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顎が外れること必至! 中国「珍神」たちのおどろきの姿【中国TikTok民俗学】

NHK出版デジタルマガジン

顎が外れること必至! 中国「珍神」たちのおどろきの姿【中国TikTok民俗学】

民俗学者・大谷亨さんによる『中国TikTok民俗学 スマホからはじまる珍神探訪』が刊行されました。

奇っ怪な神々が跋扈する中国各地のディープな信仰世界を、TikTokを駆使した「お手軽フィールドワーク」で活写する前代未聞の民俗学ルポルタージュです。

驚きの取材写真180点超もフルカラーで収載した、知られざる中国の素顔に迫る本書より、「はじめに」を特別公開します。

『中国TikTok民俗学』書影

中国TikTok民俗学 スマホからはじまる珍神探訪──はじめに

 私は中国の廈門(アモイ)という街に暮らす日曜民俗学者である。日本語教師という仕事のかたわら、休みとなれば各地へフィールドワークに出かけ、「民間信仰」の調査にせっせと取り組んでいる。ここでいう民間信仰とは、中国三大メジャー宗教である儒教・仏教・道教の教えに囚われず、一般大衆が「勝手に」練り上げ、「勝手に」信仰している野良宗教のことだ。

 と、およそこんな感じの自己紹介を披露すると、日本の友人たちからは決まって以下のような反応が返ってくる。

「そんな研究が中国でできるの? 中国って信教の自由がないんでしょ?」

 似たような反応は、台湾や香港の友人たちからもしばしば返ってくる。

「中国の民間信仰なんて文化大革命で全部ぶっ壊されちゃったよ。そういう研究がしたいなら台湾に来なよ。香港に来なよ」

 もちろん、こうした反応はごく当然のものだと私も納得している。たしかに、中国に信教の自由があるのかというと「YES」と答えるのは難しいし、文化大革命が民間信仰(にかぎらず宗教全般)に大打撃を与えたのは紛れもない事実だからだ。

 しかし一方で、私はそんな反応に接するたびに、「みんな全然わかってないよ!」と激しく頭を抱えてしまうのである。そして同時に、「だが待てよ……これはむしろ世界をアッといわせるチャンスなのではないか?」と心底ゾクゾクしてしまうのである。

 なぜなら、私が中国で日頃見聞きしている光景は、「中国で民間信仰の研究は可能か?」などという問いを立てること自体がバカバカしく思えるほどの「活況」を呈しているからだ。

 その活況とはすなわち――得体の知れない奇々怪々な神々が各地に跋扈(ばっこ)し、あらたかな霊験を発揮しては人々の崇拝を集める、二一世紀のものとも、社会主義国家のものとも信じがたい、驚嘆すべきものなのである。

 本書は、まさにそんな知られざる中国民間信仰の実態を白日の下にさらし、読者の度肝を抜くことを目指している。具体的に取り上げるのは、張五郎(ちょうごろう)・九尾狐(きゅうびこ)・大黒天(だいこくてん)・聖人公媽(せいじんこうま)・無常(むじょう)といった神々であり、いずれも絶大な支持を集めるカリスマ的ローカル神だ。

 私はそれら中国各地の「珍神」をテクテク訪ね歩いては、「こんな神さま見たことも聞いたこともないよ!」といちいち驚き、いちいち顎を外してきた。そのときの衝撃を臨場感たっぷりに追体験してもらえるよう、本書は旅行記のかたちで書かれている。私と共に旅をし、共に顎関節症になっていただければ、本書としてはひとまずミッション成功となる(九尾狐も大黒天もみなさんの想像しているそれとは全然違うものが出てくるのでお楽しみに)。

 ところで、実は本書にはもうひとつのサプライズが用意されている。注目してほしいのは私が採用したフィールドワークの方法だ。

 おそらく多くの読者は、「知られざる中国民間信仰の実態」などというディープでマニアックな対象を探求するのだから、さぞかしガチで専門的なフィールドワークが実施されたものと想像しているに違いない。

 だが、断言しよう。それは大いなる誤解である。なぜなら私がおこなったのは、若干の中国語力とスマホさえあれば誰でも取り組めてしまう、観光旅行に毛が生えた程度のかなり手軽なフィールドワークだったからだ。

 果たして、そんな舐めた方法で中国のディープでマニアックな領域に到達することなど本当にできるのだろうか。そのカラクリについては、目次のあとに続く「フィールドワークのしおり」にて詳細に解説しているので、珍神探訪に出かける前にぜひお目通しいただければと思う。

『中国TikTok民俗学 スマホからはじまる珍神探訪』では、

・フィールドワークのしおり
・第一章 逆立ち張五郎を探せ!
・第二章 張五郎にチラつく鬼の形相
・第三章 セクシー九尾狐に魅入られて
・第四章 タイの神秘とセクシー九尾狐
・第五章 大黒天の逆輸入
・第六章 お盆フェスの聖と俗
・第七章 闇に惹かれる人々、増殖する無常
・第八章 中原に花咲く無常信仰

という構成で、知られざる中国民間信仰の実態に迫ります。

大谷 亨
民俗学者。1989年、北海道生まれ。2012年、中央大学文学部卒業。2022年、東北大学大学院国際文化研究科修了。博士(学術)。現在、厦門大学外文学院助理教授、無常党副書記。専攻は中国民俗学。著書に、『中国の死神』(青弓社、2023年)。
※刊行時の情報です

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