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浦井健治にインタビュー! ミュージカル『メイビー、ハッピーエンディング』は「そっとお茶を出すような、ほっこりとする作品なんです」

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浦井健治

2020年8月11日(火)から、東京・日比谷のシアタークリエにてミュージカル『メイビー、ハッピーエンディング』が上演される。本作は、人間よりも人間らしい感情を持つヘルパーロボットたちが織りなす、ユーモラスで温かく切ない物語。韓国で2016年に初演されて以降、口コミで大ヒットとなり、その後の再演も連日ソールドアウトを記録。さらに今年1月にはアメリカ版も上演されこちらも高い評価を得ている。この日本人キャスト版がいよいよ日本初上演されるという事で、主人公のオリバー役を演じる浦井健治に話を聴いた。

■キャストもスタッフも感極まり、涙が溢れてくる「尊い」作品

――戯曲を先に読ませていただいたんですが、涙が止まらなくなりました……。

なんでこんなに泣くかな、自分……って感じですよね(笑)。本をそのまま売って欲しいと思うくらいです。この作品が「読み物」として手元にあるだけで今後生きていく上でのバイブルになるかも。ふとした時に本棚から手に取って読むと新たな発見や自分を肯定してくれる存在になるような戯曲ですね。

本読みの段階でプロデューサーをはじめ、涙してしまった事もあったし、楽曲もすごく良いんですよね。この作品は韓国発のミュージカルですが、アメリカでも上演されるなど、世界中で愛されている作品なんですよ。スタッフさんでもハマる人が多くて。だから観に来てくださったお客様も含めて、この作品のファンが増えていったらいいなと思っていますし、そういう状態になるよう目指しています。今は立ち稽古をしながら日に日にその想いは強くなっていますね。​

浦井健治

――稽古について伺います。現在2回ほど粗通しをされているそうですが、手応えはいかがでしょうか?

まず、世の中がこのような状況でも「稽古が出来る」という喜びに現場が溢れていて、百戦錬磨の先輩・サカケン(坂元健児)さんですら、ご自分の歌で感極まり声が震えて歌えなくなる経験だとおっしゃっているんです。
楽曲も戯曲も素敵で、また今この時期だからこそ学ぶ事が凄く多い作品だなと感じています。すごくおだやかな時間を共有しつつ、たゆたうようなあたたかい空気の中で、「人間が生きるためにいちばん大切なものってこれだよね」とか「こうありたいよね」という理想が押し付けでなく描かれていて。まさに「尊い」物語なんです。それこそがこの作品が持つ魅力だと思います。​

芝居は一幕もので、今のところ1時間45分くらいを目標に作っていますが、体感時間は30分くらい! 次から次へと話が展開するんです。演じていて自然に心が動いてしまう事も多くて。芝居の後半になると畳みかけるようにリフレインが、そしてそこまでの伏線も含めた二人のデュエットが入るんです。日本人なら「そこは恥ずかしいから……」とヒキで見せたりするところを、(浦井は両手を伸ばしながら)「愛してる!」(さらに手を伸ばしながら)「こんなに愛してる!」(さらに前のめりで)「このくらい愛してる!」ってどんどん盛り上がって(笑)。非常にドラマティックで、やっていても感情が動くのが心地いいですね。何度も自然と涙が出てきてしまって、そこは、ぐっとこらえる自分との戦いの時間が起きています(笑)。​

――今回浦井さんが演じられる役は「旧型のヘルパーロボット」という事です。これまで様々な役を演じてきた浦井さんが、ある意味、心を持たないロボットという初の役どころにどうアプローチしようとしているんですか?

