AI時代だからこそ「生の経験」を記録する。学校から地域へ、アスフィールが描く部活動プラットフォームの未来
学校の授業だけでは学びきれないことがある。仲間と協力すること。思い通りにいかない結果を受け止めること。先を読み、段取りを考え、周囲と関わりながら前に進むこと。
部活動や学園祭、修学旅行、ボランティア活動といった課外活動には、子どもたちが社会に出てからも生きる学びが詰まっています。
学校向けサービスを展開するアスフィール株式会社は、部活動アプリや地域クラブ活動のプラットフォームを通じて、部活動の地域展開を支えています。その背景には、単なる業務効率化ではなく、「子どもたちの経験を未来につなぎたい」という想いがありました。
自身も部活動から多くを学び、大学時代には水球クラブを立ち上げた経験を持つ、学校デジタル支援事業部長の小林達也さん(以下、小林)に、課外活動の価値や部活動アプリ開発時の紆余曲折、また部活動の地域展開の先に描いている未来像について、お話を伺いました。
授業では学べない力が、部活動にはある
ーー小林さんご自身も、学生時代に部活動から大きな影響を受けてこられたと伺いました。
小林)私は小中学生の頃に水泳、ハンドボール、テニスをやっていて、高校では水球をしていました。私がいた高校の水球部は強豪校ではなく、近隣には全国優勝するような学校があったこともあり、練習試合や公式戦では負けることも多く、大差での敗戦も少なくありませんでした。それでも今振り返ると、試合の結果以上に「仲間と一緒に練習して、辛い中でもやりきった」という経験が残っています。
寒い中でも頑張ることや、3ヶ月後の試合に向けて計画すること、先輩や後輩と関わること、まわりを見て次の動きを予想すること。授業だけではなかなか学べない力が身についた期間でした。
ーー勝ち負けだけではなく、その過程で身につくものが大きかったんですね。
小林)大学に入ってからは、小中学生のための水球クラブを自ら立ち上げたのですが、そのクラブでも、水球だけを教えていたわけではありません。みんなでバーベキューをしたり、遠足に行ったり、他のスポーツを観に行ったりもしました。「水球と関係ない」と思われるようなこともありましたが、そういう時間も大切なものだと考えていました。
ーー競技力を高めるだけではなく、子どもたちが人として育つ時間を大切にされているんですね。
小林)やはり「部活の中で競技以外のことをたくさん学んできた」という想いが自分にとって大きいですね。だからこそ、子どもたちにも水球の技術だけを教えたいわけではありませんでした。
挨拶をする。時間を守る。仲間と協力する。負けてもまた前を向く。自分たちで考えて行動する。そういう経験を積める場として、スポーツには大きな価値があると思っています。
ーーそれが、今の「部活動を含めた課外活動を支えたい」という思いにもつながっているのでしょうか。
小林)部活動だけでなく、学園祭や修学旅行、ボランティア活動も含めて、授業以外の活動、すなわち「課外活動」の中で子どもたちはたくさん学んでいます。たとえば学園祭も、当日だけではなく、そこまでの1ヶ月、2ヶ月が楽しいじゃないですか。普段は放課後に残らない生徒が残って準備したり、話したことがない人と一緒に作業したりすることもあります。その中で、子どもたちはいろいろな力を身につけていると思います。
大人になってから必要になる力は、テストの点数だけでは測れません。文部科学省の言葉でいえば「生きる力」、経済産業省の言葉でいえば「社会人基礎力」のようなものは、まさにこうした課外活動の中で育まれていくのだと思います。
大学生時代に水球クラブを立ち上げで指導をしていた小林さん(写真下段の中央)
AI時代に高まる、経験を記録する価値
ーー子どもたちが課外活動の中で学ぶ力を支えたい。その想いが、アスフィール株式会社への入社にもつながったのでしょうか。
小林)私は大学・大学院でIT・情報系の分野を学びながら、教員免許も取得するなど、教育にも関心がありました。また、親族に経営者が多かったこともあって、ビジネスにも興味がありました。
IT、教育、ビジネス。この3つに関してどれか1つに絞るのではなく、すべてを掛け合わせられる場所を探していました。
そんなときに出会ったのがアスフィール株式会社です。当時は今のようにITサービスを前面に出していたわけではありませんが、学校現場と長く関わっている会社でした。学校の近くで子どもたちの経験を支えられ、将来的にはITにも挑戦できる可能性がある。そこに大きな魅力を感じました。
ーーそこから、部活動支援アプリ『部活アプリ/クラブマネージャー』の開発につながっていったのですね。
小林)入社して数年が経ち、会社としてIT領域に挑戦できるタイミングが来ました。そのときにテーマにしたのが部活動であり、「部活動の価値をITの仕組みで支えられないか」と考えました。
ただ、アプリ開発は順調ではなく、過去には学校現場が求める機能を盛り込みすぎた結果、ボタンが増え、かえって使いづらくなってしまったこともあります。
ーー現場のために入れた機能が、逆に使いづらさにつながってしまったのですね。
小林)現在のアプリは、「シンプルで使いやすい」形を探求した結果のものです。ですが、その中でも「どうしても削りたくない」とこだわり抜いた機能が2つあります。
1つは安全性です。部活動は大人と未成年が関わる場です。ただ連絡を取れることを優先するのではなく、見えないところで1対1のやり取りができてしまうと、トラブルにつながる可能性があります。“トラブルを防ぐ仕組み”があることは安心にもつながります。
もう1つは、活動の記録です。私は、勝ち負けだけではなく、そこに向かうプロセスに価値があると思っています。毎日どんな練習をしたのか。何を感じたのか。どんな写真や思い出が残ったのか。そうした“ログ”は、子どもたちにとって大事な財産になると思います。
ーーAIが社会に広がっていく中で、その記録の価値はさらに高まっていきそうです。
