逆立ちで泳ぐ不思議な魚<ヘコアユ>の生態 毒がある<ガンガゼ>に擬態して過ごす?
ヘコアユは逆立ちで群れをなして泳ぐ魚です。海には多種多様な魚たちがいますが、群れで逆立ちをして泳ぐ魚はなかなかいませんよね。
水族館でこの魚を初めて見た時には、不思議な泳ぎ方に驚き思わず二度見してしまいました。
では、なぜヘコアユは逆立ちで泳ぐのでしょうか?
逆立ちして泳ぐ? ヘコアユの不思議な泳ぎ方
ヘコアユは、逆立ちで泳ぐのが特徴的です。他の魚は頭からしっぽまで水平方向なのに、ヘコアユは頭を下にして垂直方向の体勢で泳いでいます。
群れで泳ぐので、水族館でもずらりとヘコアユが並んで泳いでいるのを目にすることができます。
なぜ逆立ちして泳ぐのか。その理由は大きく2つあると言われています。
その1. 敵から隠れるため
ヘコアユは、サンゴ礁や岩礁に生息。その泳ぎ方を生かして、ウニの仲間であるガンガゼのトゲの間に身をひそめます。
すると、ヘコアユの細長くて平べったい体や体の真ん中にある黒い線が、ガンガゼのトゲに擬態するのです。トゲと同じ垂直方向に体を向けて、ガンガゼに隠れると、魚と認識されにくくなります。
また、海藻が生い茂る藻場では、縦に泳ぎながら海藻のすき間に入り込んで、姿がわからないように隠れられます。ここでも体の黒い線が役立ち、海藻と調和します。まさに“海のかくれんぼ名人”ですね。
また、体が細長く平べったいので、角度によっては1本の線のように見え、捕食者から認識されにくいという特徴もあります。
その2. エサを食べるため
ヘコアユは、海底付近の小型動物プランクトンなどをエサとしています。動物プランクトンはあまり速く動かないので、ヘコアユは頭を下に向けて、ヒレで調整しながら小さな口で吸い込むのでしょう。
頭を下にして逆立ちで泳ぐ姿がスタンダードですが、ときどき水平に泳ぐこともあります。それは、敵から襲われた時です。
ゆったり泳ぐ姿からは全く想像できませんが、一時的に頭を前にして斜めや水平に素早く逃げられます。その姿を、いつかぜひ見てみたいものです。
水族館の水槽の中では敵の襲来は期待できないので、なかなか見られないかもしれませんね。
ヘコアユはアユの仲間ではない? 硬い体が特徴
名前に「アユ」がついているとアユの仲間だと思ってしまう人もいますが、見た目も泳ぎ方もアユとは似ても似つきません。
実は、ヘコアユはヨウジウオの仲間です。分類上では、トゲウオ目ヨウジウオ亜目に属していて、日本語の「ヘコ」(逆さ)と「歩む」(泳ぐ)という言葉に由来するという説もあります。
ヘコアユの体は硬く、うろこはありません。代わりに背骨とつながった硬い板のような組織で覆われています。この組織は甲板と呼ばれています。
鎧のように硬い甲板であることから、ヘコアユの体は曲がらずにピーンと縦に伸びています。体が曲がらないので、泳ぐときは主に小さなヒレを使います。
近くで見ると、小さなヒレが動いているのが観察できます。その姿を改めてみると健気でかわいらしく思えてきます。
ヘコアユには<ヨロイウオ>という仲間がいる
ヘコアユと同じヘコアユ科に「ヨロイウオ」という魚がいます。名前を聞いて、がっしりしてかっこいい姿を想像しますよね。ヘコアユも鎧のように硬い体を持っているのに、名前に差を感じてしまいます。
ヘコアユには、背びれの第1棘に関節がありますが、ヨロイウオにはありません。体の真ん中にある線の色が黄色や褐色で、ヘコアユに比べると薄いようです。そして、ヘコアユよりも長い管状の吻を持っています。
ヨロイウオは、インド洋・西大西洋に広く分布していて、日本では千葉や鹿児島などで見つかった記録があります。
群れで行動すると言われていますが、これまで単独個体でしか見つかっていないようです。
ヘコアユの泳ぎを水族館へ見に行こう
逆立ち泳ぎが面白いヘコアユの泳ぎ方の理由と、体の特徴について紹介しました。
ヘコアユがそろって逆立ちして泳ぐ姿をぜひ水族館に見に行ってみてくださいね。もし、横方向に泳ぐ姿が見られたらラッキーかもしれません!
(サカナトライター:竹原とも)