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中川晃教、相葉裕樹が役を深め、新たな作品を魅せる ミュージカル『CROSS ROAD~悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ~』ゲネプロレポート

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ミュージカル『CROSS ROAD~悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ~』舞台写真

2012年に東宝初の朗読劇として上演された『CROSS ROAD』。音楽朗読劇VOICARIONシリーズを手がける藤沢文翁が、天才的な演奏で“悪魔と契約した”と噂されたヴァイオリニスト・パガニーニの生涯を描いたオリジナル作品だ。2022年にはミュージカル化され、2年越しに早くも再演が行われる。

パガニーニと契約した音楽の悪魔アムドゥスキアスを演じるのは、初演から引き続き中川晃教。音楽の才能はあるが天才ではないことに苦しむパガニーニは、初演でも同役を務めた相葉裕樹と、今回が本作初出演・東宝ミュージカル初主演の木内健人がWキャストで演じる。さらに、ジプシーの娘・アーシャを加藤梨里香有沙 瞳(Wキャスト)、ナポレオンの妹・エリザを元榮菜摘、ヴァイオリン教師のコスタとベルリオーズの二役を坂元健児、パガニーニの執事アルマンドを山寺宏一畠中 洋(Wキャスト)、パガニーニの母・テレーザを春野寿美礼。演出を末永陽一が担当する。

※以下、ゲネプロレポート。ネタバレが気になる方はご注意ください。

パガニーニを相葉裕樹、アーシャを加藤梨里香、アルマンドを畠中 洋が演じたゲネプロの様子をお届けしよう。

前日の囲み取材でも語られていたように、今回は盆が使われ、舞台セットが大きく変わっている。セットの動きや末永による新演出によって、パガニーニが自らの意思とは関係なく様々なことに巻き込まれて翻弄される様子、パガニーニとアムドゥスキアスの対峙などがよりドラマティックに感じられた。

音楽の悪魔が存在する作品らしい多彩な楽曲も大きな魅力。厚みのあるバンドサウンドがシーンに合わせてクラシックやロックを奏で、「次はどんな曲を聴けるんだろう」とワクワクする。同じメロディがキャラクターや場面に合わせたアレンジで繰り返し登場することもあり、耳に残る名曲揃いだ。

相葉が演じるパガニーニは、囲み取材で中川が話していた通り熟成された印象を受けた。初演からさらに洗練され、アムドゥスキアスが執着するのも納得の輝きを放っている。“悪魔と契約したヴァイオリニスト”と噂され、徐々に気難しくなっていくパガニーニだが、保護者のような執事のアルマンド、天真爛漫なアーシャとの微笑ましいやりとり、母であるテレーザに見せる少年のような姿は純粋さや人間臭さがあって魅力的だ。音楽に対する渇望、家族の期待に応えたいという思いで悪魔と契約してしまう青年の苦悩を繊細に描く一方、アムドゥスキアスに翻弄されてばかりではない強さも感じさせる。

中川演じるアムドゥスキアスは音楽を自在に操り、柔らかく甘い歌声で人生の十字路に迷い込んだ人々を翻弄する。パガニーニが自分の思い通りに素晴らしい演奏をするのを聞いて目を輝かせていたり、意に沿わない行動に不満を訴えたり。パガニーニを自身の芸術作品として完成させるべくあれこれ口を出す様子は、悪魔らしい恐ろしさがある一方で可愛らしくもある。“契約を交わした人間と悪魔”というより音楽を愛する同士のように見える場面もあり、憎みきれない愛嬌があった。
前回と同じく、パガニーニの超絶技巧はダンスで表現されている。実際にヴァイオリンを手に持っているため動きが制限されるかと思いきや、アンサンブルのサポートもあり、演奏フォームを取り入れつつダイナミックな表現になっており華やかだ。アムドゥスキアスに操られているように見える場面もあるが、挑むような強い眼差しが印象的なシーンも多く、パガニーニ自身の向上心や負けん気も感じられる。

相葉の凛とした佇まいと歌声、中川の怪しく美しい歌唱のハーモニーが心地よく、二人が奏でる音楽に酔いしれてしまう。“100万曲”という期限の中で二人の関係性やパワーバランスが微妙に変化し続けており、相葉演じるパガニーニの煌めきにアムドゥスキアスのほうが囚われているように見えることもあるのが面白い。

加藤演じるアーシャは、人懐っこい笑顔が愛らしい。自由に生きたいと話し、辛辣にあしらわれてもめげることなくパガニーニについて回る前向きさが、作中に明るい空気をもたらしている。ヴァイオリンを持って軽やかに舞い踊る姿からも音楽に対する思いが感じられ、パガニーニが彼女にほだされる気持ちが理解できる。

畠中は、皮肉やコミカルなセリフを挟みながら主人を支え、見守るアルマンドを好演。パガニーニへの忠誠心と愛情が言葉や表情の端々から感じられた。自堕落な生活をする主人を心配し、時に叱る姿は気のおけない友人のようでもあり、父親のようでもある。アーシャとアルマンドがパガニーニの思い出を振り返りながら笑っている様子を見ていると、演奏するたびに孤独になっていくパガニーニが決してひとりぼっちではなかったのだと感じられてホッとする。

ナポレオンの妹・エリザ役の元榮は、パガニーニを破滅に導くファム・ファタルを切なく愛らしく演じた。全て持っているように見える彼女の苦悩、本当は優しく脆い心が伝わるまっすぐな歌唱が胸に響く。彼女の行動が愛情によるもので、笑顔にも嘘がないことがわかるぶん、課せられた運命の非情さも際立っている。

また、坂元が演じる音楽家・ベルリオーズも印象的だ。『幻想交響曲』などで知られる彼は、本作においてはパガニーニの本心、音楽への愛情を理解する存在の一人。同時に、十字路に差し掛かる人間の一人でもある。ベルリオーズとの対比が、パガニーニの苦悩と後悔を色濃く見せていた。ユーモアを感じさせる坂元の役作り、音楽家らしい繊細な歌声のギャップも楽しい。

そして、パガニーニが十字路に迷い込むきっかけでもあり、彼の心を支え続けたのが、息子の才能を信じ、活躍を喜ぶ両親。母・テレーザ役の春野は、母親の愛情深さや子どもを守る強さを見事に表現。パガニーニを取り巻く環境が変化していく中でも一切ブレることなく息子を信じて愛する芯の強さが眩しい。胸に染み込むようなあたたかさを持つセリフや歌唱は、アムドゥスキアスとはまた違う圧倒的な力を持っている。

ニコロ・パガニーニという人物の生涯を、魅力的な楽曲とキャラクターで描く本作。心に響くセリフや歌詞も多く、パガニーニや彼の音楽について知っている方はもちろん知らない方も、人間ドラマ、上質なミュージカルとして楽しめるだろう。

本作は5月12日(日)までシアタークリエにて上演された後、5月17日(金)~19日(日)まで大阪、5月24日(金)~26日(日)まで福岡でも公演が行われる。

取材・文・撮影=吉田沙奈

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