しているのかを観ていた……とのことでした。

現在、タイジさんは、筆者の活動の中でGMとして活躍するだけでなく、「GMをやってみたい」と話す年下の子どもがいると、自分の経験をもとにアドバイスをしたりしています。

なお、印象的なのは、タイジさんのコミュニケーションのスタイル自体は、以前と大きく変わったわけではない点です。タイジさんは決して流暢に話せるタイプではありません。ですが、セッション中は本人のペースでプレイヤーに丁寧に説明し、想定外の展開になっても慌てず、必要に応じてアドリブも交えながら、場を支えるコミュニケーションをしているのです。

ノブコさん――創作好きの少女がTRPGを通じて人とつながっていったケース

もう一人、GMを担うようになった子のエピソードを紹介したいと思います。ノブコさん(仮名)は、中学生の頃に筆者らのTRPG活動に参加したASDの診断のある女の子です。もともと物語を考えたり書いたりすることが好きで、発想も豊かなタイプでしたが、自分の話したいことを一方的に話したり突然思いついたことを喋り出したりすることも多く、周囲とコミュニケーションがかみ合いにくい場面もありました。

その後、高校時代は文芸部に入部したのですが、そこにTRPG好きの先輩がいて、文芸部でもTRPGを遊ぶようになりました。ある時筆者に、文芸部でのTRPGが楽しいこと、手探りだけどGMも担当するようになった、という報告もしてくれました。また以前よりも人の話を聞いて話をするようになっていました。ノブコさんは、TRPGを通じて他者と交流する中で、少しずつ「自分のことだけを語る」だけでなく、「相手の反応を受けて物語を調整する」経験を重ねていったように思います。またノブコさんは、さらにオンラインでのTRPG(ネット上でチャットしながら遊ぶTRPG)にもハマり、独自のTRPG仲間のネットワークも作っていきました。また、いつの頃からか、筆者らの余暇活動の場でもGMを担当してくれるようになりました。

中学生の頃は一方的に喋ることの多いノブコさんでしたが、GMとしてTRPG初心者の質問にも丁寧に応じ、年下のプレイヤーにも柔軟に対応しながら、セッションを進めてくれていました。現在は大学に通いながら、筆者の余暇活動やオンラインの場でGMをすることを楽しみつつ、TRPGのシナリオ集やイラストをネットにアップしたり、同人誌即売会で自分で挿絵を描いたシナリオ集を頒布したりするなど、自分の「好き」を通じて社会とのつながりを広げています。

タイジさんの事例が、観察と試行錯誤を重ねながら「場を回す経験」を育んでいったケースだとすれば、ノブコさんの事例は、もともとの創作への関心が、TRPGを通して「人とのやり取りを楽しむこと」に開かれていったケースだと言えるでしょう。

カネトさん――TRPGの経験を通して、自然に他者を支えているケース

タイジさんとノブコさんのケースについて補足しますと、大切なことは「ASDなのにGMができるのはすごい」ということを言いたいのではない、という点です。むしろ重要なのは、TRPGには発達障害の有無や程度にかかわらず、参加者がコミュニケーションを楽しめるインクルーシブな「構造」があり、その中で普段なら不向きだと思われがちな役割にも取り組めること、そしてその経験を重ねる中で、本人の中に新しい関わり方や場を支える感覚が育っていることだと思います。

GMとは別の形でも、「支援される側」から「場を支える側」への動きは見られます。その一人がカネトさん(仮名)です。カネトさんは、高校生の頃からTRPG活動に参加しているASDの青年で、普段は寡黙で、日常生活では支援を受けることの多い人です。しかし、TRPGの場に入ると、淡々とした口調でキャラクターを演じ、自然に他者とやり取りをします。さらに、いつの頃からか、初めてTRPGに参加するボランティアの大学生や支援者に対して、キャラクター作成の仕方をサポートしたり、プレイする際に「最初はこうするとよいですよ」といったアドバイスもしてくれるようになりました。

TRPGは経験を積み重ねると必ずGMにステップアップしていく訳ではありません(むしろそこは大人の側が目標にしないほうがいいです)。カネトさんのようにプレイヤーとして参加しながら、経験者として初心者を支えてくれる存在にもなっていきます。

TRPGの場で起きているのは「支える/支えられる」関係の流動化

ここまで見てきたように、TRPG活動の中で起きているのは、「支援される側」が「支援する側」が固定されるわけではなく、またその関係が完全に入れ替わるという単純な逆転でもありません。むしろ、支える/支えられるという関係が、その場の状況や役割に応じて流動的に入れ替わっているのです。

GMとして活躍しているタイジさんやノブコさんは、セッションをファシリテートし、プレイヤーをエンターテイメントする立場に回っています。一方で、彼ら自身も、ほかのGMからセッション進行のコツや工夫を学び、仲間の支えを受けながら成長してきました。また、カネトさんのようなベテランプレイヤーも、日常生活では支援を受ける場面が多い一方で、ほかの参加者が困っていたら助ける側に回ることがあります。TRPGの場では、誰かが恒常的に「上」で、誰かが恒常的に「下」という関係は起きにくい、というのが筆者の経験上の見解です。

ここで注意したいのは「支援が必要なくなる」ということではありません。支援が「上から下へ一方的に与えられるもの」としてではなく、ルールや役割、人間関係といった構造が個人と集団の両方を支えている、ということです。参加している発達障害の子ども・若者も、筆者らスタッフも、活動全体を共に支えつつ、TRPGそのものを楽しんでいます。そのような環境だからこそ、必要なときにお互いがサポートし合ったりするフラットな関係が生まれやすいのだと思います。

まとめ――フラットな関係の中で、コミュニティをつくる力が育っていく

タイジさんたちの姿を見ていると、TRPGの場で育っているのは、単なる「話す力」や「説明する力」だけではないことが分かります。他者の意図をくみ取りながら場を整えること、初心者や流れから外れがちな参加者も置いていかないこと、そして「みんなと一緒に楽しむ場」を共に創っていくこと。そうした経験が積み重なることで、彼ら彼女らはフラットな関係の中でコミュニティを形成していく力を育んでいるのではないでしょうか。

発達障害のある子ども・若者たちは、しばしば「支援される存在」としてのみ理解されがちです。しかしTRPGの場で、彼/彼女たちは、仲間を助けたり、初心者を支えたり、お互いに話し合ったりして、活動を盛り上げています。そのことは、本人の自己理解や自尊心の維持・成長の面で大切であるだけでなく、私たち支援する側が、「“支援する/される”の関係とはどういうことか?」という考え方そのものを問い直すことにもつながっているように思います。

TRPGなどの余暇活動は、子ども・若者たちにとっての「楽しく過ごせる場」であると同時に、学校や家庭とはまた違った人間関係を構築できる「可能性と世界を広げるコミュニティ」にもなっているのです。

(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

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