Yahoo! JAPAN

福岡「天神ビッグバン」後半戦の現在地 ハード整備から”歩きたくなる街”への質的変化

LIFULL

2025年4月に開業した「ワンビル」。開業後1年の来館者は延べおよそ1450万人

天神ビッグバンは「後半戦」へ ハード整備から街の質的変化へ

天神ビッグバンは2026年、新たな局面へ

福岡市が2015年に始動した都市再開発プロジェクト「天神ビッグバン」は、2026年を迎えて新たな局面に入っている。前半戦の主役は高機能オフィスビルの供給だった。天神交差点から半径約500mのエリアで次々と高層ビルが建ち上がり、街のスカイラインは大きく塗り替えられた。航空法による高さ制限の緩和と市独自の容積率緩和制度を組み合わせた規制緩和策が民間投資を呼び込み、耐震性の高い先進的なビルへの建て替えが加速した。

後半戦のキーワードは「緑」「回遊」「滞留」だ。ビルを建て替えるだけでなく、街を歩く人が自然と足を止めたくなるような空間を、いかにつくるかが問われている。そのための仕掛けが、今まさに天神の至るところで動き始めている。

【LIFULL HOME'S】福岡市の不動産・住宅を探す
【LIFULL HOME'S】福岡市の投資用不動産を探す

2025年4月に開業した「ワンビル」。開業後1年の来館者は延べおよそ1450万人

象徴的な存在が、2025年4月24日に開業した「ONE FUKUOKA BLDG.(ワンビル)」だ。ワンビルは、旧福岡ビル・天神コア・天神ビブレの跡地に建てられた地上19階、高さ約97mの大型複合ビルだ。開業1周年を迎えた今も、天神ビッグバンの「顔」として多くの来街者を集めている。商業・オフィス・ホテル・会議・イベント施設を一棟に凝縮したこの複合施設は、天神地下街に直結し、地下回遊ネットワークの中核にもなっている。

開業時点で全体130店舗が入居し、そのうち約半数が「福岡ではワンビルだけ」で体験できるテナントという構成は、天神に新たな集客の核を生み出した。かつてこの場所に立っていた旧福岡ビルの開業は1961年にさかのぼる。65年の時を経て生まれ変わったワンビルは、天神ビッグバンが単なるビルの更新ではなく、街の記憶を引き継ぎながら未来へと続く再生であることを体現している。

水辺・地上・地下をつなぐ「ウォーカブル」の実装

春吉橋は博多区と中央区の境目に位置する。繁華街も近く夜を中心に賑わいを見せる

天神ビッグバンが後半戦で重視しているのが、歩行者が快適に街を回遊できる環境の整備だ。その取り組みは、水辺・地上・地下の三層にわたって進められている。

水辺では、那珂川沿いの春吉橋が一つの事例として挙げられる。架け替え工事で生まれた迂回路橋梁を撤去せずに橋上広場として活用しているこの空間では、飲食イベントや音楽ライブが継続的に開催され、グルメとエンターテインメントを組み合わせた賑わいの場として定着している。

天神ブリッククロスのプロムナードは都心とは思えない快適さ

地上では、明治通りから昭和通りをつなぐ都市計画道路「天神通線」の整備も進んでいる。天神ブリッククロスの東側には同道路と一体となった幅員8mのプロムナードが設けられ、常緑並木と壁面緑化が歩行者を迎える空間になっている。

地下では、歩行者ネットワークの拡張が着実に進んでいる。2018年に天神ふれあい通り地下通路が、2022年8月には因幡町通り地下通路が開通した。前者は天神地下街の東側からアクロス福岡・天神中央公園方面へ東に延びる通路、そして後者は天神交差点から福岡市役所方面へ北に延びる通路で、天神地下街を核にした歩行者ネットワークが東・北の両方向へと広がっている。なかでも因幡町通り地下通路は、天井に不燃木ルーバーを用いた温かみのある空間で、既存の天神地下街のデザインを継承しつつ、新たな地下空間としての魅力を持つ。

天神地下街を核に、地下通路と各ビルの接続が広がることで、天神エリア内を地上に出ることなく移動できる範囲がさらに拡大している。

公開空地と広場が生む「街路レベルの公園」

「セットバック」によりワンビル前の歩道にも余裕ができた

ビルの建て替えにともなって、地上の歩行者空間にも変化が起きている。こうした取り組みの一つが「壁面後退(セットバック)」という手法で、ビルの壁面を敷地境界から後退させることで歩道と一体化したゆとりある空間を生み出す。天神ビッグバンエリアでは複数のビルでこの手法が取り入れられており、植栽・ベンチ・パブリックアートなどを組み合わせることで、街路に人が立ち止まれる場所が生まれつつある。

この動きを後押ししているのが「天神ビッグバンボーナス」の認定制度だ。魅力あるデザイン性を持つビルに対して容積率緩和などのインセンティブを付与するこの制度は、緑化・広場整備を認定要件の一つとしており、各デベロッパーが競うように低層部の公開空地や緑化に取り組む状況を生んでいる。都心部の緑化推進やパブリックアートの設置といった取り組みと組み合わせることで容積率をさらに最大50%上乗せできる仕組みも用意されており、開発者にとって緑化は「義務」ではなく「メリット」として機能している。

ワンビル前のアート作品「ピクセルツリー」。椅子も設置されており休憩する人の姿も多くみられる

すでに竣工したビルでも、こうした取り組みは随所に見られる。ワンビルでは天神交差点に面した角地に2ヶ所の広場を設け、パブリックアートとともに街行く人が立ち止まれる空間を創出した。天神ブリッククロスでは昭和通り側に地上広場、明治通り側に地上・地下一体の立体広場を設けている。個々のビルの取り組みが街路レベルでつながることで、天神は徒歩で回遊しながら随所に「居場所」を見つけられる街へと変わりつつある。

