大トロ、中トロがあるのに、どうして小トロはないの?
ふらっと こども電話相談室
2024年7月10日放送
TBSラジオで長年親しまれた名物企画「全国こども電話相談室」(1964年~2008年)のコンセプトを受け継いだコーナーです。パンサーの向井慧が「電話のおにいさん」となって、毎回、様々な質問に合わせた頼もしい先生をお呼びしています。今回の質問は・・・
Q. どうしてマグロは大トロ、中トロがあるのに、小トロはないのですか?(東京都 ひろなちゃん 8歳 小学3年生)
(回答した先生)鈴木香里武さん/岸壁幼魚採集家
向井おにいさん:確かにそうだね。ひろなちゃん、お寿司は好きですか?
― 好きです。
向井おにいさん:大トロ、中トロを食べたことはある?
― あります。
向井おにいさん:でも小トロっていうのは聞いたことないもんね。
― はい。
香里武先生:ひろなちゃん、こんにちは。今日は質問してくれてありがとう。ひろなちゃんに言ってもらって、そういえば小トロないなって気づいて、ぼくも初めてこのことを考えました。ひろなちゃん、トロって、食べたときどんな味がしたかな?
― うーん、なんか言葉で表せない(笑)。
香里武先生:表せないよね(笑)。やわらかくて、本当にトロっとした感じがしたと思うんだよね。魚の体の中に入っている脂、これがトロっとしていて食べるととってもおいしいんですね。中トロとか大トロっていうのはマグロの体の中でも特に脂がのってるおなかの部分や背中の一部のことを言うんですね。
― はい。
香里武先生:それで、なんで小トロがないのかなんだけども、このトロっていうものが、たぶんその呼び名がついた順番が違うからかなというふうに思います。
― えーっ・・・。
香里武先生:どういうことかというと、昔、日本にまだ冷蔵庫や冷凍庫がなかった時代があるんですね。その頃は、魚を置いておいたら腐っちゃったわけです。だからすぐ食べなきゃいけなかった。マグロっていう魚は特に腐りやすいお魚で、その中でもトロと呼ばれる、脂がいっぱいのってる部分はすぐに身が悪くなっちゃったんですね。だから冷蔵庫ができる前のマグロは、赤身と呼ばれる部分しか食べられなかったんですよ。赤身もおいしいけどね。脂がのってない部分、赤身のところがマグロだったわけなんです。
― はい。
香里武先生:それが冷蔵庫や冷凍庫ができて、魚を新鮮なまま長い時間置いておくことができるようになったんですね。そうしたら、傷みやすかったトロの部分、脂がいっぱいのってる部分も食べられるようになって、みんなが「ここ、おいしいじゃん」って気づくようになったんですね。それが広まって、今、大人気になりました。
― へえ!
香里武先生:ということは、最初はトロなんてものはなかったわけです。後からトロっていうものができてきたんですね。特に脂がのってるのが大トロ、その次ぐらいに脂がのっているのが中トロ。じゃあ、元々あった赤身をわざわざ小トロっていう名前に変える必要があるかなっていうと、小トロって言うとなんか大トロと中トロのしょぼいバージョンみたいな感じがしない? なんかちょっとありがたくない感じ、おいしくなさそうなイメージになっちゃうから、小トロってわざわざ言わずに、赤身は赤身のまま今も呼び名が変わらず、後からできたふたつの名前が大トロと中トロになったのかなと思います。
― へえーっ。
香里武先生:これははっきりした答えがあるわけじゃないんだけれども、そんなふうにマグロは部分によって食べられるようになった時代が違うんだっていうことだけは覚えておいてもらえると、マグロの見方が変わるかなと思います。
― はい。
香里武先生:マグロはトロ以外にもいろんな部位に名前がついています。「ほほ肉」といってほっぺたの部分の肉とか、その横にある「カマ」って呼ばれる部分とか、いっぱいあるんですね。ぼくが特に好きなのは「脳天」といって、頭のてっぺんのところにあるお肉がすごくやわらかくて、甘くて、おいしいです。ひろなちゃんがもしお魚屋さんとかお寿司屋さんに行ってトロ以外のマグロの部位を見つけたら、ぜひ食べてみて。またマグロが大好きになるかもしれません。
― はい!
向井おにいさん:ひろなちゃん、小トロがない理由はわかりましたか?
― わかりました!
香里武先生:ひろなちゃんの質問は、魚を食べるという文化、魚食文化の歴史を考えさせられるような質問なんですよね。マグロは腐りやすかったら昔はあんまり価値のない魚だった。
向井おにいさん:ああ、だからサカナ界にも急に位(くらい)が上がったやついるがいるってことなんですね。
香里武先生:キンメダイもそうです。深海魚も傷みやすいし、取りにくいし、あんまり知られていなかったのが、ここ数十年で一気に高級魚になっちゃった。
(回答者プロフィール)鈴木香里武さん。全国の漁港に出かけ岸壁に集まる魚の赤ちゃんを観察・研究している「岸壁幼魚採集家」。たくさんの人に魚の魅力を伝えながら、幼魚ばかりを集めた世界的にも珍しい「幼魚水族館」(静岡県清水町)の館長も務めています。