小林)そう思います。今はAIを使えば、志望理由や自己PRの文章もかなり整えられる時代です。だからこそ、本当に自分が何を積み重ねてきたのかを示す記録には価値があると思っています。3年間、試合には勝てなかったとしても、どんな活動をして、何を感じ、どう成長したのかが残っていれば、それはその子自身の証になります。
課外活動で得た学びを、ただの思い出で終わらせず、未来につながる記録として残すこと。AIが言葉をつくれる時代だからこそ、実際に経験してきたことを残す価値は高まっていくはずです。そこは、アプリの機能を見直す中でも、私がどうしても大切にしたかった部分です。
アプリの使い方を現場で子どもたちに指導している様子
部活動の地域展開に必要な“受け皿”をつくる
ーー部活動アプリの開発から、現在は部活動の地域展開の支援にも取り組まれています。どのような想いで、地域展開をサポートするようになったのでしょうか。
小林)アスフィールはもともと、国の方針や学校現場の変化を早く察知することを大切にしています。部活動の地域移展開の方針が国から出されたあと、文部科学省やスポーツ庁の動き、検討会議の資料などを見ながら、学校現場がこれからどう変わっていくのかを見ていました。部活動は学校だけで完結するものから、地域クラブ、民間団体、指導者、保護者、自治体が一緒に支えるものへ変わっていくことがわかってきました。
もともとは競技思考の強い部活動向けのアプリとしてイメージしていましたが、こうした動きにあわせ、アプリを提供するだけではなく、地域展開そのものを支える仕組みが必要だと考えるようになりました。
ーー地域展開では、単に活動場所が学校から地域に移るだけではないということですね。
小林)学校の部活であれば、入学して、部活見学をして、紙で入部届を出せば参加できます。でも地域クラブになると、生徒や保護者は、どこにどんなクラブがあるのかを探すところから始まります。
そのクラブは勝利を目指すのか、生きる力を大切にするのか。教育委員会に認定されているのか。指導者はどんな人で、資格を持っているのか。そうした情報がきちんと開示され、誰でも確認できる状態になっていることが大切です。
さらに、参加申し込み、お知らせ、出欠、集金、活動記録、問い合わせ対応なども必要になります。つまり、地域展開には、“活動を支えるプラットフォーム”が欠かせないんです。
ーー学校の中で完結していた部活動を地域に広げるには、情報の整理や運営の仕組みまで含めて考える必要がありそうです。
小林)自治体ごとにゼロからシステムを作ると、時間もお金も大きくかかります。全国の地域で使えるパッケージにするため、“絶対に必要な機能”があることは前提としておきつつ、“あったらいい機能”を地域の状況を見ながら判断できるようにすることを意識しています。
また、アプリという仕組みがあっても、地域に活動するクラブがなければ空っぽの箱になってしまいます。システムを作るだけではなく、制度設計や実態調査、ロードマップ作成も含めて伴走する。誰が何を担うのかを整理し、地域の中で実際に回る形にしていく。そこまで整えることが、アスフィールの役割だと思っています。
学校の当たり前を支え、地域の未来をつくる
ーー部活動の地域展開をはじめ、これから大きく変わる可能性がある社会の中で、アスフィール株式会社はどのような役割を担っていきたいと思われますか。
小林)「学校の当たり前を支え、学校のこれからを作る」ことに取り組みたいです。これは学校の先生たちだけでは難しい部分もあるからこそ、民間の私たちが手伝うことで、現場が前に進みやすくなると思っています。
私たちは、地域が自分たちの力で活動を続けられる体制づくりを支える会社でありたいと思っています。地域の指導者が足りないから人を出すのではなく、その地域に必要な受け皿や体制を整えることが役割です。計画づくりや仕組みづくりを手伝い、現場で活動がスムーズに進む状態を一緒につくっていくことを大切にしています。
ーー今後、地域展開が進むことで、子どもたちの活動も変わっていきそうです。
小林)そうですね。これまでは、学校の中にある部活から選ぶのが当たり前でした。でも地域展開が進めば、地域にあるいろいろな活動から選べるようになります。
3年間サッカーだけを頑張ることも、もちろんいいと思います。一方で、冬はスキー、夏は水泳、月曜日はピアノ、火曜日はサッカーというように、複数の活動を経験することもできるかもしれません。
1つの競技に打ち込むことにも価値がありますし、いろいろな体験に触れることにも意味があります。子どもたちが自分に合った活動を選べるようになることは、大きな可能性だと思っています。
ーーここまでお話を伺っていて、部活動だけでなく、スポーツや文化活動そのものが地域に広がっていくきっかけになるのではと感じました。
小林)今は中学生向けの地域展開が中心ですが、将来的には小学生、高校生、大学生、社会人、そしてシニア世代まで、地域でどんな活動があるかを探せるようになるといいなと思っています。活動を探し、参加し、記録を残す。そういう仕組みが地域にあることで、生涯を通じてスポーツや文化活動に関わりやすくなると思います。
そして、子どもたちには、その場では気づかなくても、大人になったときに「あのときの活動が今に生きている」と思ってもらえるような経験をしてほしいです。
ーー最後に、小林さんの想いをひとことお願いします。
小林)学校の授業では学びきれない大切なことが、部活や地域クラブにはあります。仲間と関わること、思い通りにいかない中で続けること、自分で考えて動くこと。部活動の形が変わっても、そこで育まれる価値まで失われてはいけない。そこを会社としても私自身としても、しっかりと支えていきたいです。
ーーありがとうございました。
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