まず、稽古場には「ロボット先生」と呼ばれる方がいるんです(笑)。プレイヤーでもあり演出家でもある方でして。森山開次さんと一緒に活動されているんですが、その方がロボットの歩き方や動き方を戯曲から読み取って、トゥーマッチではない、最小限の振りを付けてくださってます。
心の動きを見せるシーンではロボットの動きをゼロにして人間の動きを体現する事で心と心の向き合い方が表現できるのではないか? またオリバーとクレアという二体のロボットの成長や感じた事が、それぞれのシステムの中に少しずつ積み重なるのを表現できるんじゃないか? そのような動きからロボットの持ち主の苦悩やこれまで置かれていた苦しい環境などもお客様が想像できる「余白」になるのでは?……などとトライアルを繰り返しています。その作り込みがすごく楽しくて!!

物語は基本二人で進行するんですが、僕は出ずっぱりなので稽古場で休む暇がない……(笑)。

浦井健治

――浦井さんも出演された『笑う男』をはじめ、韓国発のミュージカルはフォルティシモで盛大に歌い上げる作品が多いイメージがあるんですが、この作品はいかがですか?

それが、フォルティシモはおろか、フォルテで歌う事もほぼないんです。三重奏の時に気持ちが高ぶる場面が一瞬ありますが、全体的に穏やかな日常を描いた楽曲ばかりです。そのなかに幸せや悲しみなどの繊細な感情が「音」にぎっしりと詰まっているんです。

――このご時世、ソーシャル・ディスタンスに配慮した演出が取られる作品が多く見られますが、『メイビー~』ではいかがですか?

もちろん、出来る限りの飛沫感染を防ぐ取り組みをしています。少人数だからこそソーシャル・ディスタンスをうまく取り込んで、ラブシーンなども見せ方でうまく表現するようにしています。
今回はロボットとロボットのラブシーンなのでむしろ良かったかも。心を持たない、もしくは持ち主の優しさや悲しみといった心をインプットされていたかもしれないロボット同士が、惹かれあい、そこから学び合う姿が描かれているんです。ロボットたちは、小中学生のように初めて相手に触れ、感じたピュアな気持ちを表現する演技になるでしょうね。

■個性豊かな共演者たち。それぞれの魅力を座長・浦井が分析!

――共演者はクレア役を中川翔子さんと花澤香菜さんがWキャストで、また役を坂元さんとジャングルポケットの斉藤慎二さんがWキャストで務めます。浦井さんからみた共演者の印象やそれぞれの魅力はいかがですか?

皆さん「大人」ですね! 笑いも絶えませんし、いい意味で肩の力が抜けているなと。少人数だからこそそれぞれの持ち味を尊重し合い、歌声を自身のキャラクターに乗せていってます。だから組合わせを変えると違う感触が生まれ、彼らと向かい合っているオリバーのキャラクターもまた少しずつ変わっていると感じられるんです。

中川さんはタレントとして、女優として、そしてアーティストとして日本のメディア界でもキャラが立っている存在。彼女のまじめさも含め、それがクレアにぴったり合っている。稽古場ではオリバーに対するクレアが最初は対立関係から始まるのですが、台詞を交わしていると「強さ」を感じます。その場にドンと立っていられる、逃げない強さ、人間力を感じています。

浦井健治

花澤さんは、声優としてトップランナーですが、舞台も子役時代から何度もやっている方。悩むときは凄く悩まれる。自分でも「悩み過ぎちゃう!」ってよく口にするくらい(笑)、凄くピュアで真面目な女性だと思います。歌についても芝居についても全部しっかり準備されてきているんです。そもそも声が武器の方なので、声を活かしたクレアになるかと思うんですが、本人はさらにその上を目指していきたいって熱意をもって臨んでいますね。貪欲さという女優魂も持っているんです。二人とも、それぞれ違った魅力的なクレアになると思います。​

サカケンさんは尊敬する先輩で、浦井的「イイ声選手権」(笑)で上位に入るミュージカル界のトップランナー。そんなサカケンさんが“ジェームズ、その他”という役どころを担うんですが、スパイス的に必要不可欠。出番は多くはないかもしれませんが、すごく贅沢な出演となっています。
サカケンさんはこの作品をとても気に入っていて、MAXのアプローチで様々な役をいきなり出してくるのでこちらも触発されますし頼りになります。共演は『回転木馬』(2009年)以来なんですが、「健ちゃんが凄く変わった!」って言ってくださったのが嬉しくて。