旧イムズ跡地が示す「公園化」の集大成

天神の文化をけん引してきたイムズ(右のビル)は2021年8月に閉館。

天神ビッグバン後半戦における「公園化」の方向性を最も鮮明に示す事例が、旧イムズ跡地で進む「(仮称)天神1-7計画」だ。

1989年から2021年までの32年間、天神の文化発信拠点として親しまれたイムズ。その跡地では、三菱地所が開発するオフィス・ホテル・商業の複合ビルが建設中だ。地上21階・地下4階・高さ約91mのこのビルは、当初2026年12月末の竣工を予定していたが、地下工事の進捗などを踏まえて2027年5月末への延期が2025年12月に発表された。

開発コンセプトは「福岡文化生態系~福岡のあたらしい文化を共に創造し続ける~」。イムズが担ってきた文化発信の役割を次世代へと引き継ぐという思想が込められている。ホテルには米・シアトル発のブランド「エースホテル」が出店予定で、日本では京都に続く2施設目となる。

イムズ跡地に建設予定の施設イメージ(出典:三菱地所株式会社「(仮称)天神1-7計画」

注目すべきは建物外周部の設計だ。九州産材のCLTパネルと植栽を有機的に配置した外装は、緑豊かな街並みの形成に貢献する。低層部には900m2を超える緑地を設け、ベンチなどの休憩施設も整備される計画だ。地下2階は天神地下街・ワンビル・因幡町通り地下通路と接続し、地下回遊の核に位置する形でネットワークに加わる。地上の緑豊かな広場と地下回遊ネットワークが一つのビルの中で結びつく構造になっている。

低層部の1階には路面店舗が並び、エースホテル福岡のエントランスも設けられる。街路と建物が連続し、歩く人を自然と引き込む仕掛けが随所に組み込まれている。天神1-7計画は、ウォーカブル・公園化・地下回遊という天神ビッグバン後半戦の三つのテーマが一棟のビルに凝縮された存在として、2027年の完成が待たれる。

ビルの完成はゴールではない、ソフトの成熟こそが天神ビッグバンの真価

工事中のイムズ跡地。様変わりした天神の街は「滞留する街」へ

天神ビッグバンの前半戦は、耐震性の高い先進的なビルを供給することに主眼が置かれていた。それ自体は確かな成果を上げたが、街の魅力とは建物の新しさだけで決まるものではない。

後半戦が示しているのは、ハードの整備を土台に、どれだけ「歩きたくなる仕掛け」を積み重ねられるかという問いへの挑戦だ。地下通路でつながる回遊性、セットバックが生む街路レベルの緑、そして緑地と広場を擁する新たなランドマークの誕生。これらが組み合わさって初めて、天神は「訪れる街」から「滞留する街」へと変わっていく。

天神1-7計画の竣工を経て、天神ビッグバンが描く街の姿が出そろうのは2027年以降になる。ビルや広場の完成はゴールではなく、そこで生まれるソフトの成熟こそが天神ビッグバンの真価だ。緑の中を歩き、地下を抜け、広場で時間を過ごす。そんな当たり前の日常が積み重なることで、人が自然と足を向けたくなる場所へと変わっていく。その変化は今まさに進行中である。

成重 敏夫
編集者・ライター・広報
福岡県在住のWeb編集者・ライター。北九州市と福岡市を拠点に、スポーツ(特に野球・サッカー)、地域の取り組み、DX、GX、スタートアップなど、多彩なテーマで取材・執筆を行う。観光施設の広報としても活動し、地域の魅力を多角的に発信中。北九州市のローカルメディア「キタキュースタイル」を運営し、街と人々の魅力を発信している。また、企業やプロスポーツチームへの取材を通じ、地域の活性化や新たなビジネスの創出に貢献する記事を提供している。2022年2月に株式会社プランチャを設立し、地元企業の情報発信支援に取り組む。

【関連記事】

おすすめの記事

新着記事

  1. 渓流釣りの危険生物・毒草を徹底解説 【熊・マムシ・マダニから身を守る方法】

    TSURINEWS
  2. <ギンカクラゲ>21日間の飼育に成功! 観測記録から数年間も海の表面を漂う可能性が示される 

    サカナト
  3. 展示総数189点!松永文庫で「日本映画資料展」開催中 文学作品の映画化の過程とは?【北九州市門司区】

    北九州ノコト
  4. 新たな観光資材?それとも厄介者? 海を真っ赤に染めて青く光る「夜光虫」とは

    TSURINEWS
  5. ★明日のラッキー星座は? 12星座占い・運勢ランキング - 4位~12位【2026年6月7日(日)】

    anna(アンナ)
  6. ★明日のラッキー星座は? 12星座占い・運勢ランキング - 1位~3位【2026年6月7日(日)】

    anna(アンナ)
  7. 猫と人間の『生活リズムがズレている』ときの対処法4つ 崩さないためのコツや合わせるメリットまで

    ねこちゃんホンポ
  8. セットが楽で扱いやすい!今マネすべきショートヘア〜梅雨編〜

    4MEEE
  9. 防犯カメラにツキノワグマらしき動物 伊賀市桐ケ丘で 市が注意喚起

    伊賀タウン情報YOU
  10. 5月の「横須賀海辺つり公園」釣行レポート:サビキ釣りでカタクチイワシが爆釣!

    TSURINEWS