地域に育てられた企業だから、地域へ恩返しがしたい|ひまわりネットワークがアスリート社員を採用する理由
「地域に支えられている企業だからこそ、地域に恩返しがしたい。地域とのつながりが、アスリート採用の始まりでした」
愛知県豊田市に拠点を置くひまわりネットワーク株式会社は、2名のアスリートを社員として採用し、競技と仕事を両立できる環境を整えてきました。その背景にあるのは、地域に育てられた企業として、地域へ恩返しをしたいという想いです。
アスリートの挑戦を支えることが、地域や会社の未来にもつながっていく――。その理由を、代表取締役社長・堀井敦さん(以下、堀井)に伺いました。
トヨタで見た“アスリート社員”という文化
ーー企業としてアスリート社員を採用し、応援していくことになったきっかけを教えてください。
堀井)私は60歳までトヨタ自動車株式会社で働き、その後、豊田市にあるひまわりネットワークの社長に就任しました。
トヨタ自動車には、野球やラグビー、陸上、バスケットボールなど、多くのアスリート社員がいます。例えば、名古屋グランパスの初代キャプテンを務めた澤入重雄さんも同期でしたし、上司にはラグビー日本代表だった方もいました。
私自身、そうした環境の中で長く働いてきたので、スポーツ選手はとても身近な存在でした。都市対抗野球では東京ドームへ応援に行きましたし、優勝した際には会社全体が大きな盛り上がりを生むという文化を感じていました。
ーーアスリートの存在が会社の一体感を生み出していたのですね。
堀井)ひまわりネットワークでアスリートの採用に踏み切る大きなきっかけは、同じ豊田市にある中京大学スポーツ科学部とのつながりでした。全国トップクラスのアスリートが集まる環境で、当社にも卒業生が多く在籍しています。スポーツを通じて培われる規律や姿勢は、会社にとって大きな力になると実感しています。一方で、採用面では人材確保という課題も抱えていました。
そうしたなかで、「競技を続けたい学生を支えながら、意欲溢れる人材と出会える取り組み」として、“アスリート採用”は、地域への恩返しと企業の成長を両立する取り組みであり、非常に意義のある選択でした。
代表取締役社長・堀井敦さん
「競技を続けたい」に応えるアスリート採用
ーー現在は、2名のアスリート社員を採用されています。
堀井)1人目の松本周也選手は、水泳で学生日本一を経験し、日本選手権でも3位に入った実績がありました。ただ、それほどの実績があっても個人で“プロ選手”として活動を続けていくのは難しいのが現実でした。
本人には社会人になっても水泳を続けたいという強い意思があり、大学側も「まだ成長の余地がある」と期待を寄せていましたが、仕事と競技を両立できる就職先はなかなか見つかりませんでした。そんな中、当社の役員からアスリート採用のアイデアが提案され、本格的な検討が始まりました。
水泳だけで生活できる選手は一握りです。競技の世界で高みを目指しながら、引退後は社員として働ける環境をつくり、安心して競技にも打ち込めることを前提として、2023年に松本選手を採用しました。
ーーアスリートの“人生”を応援する取り組みですね。
堀井)まずは、競技面の環境を整えることから意識してきました。入社した2023年は、パリ・オリンピックの前年で、できる限り競技に集中してもらえるようにサポートしたのですが、残念ながらオリンピック出場は叶いませんでした。
しかしそこから、自由形の才能を大きく開花させた松本選手は、2025年に日本新記録を樹立します。「ここまでタイムが伸びるとは!」と、本当に驚きましたね。
「まさか!」と言うと本人に怒られるかもしれませんが、それほど大きな記録です。アスリート採用を始めてから最初の大きな成果でしたし、日本記録の更新は松本選手だけでなく、私たちにとっても本当に嬉しい出来事でした。
競泳50m自由形 日本記録保持者 松本周也選手
ーー2人目となる陸上十種競技の前川斉幸選手は、どのような経緯で採用されたのでしょうか?
堀井)前川選手も中京大学の出身で、日本選手権の十種競技で上位入賞を重ねるなど、国内トップレベルで活躍するアスリートです。また、豊田市のPR大使も務めるなど、地域の魅力発信にも積極的な人物です。
十種競技のトップ選手は「キング・オブ・アスリート」と呼ばれていますが、練習環境の確保が難しい競技でもあります。多岐にわたる種目に取り組む必要があるため、大学などの設備が利用できなければ十分な練習を積むことができません。
前川選手も卒業後、一度は大学に残り、助手として働きながら競技を続けていましたが、彼に関しても競技継続と引退後の雇用を前提として採用に至りました。
ーー現在は、2人とも社員としても従事されていますよね。
堀井)週2日出社し、店舗でお客様の対応を担当しています。実際に彼らは競技だけでなく仕事にも真面目に取り組んでくれていて、「一つのことを長く追求してきた人は、仕事にも筋を通して向き合えるのだな」と実感しています。
陸上十種競技 2026年日本選手権5位 前川斉幸選手
会社がスポーツを応援する意義
ーー松本さん、前川さんも社員になったことで環境の変化を感じているのではないでしょうか?