慎ちゃん(斉藤)はこれが初ミュージカルということで緊張していたんですが、元々演劇を志していた事もあって、舞台を心から楽しんでいるなと思います。そして声がいい! また、何より人がいいんです。慎ちゃんは「この現場が心地よい」「自然体でいられるから」と言ってくれています。おもしろいのが、慎ちゃんはココアが大好きなんですが「この現場はココアを持ってきていいんだ!」って言うんです。緊張する現場や気を遣う現場だとココアを持ち込んだら怒られるんじゃないかと思っていたそうです(笑)。

4人に対する僕の演技は全く同じではないですし、まったく違う訳でもないです。サカケンさんと慎ちゃんはこれまでやってきた事が違いますし、中川さんと花澤さんも歌の音色や台詞の強弱も異なる。そんな4人と絡む僕自身にとって、さらに役を深めていける稽古の時間になっていて、贅沢な時間を送れています。

浦井健治

――浦井さんは座長としてこの現場をどう作り上げていこうと思っていますか?

すでに作れていると思います。何しろ皆がアットホームで自然体。それぞれの武器を活かして作品作りに打ち込んでいると思うんです。これに関してはあの外出自粛期間がむしろありがたいと思っているくらい。なぜなら皆、台詞に向き合う時間がたくさんとれましたから。稽古が始まった時、台本を手にしていない状態からスタートできたので、なんとなく心のゆとりを感じる事ができたんです。

稽古終わりの食事会などのコミュニケーションも基本禁止となっています。今回マネージャーなども稽古場に来てないんです。半年前とは景色が一変しましたね。
そんな環境で共演者とコミュニケーションをとるのは稽古の中でしかできない。このメンバーだからこそときにはジョークも言いあいながら相手を想い合えて、皆がそれぞれの事を分かっている。本当に大人なメンバーが揃っているので座長ではありますが、逆に僕が助けられているんです。

■まもなく39歳。今想う事はエンタメ界の未来像。

――ちなみに外出自粛期間中はどんな事をしていましたか?

伊礼彼方とオリジナル楽曲を作ったり、童話を書いたり、最低限の散歩をしたり……あと、文字を上手くなりたくて! 文字が綺麗な人にあこがれて、ボールペン習字と筆ペンをやっています。ゆくゆくは教室開講の資格を取りたい。演劇に何も関係ないけど(笑)! また、海外の方が配信されている舞台映像を観たり。とにかく、自分と向き合える時間が持てたのは良い経験になりました。

浦井健治

――この公演初日の数日前には、ついに39歳の誕生日を迎えます!

まだ39歳かあ。もう40歳かと思ってた(笑)。

――ラスト30代の1年で何か挑戦したい事、考えたい事はありますか?

基本的には何も変わらないと思いますが、このコロナ禍でいつどうなるか誰も分からない中、演劇界が足を踏み出そうとしていますが、クラウドファンディングや、各団体や連盟が手を繋いで活動している姿を初めて見たんです。エンタメ界が手を繋ぎ、お互いの動きを見ている事が、僕は心強く感じ、それと共に責任の重さを感じています。
まだまだワクチンが出来るまで時間がかかると思いますし、それまでの経済状態など心配ごとはつきません。でもいろいろな事が元に戻るまで、皆が笑顔でいられるような演劇界であればいいなと思っています。

――最後にこの作品の見どころを。

今って、コロナ禍であったり、いろいろな問題によって生きるのに苦しい状態の中、一歩でも前に進もうという気運があるかと思いますが、この作品は元気、勇気を与えるというよりは、「お茶をどうぞ」とそっと出すような、ほっこりとする「休憩の提案」みたいなものを感じさせるんです。どこか懐かしさを感じる作品なんですね。ぜひ皆さんの良きタイミングで劇場に足を運んでください!

浦井健治

取材・文=こむらさき 撮影=池上夢貢 ヘアメイク=花村枝美 スタイリング=壽村太一

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