ついにしゃべりだした発達グレー3歳次男!学芸会での衝撃、「負け」が嫌でパニック!?
監修:初川久美子
臨床心理士・公認心理師/東京都公立学校スクールカウンセラー/発達研修ユニットみつばち
発語なしで満3歳児クラスに入園
次男ゆうきは、現在小学1年生。通常学級に在籍しています。小さい頃から不安が強く、心配性。極度の負けず嫌いで、物事を白黒はっきりつけたがるタイプ。以前、病院の先生に「ASD(自閉スペクトラム症)の診断がつくか、つかないかの境界付近」と言われたことがある発達障害グレーゾーンです。
2歳になっても言葉が出ておらず、療育を開始。発達支援施設に通い始めました。まだ発語なしのゆうきでしたが、こども園の満3歳児クラスに入園しました。その夏頃から、病院での言語訓練を開始。3歳の誕生日頃、急に「お話ししたいスイッチ」が入ったようで、ものすごい勢いで話し始めました。
座り込み固まり、何もしなかった学芸会……
こども園での集団活動で、特に何か先生から指摘を受けるようなことはなく、平穏に過ごす毎日。
そんな中、満3歳児クラスの学芸会が行われました。ドキドキしながら待っていると舞台の幕が開きました。そこには、クラスのお友達が立っている中、状況がつかめていない雰囲気で固まり、座り込んでいるゆうきがいたのです。
周りの子たちのお遊戯が始まっても、座り込んだまま客席を睨みつけていました。2曲ほどの出し物の間、ずっと舞台の上で座り続け……学芸会の幕は下りました。
私はゆうきが何もしなかったことにビックリし、次年度以降はどうなるのだろう?と少し心配になりましたが、年少からの学芸会は毎年、楽しそうに劇や歌に参加するようになりました。
極度に嫌がる「負け」 拒否したゲームとは
年少からは週に2回、園を少しだけ早退して、放課後に発達支援施設に通うことにしました。
ゆうきが年少、年中の頃。「負ける」ことを極度に嫌がり、こども園で行われるしっぽ取りゲームや、イス取りゲームなど、何かを奪い合うゲームへの参加を拒否していました。その話を発達支援施設の先生に話すと、療育の中で「イス取らないゲーム」を開催してくださるようになりました。
「イス取らないゲーム」とは……、遊んでいる人数分の椅子を並べて、音楽が止まったら近くの椅子に座る、というもの。全員が、椅子に座れます。これだと、ゆうきは楽しく遊べたとのこと。通常の「イス取りゲーム」をやりたい子もいるので、その間はゆうきは先生と一緒に見学。最後の1回の時に「イス取らないゲーム」が開催されたようです。
これを長い期間をかけ、繰り返していくと、「イス取りゲーム」にも興味を示し、ゆうきは少しずつ参加することが増え、年中の後半頃、これらのゲームにも参加して遊べるようになりました。
運動会のかけっこでパニック!?
負けず嫌いエピソードは、ほかにもあります。
年中の運動会、かけっこでゆうきが負けそうになりました。そして、ほかの子がゴールした瞬間……ゆうきはしゃがみ込み、「僕は、もう動けないんだー」とパニックになり大号泣したのです。
ゴール担当の先生たちが、ゆうきのもとへ走ってきてくださり、立ち上がって1歩前に出せばゴールできる環境をつくってくださいました。おかげで、何とか最後は立ち上がりゴール。負けたくない!という想いが強すぎるのだと、この運動会で確信しました。
「負けてもいいんだよ」と言葉をかけたり、私が負けた時は「あー。負けちゃった。けど、楽しかったな」と言ってみたりしていますが、負けず嫌いは小学1年生になった今もすごいです。
いい方向に働くと長所になることだとは思っているので、様子を見守っていきたいと思います。
周りからは「発達グレーゾーンに見えない」
警戒心が強く、その環境に慣れるまで時間がかかるゆうき。クラス替えのあとなども、慣れるまでいつもとても時間がかかります。満3歳児クラスから年中までは、1人遊びばかり。本人の口からお友達の名前を聞くことはほぼ、ありませんでした。
毎朝バスで通っていましたが、満3歳児クラスから卒園までの4年間、バスに乗り込む時、顔が強張っていました。同じクラスのお友達も乗っていましたが、挨拶をしていることはありませんでした。
3歳で言葉が出て、やりとりも、集団行動もできていたゆうき。年中まではほぼ、1人遊びばかり。園生活での大きなトラブルはありませんでした。そのため、周りの人は発達グレーゾーンだということは分かりづらいようです。
これから先、年齢が上がるにつれて、本人がほかの人と合わせることに疲れてしまったり、生きづらいと感じる場面が増えてしまったりするかもしれない……と、病院の先生や臨床心理士の先生などから話を受けています。
ゆうき本人が年齢を重ねた時、少しでもつらさを減らしていけたらいいなと願いを込めて……これからもサポートしていけたらと思っています。
執筆/ゆきみ
(監修:初川先生より)
次男ゆうきくんのこども園時代のエピソードをありがとうございます。ASD(自閉スペクトラム症)やそれに近い様子を呈するお子さんですと、「言葉がなかなか出ないけれど出始めると一気に出る」「いつもと違う状況が苦手」「(極度の)負けず嫌い」といった様子を見せることがあります。読者の方でもそのあたりに分かる分かると共感される方は多いのではないでしょうか。言葉やそのほかの発達に関して、折々に相談されたり、療育機関を活用されながらご対応されてきたことも今回のコラムから分かりますが、そうしたこともとても大事なことです。さまざまな地域資源や専門家の方、先生方のご助言や働きかけもありながら対応していくこと、とても良いと思います。
ゆうきくんは、周りから見ると、「発達グレーゾーンに見えない」お子さんのようですね。しかし、そばで見ているゆきみさんからすると、表情がこわばっていることが分かったり、これまでの育ちの中で新しいことや勝敗のつくことがとても苦手という歴史があると知っていらしたりする。ゆうきくんの今だけを見ている分にはそこまで気づきにくい(大きなつまずきという形では問題を出さない)という面があるようです。先生方など、ゆうきくんに関わる大人の方には、ゆうきくんが(あまり表立って問題は出さずとも)こうした状況で苦しく思っている、実はちょっと無理しながら頑張っているのかもしれないなどとお伝えし、まずはそうした“水面下の様子”について情報共有し、同じようなまなざしでゆうきくんの頑張りを見ていけると良いだろうと思います。おとなしいタイプのお子さんだと、問題を起こしていないだけで「大丈夫、やれている」と思われることはよくあります。問題を起こすほどにそもそも同級生のお子さんと関われていないだけなのかもしれませんし、お子さん自身がかなり抑えて過ごしていることもあるでしょう。そのあたりはまずは大人が情報共有しながらやっていくこと。そして、お子さんが困ったときに先生方などそばにいる大人にヘルプが出せるような状況をまずつくること(その素地ができてから、ヘルプを出す練習を始めること)が大人側でできることだろうと感じます。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。