ピングーの新たな魅力に出会える! 『可愛いだけじゃない!?ピングー展』レポート
スイスの映像作家、オットマー・グットマン氏によるクレイアニメ『ピングー』。主人公のピングー、妹のピンガ、そしてパパとママからなるコウテイペンギンの一家と仲間たちを描く、キュートでユーモラスなこのアニメは、日本の地上波においては1993年から2000年にかけて放送され、現在でいう“平成1桁世代”の子どもたちを魅了し、今なお愛され続けている。
東京国際フォーラムに新たにオープンしたYURAKUCHO MUSEUMでは、こけら落としとなる展覧会『可愛いだけじゃない!?ピングー展』が開催中。アニメーション制作で実際に使用されたクレイモデルや貴重な資料の展示のほか、インタラクティブな体験型展示も設置され、まさに「可愛いだけじゃない」ピングーの多面的な魅力にふれることができる。
世界中の子どもたちを笑顔にする“ピングー語”の世界
開幕に先立って開催されたプレス内覧会では、YURAKUCHO MUSEUMの館長に就任したアートプロデューサー・キュレーターの中山三善氏、そしてピングーとピンガが揃って登場し、本展のテーマや見どころについて解説した。
155を超える国で放送される『ピングー』の魅力ついて、すべてピングーたちによる独自の言語“ピングー語”で構成されるため、放送国の言語への翻訳が必要なく、独自の国際性をもつことを挙げた中山館長。「どの国の子どもたちが観ても笑顔になれる『ピングー』は、YURAKUCHO MUSEUMのスタートにふさわしい展示です」と語り、おすすめのポイントについて聞かれると、来場者の話した言葉を“ピングー語”に変換させる体験型展示であると回答した。
クラフトマンシップを感じるクレイモデルたち
展示は主要な登場人物の紹介からスタートする。やんちゃで元気なペンギンの男の子・ピングー、初登場時はまだ卵の姿で、シリーズを追うごとに背中が黒くなっていくなど成長を見せる妹のピンガ、郵便局で働くパパと、料理や編み物が得意でいつも優しいママ。それぞれのプロフィール紹介のパネル展示とともに、アニメ制作で使われたサイズのクレイモデルが展示される。
なお全体を通してパネル展示には実に細かな解説があり、ピングーをよく知らないという人でも、展示を楽しむことができる構成となっている。中にはパネルにはめ込まれた映像でアニメのワンシーンを視聴できる仕掛けもあり、まだ文字の読めない小さな子どもでも、ピングーの世界を知ることができそうだ。
本展には実に多くのクレイモデルが展示されている。幼少期にアニメをリアルタイムで視聴していた筆者の思い出にも刻まれている、印象的なエピソードで使用されたクレイモデルの展示も、いくつか見ることができた。
たとえば、くちばしに怪我を負ってしまい病院へ連れて行かれるものの、ピングーが怖くて逃げ出してしまう「ピングーとお医者さん」(シリーズ2 第1話)や、ピングーがパパとママに代わってピンガを幼稚園へ連れて行く「ピンガの幼稚園」(シリーズ2 第23話)など。放送当時、病院を嫌がって泣くピングーに共感したり、ピンガたち赤ちゃんペンギンの可愛さに悶えたりしたことなどが思い起こされるとともに、実際のクレイモデルの小ささと繊細さに驚かされた。
実際に使用されたクレイモデルの展示だけではなく、アニメのワンシーンを再現したジオラマも多数展示されている。ピングーたちクレイモデルはもちろん、家のインテリアや、食器や食べ物に至るまでディテールにこだわられていることが確認できる。
なお、『ピングー』シリーズは2017年にNHK Eテレで放送された『ピングー in ザ・シティ』より3DCG製作に切り替わっているが、それ以前はストップモーションアニメの手法で制作されていた。ピングーは豊かに表情を動かしたり、自由自在に身体の形を変化させたりすることで喜怒哀楽を表現するが、それらはいくつものクレイモデルを用いて、コマ撮りでつくられたもの。AIに頼めばものの数分で動画を生成できる現代では計り知れない労力が、1本5分のアニメにかけられていたのだ。
コロコロ変わるピングーの表情や、変幻自在なピングーの身体の展示にも注目し、ぜひそのクラフトマンシップに想いを馳せてみて欲しい。
初期ピングースタジオの貴重な資料の展示も
