英一番館 横浜港臨むレストラン 50年の歴史に幕、移転へ
4月から建替えのため休館する神奈川県民ホール。その最上階にあるレストラン「英一番館」が3月31日、現店舗での営業を終了する。5月頭には同じ中区内に移転オープンする予定だが、「横浜港が一望できるレストラン」として、50年間地域に親しまれてきた同店舗との別れを惜しむ声が寄せられている。
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「横浜を象徴するロケーション。こんなに良い景色を見られる場所はほかにはないと思う。海、夜景、グルメと横浜の魅力が詰まった店だった」と山田重雄社長(82)は振り返る。
最終日が近づくにつれ連日多くの人が来店しており、予約をストップしている日もあるという。「家族との思い出話をされる方も多く、本当に地元の方々に親しまれていたことを実感しました」とスタッフは話す。
地域に愛される店に
同店は県民ホールができた1975年、近くのシルクホテルが県から依頼を受けて開いたのが始まりだ。元々ホテルマンだった山田社長が取締役を務めたサテライトホテルが3代目のオーナーになり、1998年にホテルがなくなる際、山田社長が買い取って4代目のオーナーになった。
「近隣の人たちに愛される店に」との思いが強く、ランチはほとんどが1000円台。周辺企業には割引チラシを配布して週に2回、さらに安い価格で提供してきた。地元のコーラスグループの練習や発表場所の支援も10年以上継続して行っている。
山田社長には「サービスと料理の味はほかに絶対に負けない」という自負がある。10時間じっくり煮込んだ名物のビーフギネスシチューや、完成まで半年をかけたという濃厚な味わいが人気のバスク風チーズケーキは全て自身のアイデアだ。また同店では多くのプロ野球球団のケータリングも手掛け、試合前の選手たちにロッカールームで食事を提供している。その提供料理の一部をワンプレートにした「プレマッチランチ」も同店ならではのメニューだ。
4代目オーナーの思い
サービス精神と従業員への愛情も深い。飲食店が苦しかったコロナ禍でも、赤字になりながら従業員を誰一人辞めさせなかった。ランチタイムのサラダコーナーや平日10食限定の900円ランチも、お客様に喜んでいただくためと物価高の中も続けてきた。「『社長、安すぎるよ』とよく言われていました。儲けがないから経営者としては失格ですよ。もっとこのロケーションを生かせたのではという悔いもある」とオーナーとしての思いもぽつり。
「何よりこの景色が見られなくなるのが本当にさみしい。なんとも言えない気持ちですね」
労働プラザ内に移転
移転先は同じ中区内にあるかながわ労働プラザの9階=寿町。レストランフロアは1・2倍ほど広くなるが宴会場はなく、館内の貸会議室で対応するという。
5月頭の再オープンを前に「ロケーションに頼れない分、名物料理で集客できるように周知していきたい」と赤羽宏章常務。山田社長は「メニューもサービスも変わらない。移転先の英一番館にもぜひお越しいただけたら」と話している。