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バスが迷惑車両を「取り締まる」デジタル戦略とは Hayden AI創業者に聞く

TECHBLITZ

駐車禁止区間への駐車やバス専用レーンの走行といった交通違反は、交通を妨げ、事故にもつながりかねず、世界中で問題となっている。こうした問題の解決に向け、Hayden AI(本社:米国カリフォルニア州、以下Hayden)は、バスなどに取り付けた高性能カメラとエッジAIを用いて、街中の交通違反を自動で検知するソリューションを提供している。共同創業者でCEOのChris Carson氏に、製品の特徴や今後のビジネス展開について話を聞いた。

バス専用レーンの違反を自動で取り締まり

 Haydenのフラッグシップ製品は、バス専用レーンの違反を自動で取り締まるソリューションだ。

 まず、街中を走行するバスに搭載された独自開発カメラが、交通違反の可能性がある車両を自動で検知する。カメラは違反車両のライセンスプレートの詳細を抽出し、位置情報など関連証拠も収集する。その後、エッジプロセッシングで情報を処理した上で、検挙に必要なデータだけがクラウドサーバーに送られる。送られてきたデータはより本格的な処理が施され、取り締まりを担う行政機関などに送信されるという仕組みだ。

 同社が提供するプラットフォームには、これらの情報をダッシュボードで一元管理するデータポータルも含まれている。このポータルは、証拠検証の合理化、データ分析、データの視覚化などの機能を有している。

 Carson氏は「例えば、バスを運行する交通局が当社のプラットフォームを購入する場合、ハードウェアを顧客のバスに導入し、ソフトウェアでサービスを提供します。クラウドとの双方向通信が可能であり、私たちはいつでも機能の追加やアップデートを行うことができます」と説明する。

 現在、Haydenのソリューションはバスだけでなく、パトカー、ゴミ収集車、道路清掃車、スクールバスなど、さまざまな車両に適用することができる。

フロントガラス越しでも高精度な撮影可能

 Haydenは、フロントガラス裏側に設置するAIカメラシステムで特許を取得している。一般的に、こうしたカメラは屋根の上や側面といった車両の外側に取り付ける必要がある。しかし、Haydenが独自開発したカメラは、赤外線が遮断されやすいフロントガラス越しでも高精度な画像撮影が可能。そのため、車両の内側(フロントガラスの裏側)に取り付けられ、さまざまな天候条件にも対応して動作するカメラシステムとなっている。

 このカメラシステムは、提供開始してから1年未満で、主にニューヨーク、ワシントンDCを中心に650台のバスに導入された。2023年末にかけてさらに米国外でも多数配備される予定で、来年には導入数は3倍以上になる見通しだという。

「私たちは急成長期を迎えていると思います。社員数も、昨年は30人でしたが、現在は100人を超え、来年末には200人にまで増員する予定です」

創業のきっかけはバス運転手のある行動

 Carson氏がこうしたソリューションの開発に取り組んだのは、過去に自身が見たバス運転手のある行動がきっかけだったという。

「サンフランシスコでバスに乗っていた時、バスの運転手がハンドルから手を離して、窓についているカメラのボタンを何度も押していることに気が付きました。それは、バス停やバス専用レーンに違法駐車をしている車両をカメラで捉えるためでした」

 これを見て、バス運転手の負担が大きいと感じた同氏はこう考えた。「私はAIを活用して違法車両の撮影を自動化する端末を開発することを思いつきました。そうすることで、運転手はハンドルから手を離す必要がなくなり、運転に集中することができると思ったからです」

膨大な収集データで街のデジタルツイン

 Carson氏は、早稲田大学で情報アーキテクチャとコンピュータビジョンの修士号と博士号を取得。その後、三菱重工でキャリアを積んでおり、日本との関係が深い。Haydenの創業前にも、複数のテクノロジー企業を創業した連続起業家でもある。

「私自身は、地理空間データにずっと魅了されてきました。コンピュータビジョンAIを使って地理空間データを識別し、HDの3D地図やインフラのデジタルツインを構築するにはどうしたらよいかを考えました。そして、都市部や郊外までをカバーし、常に走っているバスは、ソリューションに適していることが分かりました」

 バスなどが収集する膨大なデータを活用してHaydenが取得する街のデジタルツインは、交通違反以外にも、交通渋滞などさまざまな都市課題の解消に役立てられる。例えば、交通事故や事件が起きるとダッシュボードの地図上でアラートが表示される機能や、事故リスクが高い箇所を事前に知らせてくれる機能、都市構造の改善に関わるインサイトを提供する機能など、さまざまな用途での活用が期待されている。

Chris CarsonHayden AICo-Founder & CEO米Lynn Universityで国際経営学部を卒業後、早稲田大学大学院に進み、情報アーキテクチャとコンピュータビジョンの修士号と博士号を取得。三菱重工業では、イノベーション部門でディレクタ―に就任。複数のテクノロジー企業を立ち上げた連続起業家でもある。2019年にHayden AIを共同創業し、CEOに就任。

バス運行の効率化は環境にも優しい

 Haydenのソリューションは、ESGの観点からも優れているという。

「バスが停車している時間の50%は、バス停での停車、赤信号や交差点での停車、そして他の車両に邪魔されて停車しているかのいずれかです。バス専用レーンやバス停留所での違法駐車を失くせば、アイドリング時間を減らすことができ、二酸化炭素の排出量も減らすことができます」

 また交通局など向けに、バス専用レーンを利用するバスの台数を入力し、実際に削減できる排出量を試算できるオンライン計算ツールを提供している。取り締りを自動化することによって違法駐車をなくし、バスをスケジュール通りに運行することで排出量を削減する方法を紹介する。

「これは、バスをスムーズに走行させることでどのような影響があるのかを視覚化する素晴らしい方法です。バス運行の効率を上げ、自動車よりもバスが効率的になれば、より多くの人がバスに乗るようになる。それによって、サステナビリティが向上することはいうまでもありません。都市の混雑を緩和することにも繋がります」

image: Hayden AIHP

日本支社の設立から東アジア、インド市場への参入を目指す

 日本に約15年住んだ経験のあるCarson氏は、日本での参入に意欲的だ。

「最近、日本拠点を設立しました。今後、日本拠点が東アジア、インドなどにおける販売のゲートウェイとして機能することになるでしょう。日本の大手企業も投資をしてくれています。私たちは日本国内だけではなく、日本国外でも強い日本企業との提携を望んでいます。インフラのデジタルツイン構築やマッピングなど、私たちが日本企業との提携に興味を持っている分野です」

 また、今後の活動として、2つのユースケースに取り組んでいく。

 1つ目は、スクールバスの安全性確保。米国では、子供たちが安全に道路を横断できるよう停車しているスクールバスを車が違法に追い越していくことが問題視されている。Haydenは、スマートモビリティ技術ソリューションの世界的プロバイダーであるConduent Transportationと共に、スクールバスに乗車する子供たちの安全性向上を目的とした自動化技術ソリューションを開発する。

 2つ目は、自転車専用レーンの取り締まりだ。自転車専用レーンを駐車場として利用するケースも問題となっている。自転車は車両を避けるために、車線に入ることを余儀なくされ事故の危険性が生じるためだ。Haydenは、自転車専用レーンでの駐車違反について、どのバスでも自動取り締まり対応が可能となるよう、既存の技術キットへの機能追加に取り組んでいる。

従業員数なし

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