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『アバランチ』大山(渡部篤郎)は、羽生(綾野剛)のなり得た姿かもしれない

ドワンゴジェイピー

『アバランチ』大山(渡部篤郎)は、羽生(綾野剛)のなり得た姿かもしれない

人間が無意識に呼吸できる生き物でよかった。でなければ、窒息してしまうところだった。それくらい、すさまじい緊張感だった、『アバランチ』第7話は。

正義は、脆弱だ。なぜなら、正義の味方は守らなければいけないものが多すぎる。いっそ手段を選ばなければ、罪なき人の犠牲を厭わなければ、もっと自由に戦える。シビアな判断ができる。でも、正義の味方はそれができない。ルールを守るのが、弱き人を救うのが正義の味方だから。


※以下第7話一部、ネタバレあり

「アバランチ」もそうだ。正義の味方から一転、危険なテロリストに仕立てられた「アバランチ」。大山(渡部篤郎)の画策した郷原首相(利重剛)暗殺計画の裏をかき、郷原をさらい出したまでは良かった。が、それも大山の計算通りだった。

もし偽アバランチの予告が真実なら、爆破テロによって一般の人々の命が奪われる。確証はない。罠かもしれない。だけど、敵の術中に飛び込むしかなかった。


「それでもやるしかねえだろ!」


吠えるように声を張り上げた羽生の顔には、正義の味方のジレンマがあった。たとえ計画が途中で破綻しても、己の身を危険にさらされても、弱い人を守ることが羽生の正義。足並みの狂った「アバランチ」は、大山の掌の上で不器用にもがく、羽をもがれた鳥のようだった。


そんな追いつめられていく「アバランチ」とは対照的に、大山は終始冷静だった。大方の視聴者が予想していた桐島(山中崇)は実は大山を裏切るのではないかという見立ても見透かしていたように、自身の手駒さえ出し抜いてみせた。


大山は、いかにも悪役然と高笑いしたりしない。激昂する様子も見せない。チェスの名手のようだ。淡々と駒を進め、気づけば逃げられないように包囲網を張っている。現場に出た山守(木村佳乃)が、大山に声をかけられた瞬間は、まさにチェックメイトだった。キングは、敵の手に落ちた。「アバランチ」の敗北は決まったのだろうか。

この大山に、渡部篤郎を起用したところに、ある種の意味を感じる。現在53歳。すっかり老獪(ろうかい)ささえ醸し出せる俳優になった渡部は、近年、同じ関テレ制作の『10の秘密』『シグナル 長期未解決事件捜査班』などヒールポジションでの活躍が目立つ。が、最大の当たり役は、『ケイゾク』の真山だと断言したい。


普段はやる気のなさそうな態度で、口が悪く、飄々としていて、どこかクレイジー。こうした役をやらせると30代の渡部篤郎は抜群にカッコよかった。もし『アバランチ』が20年前につくられていたら、羽生を演じていたのは渡部篤郎だった気がする。


そこまで考えたときに、大山を渡部篤郎が演じていることに、別の文脈を感じたのだ。大山は、“もしかしたらこうなり得たかもしれない羽生”ではないか、と。大山の野望は、日本版のCIAを設立すること。それ自体は、この国をもっとより良くするための大義であり、なんら批判されるものではない。大山には大山の信念があって、新しい世界をつくろうとしているのだ。根っこの部分では、「アバランチ」と変わらない。


「これをきっかけに二度とこんなことが起こらない国につくり変えればいい。君も見届けるか」


そう桐島に問うた大山の目は、不思議なくらい澄んでいた。とても悪役のそれとは思えない、曇りのない眼差しだった。あの目を見たら、そう簡単に大山を悪役と切り捨てることなんてできない。


出会う人が違えば、環境が違えば、羽生だって大山のようになっていたかもしれない。この世界をつくり変えなきゃいけないという気持ちは同じだから。


では、羽生と大山を分けるものはなんなのか。境界線は、すべての命を尊ぶ気持ちだろう。羽生は、大山の腹心である戸倉(手塚とおる)の死ですら悼む気持ちを持っていた。もしも羽生が、大山のように自らの野望のためなら多少の犠牲も必要だと言い切れる人間なら、あのとき、郷原を解放して、イベント会場へは向かわなかったはず。優しさは、時に命取りになる。正義感とは、敵につけこまれる“人質”なのだ。

羽生だって、どこかのルートで別の選択をとっていたら、大山のような人間になっていたのかもしれない。大義のために、人を踏みつける人間になっていたのかもしれない。


でも、羽生はそんな人間ではないから。やりきれない怒りを悲しみに暮れるリナ(高橋メアリージュン)を称えるように胸に抱き、傷だらけになりながらも反撃の証拠を掴んできたあかり(北香那)の頭を「よく頑張った」と撫でるような、人の痛みに人一番敏感な人間だから。見捨てることなんてできなかった、権力によって犠牲になるかもしれない無数の命を。

正義は、脆弱だ。正義の味方は、損ばかりする。羽生がとったイベント会場へ向かうという判断は、「アバランチ」を救うのか。それともさらなる危機へ追い込むのか。今は、まだわからない。だけど、大山のようには決してならない羽生が、必ず勝つと信じたい。だって、あかりはあのとき聞いたから、「正義は勝つよね」と。その問いに、羽生が身をもって答えてくれると信じている。



文:横川良明


第8話あらすじ

牧原(千葉雄大)が大山(渡部篤郎)直轄の秘密組織・極東リサーチによって拘束された。動揺する山守(木村佳乃)が次の手を考えているところへ大山が現れ、山守は身動きがとれなくなってしまう。さらに、アバランチの名を語る偽の集団が新たな予告動画をアップ。それは、山守や西城(福士蒼汰)がいるイベント会場の爆破をにおわせる内容で、リナ(高橋メアリージュン)たちはアバランチを呼び寄せるための大山の罠だと勘ぐるが、それでも、テロによって人命が奪われることを避けたい羽生(綾野剛)は、急いで会場へ向かう。


爆破予告時間が迫るなか、西城と打本(田中要次)は会場に仕掛けられた爆弾を探し、羽生とリナは牧原の救出を急ぐ。一方、大山からある動画を見せられた山守は、映像を見て思わず息をのんで…。


『アバランチ』

毎週月曜夜10時~10時54分

カンテレ・フジテレビ系全国ネット

【出演】

綾野剛 福士蒼汰 千葉雄大 高橋メアリージュン 田中要次 利重剛 堀田茜・ 渡部篤郎(特別出演) 木村佳乃

【主題歌】

UVERworld(ソニー・ミュージックレーベルズ)

【監督】

藤井道人、三宅喜重(カンテレ)、山口健人

©カンテレ


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