堀井)ひまわりネットワークの環境に馴染んでくれていると感じています。
前川選手は大学卒業後、2年間は大学の助手をしながら競技を続けていました。収入に余裕のある環境ではなかったと思いますが、それでも大学に残ったのは「十種競技を続けたい」という想いがあったからです。
入社してからは、生活面での心配が減り、これまで以上に競技に打ち込めるようになったようです。
ーー競技面と生活面の両方が整ってきたのですね。
堀井)松本選手も先日、マイホームを建てました。社員として安定した収入があるからこそ住宅ローンを組めますし、将来を見据えた人生設計もできます。
日本記録を保持していたとしても、競技実績だけで生活が安定するとは限りません。競技を離れてからも、その先の人生まで支えられる環境をつくることが大切だと感じています。
ーー2人が社員として加わったことで、お客様や地域からの反応にも変化はありましたか?
堀井)取引先の方との会話のきっかけになっています。オフィスの入口に、「松本周也 日本新記録」と大きく掲げているので、それを見て声をかけてくださるお客様も多くいらっしゃいます。
スポーツ選手が働いていることが「広告塔」となって売上に直接つながる、というわけではありません。しかし、「スポーツを応援している会社」「地元を大切にする会社」という印象を持っていただけることは、大きな価値だと感じています。
ーー地域の皆さんにも広がっていくといいですね。
堀井)愛知県には多くのアスリートがいて、地元の人たちは、この地域で活躍する選手のことを「うちの選手」と呼んで応援する文化があります。
松本選手は静岡県、前川選手は三重県出身ですが、この地域で競技を続け、働いています。地域の方々から「うちの松本選手」「うちの前川選手」と言ってもらえる存在になってほしいですね。
オフィスの入口には日本新記録樹立の横断幕が
ーー社内でも応援の輪が広がっているのでしょうか?
堀井)会議室で日本選手権など全国大会出場時にはパブリックビューイングを行っています。中継画面のテロップに「ひまわりネットワーク」と表示された瞬間は、社員みんなで大盛り上がりでした(笑)。全国放送に社名が出ることは、社員にとってもうれしいことですよね。
近くで大会があるときには、社員で応援団を結成してバスで会場へ向かうこともあります。先日は岐阜の試合会場で前川選手を応援しながら、同時に東京で大会に出場している松本選手のレースをスマホで観戦していました。
2人を応援することが社員同士をつなぐきっかけになっていますし、アスリート社員を採用したことで、社内に新たな一体感が生まれたことを実感しています。
この地域の中で、人を育てていく
ーー競技を続けられる環境をつくることにはどのような想いがあるのでしょうか。
堀井)一番は、アスリートの引退後の人生です。大学で競技を終えて社会人になる人は比較的スムーズですが、「もう少し挑戦したい」と競技を続け、30歳前後で引退した際、その後の進路に悩む人も少なくありません。努力を重ねてきた人たちが、競技を終えた後も安心して働ける環境をつくりたいという想いがありました。
もう一つは、地域への恩返しです。私たちは地域に支えていただきながら事業を続けてきました。だからこそ、地域へ恩返しをしたいという想いがあります。この地域には、可能性を持ったアスリートがたくさんいます。そうした選手たちが競技に打ち込みながら将来のキャリアも築ける環境を作ることは、地域のスポーツの発展、ひいては地域全体の活力にもつながると考えています。
ーーその想いを形にする取り組みも進められていますね。
堀井)前川選手には、お客様向けイベントで「走り方教室」を開催したり、地域クラブでの競技指導、市マラソン大会でのブラインドランナー伴走など、実際にスポーツを通じて地域の方たちと関わる活動をしてもらっています。
この先、松本選手にも地域の方たちへの泳ぎ方教室などをお願いしたいですね。
社内の応援団と前川選手との競技後の一幕
ーー長年スポーツに携わる方々を見てきた堀井さんだからこそ感じる、スポーツ経験者の強みは何でしょうか?
堀井)礼儀や規律を大切にし、一つのことを長年追求してきた“一本筋の通った強さ”があります。だから環境が変わっても、新しい仕事に対して真っすぐ向き合えると感じています。同時に、根気強さや体力があることも大きな強みだと思います。
それに、トップを目指してきた人は素直です。人からのアドバイスを受け止めて、自分の成長につなげられる力があります。松本選手は、日本新記録を出してから話し方やインタビューでもすごく堂々とした受け答えになったなと感じます。まさに、記録を出したことによって“自信が人を育てた”形ですよね。
「アスリートがいる会社」であることが、社員にとっても誇りになってくれていたらうれしいですし、会社全体の成長へとつながるといいなと思います。
ーー会社として、この先どのような未来を目指していますか?
堀井)当社のケーブルテレビ事業は、地域とのつながりを大切にしながら地域に密着したサービスを提供しています。
事業エリアごとの特性やニーズを的確に捉えながら、地域に根差した密度の濃い事業活動を展開しています。一つひとつのサービスの品質を高めながら、アスリート社員のほか新しい事業にも挑戦し、この地域とともに元気に成長していきたいですね。
ーーありがとうございました!