中山館長によれば、本展のテーマは“遊園地”。実は『ピングー』原作者の一人であるオットマー氏は、シリーズ2 第16話「ピングーの遊園地」制作中、心臓発作のために56歳の若さでこの世を去っており、以降『ピングー』シリーズは新たなスタッフを迎えて制作されている。本展は、志半ばで制作チームから去ることになった、オットマー氏の意思を継ぐものにもなっている。
「ピングーの遊園地」は、オットマー氏の生前に序盤は制作されていたものの、後半部分が欠けたままになっていたという。彼の没後、友人であった日本人アニメーターの甲藤征史氏が制作チームに参加し、オットマー氏が生前制作していたセットや小道具から内容を推測しながら完成させたのだそうだ。
本展では、初期のスタジオメンバーの紹介や制作の様子、当時使用されていた絵コンテや制作メモなどの貴重な資料も展示されている。世界を夢中にさせるクレイ・ストップモーションアニメがどのようにつくられていったのか、その軌跡をなぞることもできる。
大人も子どもも楽しめる充実の体験型展示
中山館長のイチオシである“ピングー語変換”をはじめ、大人も子どもも遊びながら楽しめる体験型展示も、非常に充実している。
ポンプでプッシュするとモニターに映し出されたピングーたちがふわふわと浮き上がるものや、竿を引くとピングーとパパと一緒に釣りを楽しめるもの、ハンドルをぐるぐる回すのに合わせて映像の樽の中からピングーが姿を現すものなど、好奇心を刺激する仕掛けがそこかしこにあった。
とくに子どもに喜ばれそうなのが、ピングーの声をダンスミュージックにのせ、大きなモニターの中のピングーの動きをマネする“ダンスフロア”。モニターの中でピングーは飛び跳ねたり身体の形を変えたりするため、そのまま動きをコピーするのはほとんど不可能なのだが、なんとか再現しようとがむしゃらに踊れば、思わず笑いがこみあげてきそうだ。
また、見上げるほど大きいピングーバルーンや、写り込むと自分の顔がピングーやピンガ、ピングーの親友であるアザラシのロビに変化してしまう不思議なモニター、言わずと知れたコワイ回「ピングーの夢」(シリーズ1 第26話)に登場するトドの巨大なパネルなどのフォトスポットも点在している。一緒に写真を撮れば、ピングーの世界観に入り込んだような没入感がより得られるだろう。
ミニチュア写真家・見立て作家の田中達也氏によるコラボレーション作品も
展示のラストを飾るのは、アーティストの田中達也氏とのコラボレーション作品だ。田中氏といえば、日常にある身近なアイテムを別の物に見立て、ユニークなミニチュアの世界をつくりだすミニチュア写真家・見立て作家として知られる。
思わずクスッと笑ってしまうようなユーモラスな世界観、ややシュールなアイデア、そして何といっても大衆の心を掴んで離さない可愛さ。田中氏の作家性と『ピングー』シリーズには、いくつかの共通項があるように感じられた。“可愛いだけじゃない”魅力をもつこのコラボレーション作品は、本展でしか楽しめないものなので、ぜひ期間中に足を運んでみて欲しい。
ミュージアムショップにはオリジナルグッズが目白押し
展覧会場横に並ぶミュージアムショップも見過ごせない。「可愛いだけじゃない!?ピングー展に行ってきました プリントクッキー」や「ピングーパインアメ」などのスイーツ、オリジナルTシャツやポーチ、ぬいぐるみやチャーム、フィギュア、田中達也氏とのコラボ作品のポストカードやクリアファイル、公式キャラクターブックなど、ここでしか購入できないオリジナルグッズが目白押しなのだ。
中には、さまざまなピングーのフレークシールの中から好きなものを選んで詰め合わせる「フレークシールバイキング」や、韓国発のセルフフォトブース「Photomatic(フォトマティック)」のピングーフレームバージョンなど、トレンドをおさえたブースも。ミュージアムショップもあわせて、『可愛いだけじゃない!?ピングー展』は、昨今の平成レトロブームをさらに盛り上げる企画となりそうだ。
『可愛いだけじゃない!?ピングー展』は、9月6日(日)まで東京・YURAKUCHO MUSEUMにて開催中。
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文・写真=藤間 紗花