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會田瑞樹に聞く~日本のメロディーをヴィブラフォンで味わう高音質CDが完成、ソロリサイタルも開催

SPICE

ヴィブラフォンを演奏する會田瑞樹

「ヴィブラフォン」という打楽器を御存知だろうか? ジャズでもよく使われる、あのムーディーなトーンを持つ、金属製の鍵盤打楽器である。これまでクラシックではソロ楽器として探求されることが少なかったが、會田瑞樹(あいた・みずき)というプレイヤーがこの楽器に大きな可能性をもたらした。湯浅譲二、間宮芳生、水野修孝らのレジェンドや国内外の作曲家に新曲を依頼してレパートリーを開拓するとともに、これまでの名曲の再演や復元も行い、多角的なアプローチでこの分野を切り開き、拡張してきた。そしてこのほど、日本のメロディーをヴィブラフォンで味わう高音質のCD「會田瑞樹 いつか聞いたうた」を完成させ、東京オペラシティのソロリサイタルに臨む。そんな會田に話を聞いた。(インタビュアー 仁木高史)

會田瑞樹



■リトアニアと日本を結ぶオンライン演奏

ーー つい先日、2020年10月8日に、日本とリトアニアをオンラインでつなぎ、「テレワーク」でヴィブラフォン協奏曲の世界初演をしたばかりですね。聖カタリナ教会で杉原千畝生誕120年を祝うコンサートでしたが、ヴィブラフォンのサウンド、演奏の魅力だけでなく、海外渡航が制限される中で行われた画期的なものでした。

協奏曲のソロを私が日本で演奏収録して、その動画にあわせてリトアニアのオーケストラが生演奏で合わせたのです。リトアニアではそのような試みが初だったそうで、リトアニアの国営放送が中継して全世界に配信してくれました。

リトアニアと日本を結ぶオンライン初演より

【動画】リトアニア/聖クリストファー室内合奏団特別演奏会「杉原千畝に捧ぐ」より《Chant/Sutartines》ヴィブラフォン独奏:會田瑞樹 モデスタス・バルカウスカス指揮/聖クリストファー室内合奏団


■ヴィブラフォンの官能的なサウンド

ーー 會田さんは、デビューから一貫して「ヴィブラフォン」を通じて新たな表現、現代のサウンドを探求されていますね。そのような奏者は他にいないのでは?

ありがとうございます。ヴィブラフォンは1921年にアメリカで生まれ、ジャズを中心に発展し、同時に現代を生きる作曲家も自らの音楽語法に取り入れていきました。独奏楽器としてヴィブラフォンの魅力を知っていただきたいと強く思っています。

【動画】アートにエールを!参加作品より 會田瑞樹による演奏、とヴィブラフォンの紹介


ーー 會田さんが、ヴィブラフォンという楽器を意識されたのはいつ頃で、どのようなきっかけからですか?

大学一年生のとき、松村禎三先生が作曲された《ヴィブラフォーンのために ~三橋鷹女の俳句によせて~》に出会い、作品の深い魅力とヴィブラフォンの無限の可能性に気がつきました。その後この作品も大学内で学び、作品の深遠さに気がつき、日本人作曲家の作品をもっと多くの方々に知っていただきたいと強く思うようになりました。

【動画】松村禎三の《ヴィブラフォーンのために》演奏:會田瑞樹


ーー 會田さんの楽器は、「他と違う音がする」と評判ですが、何が違うのでしょう?

日本を代表する打楽器奏者である高橋美智子先生が1960年代に購入したDeagan社のオーロラNo.1000という楽器を使っています。アメリカの古き良きモノづくりの時代に生み出されたもので、まろやかな音色を持つ音板、気品ある白を基調とした側板、ペダルの美しいフォルムがヴィブラフォンの魅惑的な響きをさらに際立たせていると思います。

會田瑞樹と愛用のヴィブラフォン(Deagan社 オーロラNo.1000)



■新CD「いつか聞いたうた」について

ーー 今回のアルバムのテーマは?

いつか聞いたうた、と題して日本の様々な旋律をヴィブラフォンで表現したいと思いました。音楽を行う場そのものや、声を出して歌うことも許されないのではないかと議論が続いた2020年の春に、このままではいけないと思いました。音楽の根源はうたです。その気持ちを絶対に絶やしたくないと思いました。

CD「いつか聞いたうた ヴィブラフォンで奏でる日本の叙情」ジャケットA面

ーー 會田さん御自身も、2020年4月に東京オペラシティ主催のリサイタルシリーズ「B to C」の公演が延期になってしまった(同公演は11月に延期された)。そのショックも大きい中で収録によるCDをと考えられたのでしょうか?

ちょうどその頃(2020年4月)、細川俊夫先生から「小さなプレゼントです」と《Sakura》の楽譜を送っていただきました。当時は桜を観に行くことすら禁忌と呼びかけていた時期で、演奏していると本当に眼前にさくらが浮かんでくるかのようでした。細川俊夫先生の幽玄の世界が刻印されていると思います。細川先生の作品をきっかけに、一つのディスクにしようと構想を練り、スリーシェルズのプロデューサーである西耕一さんと相談し、作曲家の方々に依頼を重ねました。

細川俊夫氏より届いた楽譜

ーー 日本を代表する作曲家である細川さんからのヴィブラフォン曲がきっかけだったのですね。それからはどのようにすすんだのでしょうか?

宮城県出身のお二人、山本菜摘さん、大畑眞さんには宮城県ゆかりの作品を依頼しました。山本さんには《荒城の月》大畑さんには宮城県登米市の民俗芸能の旋律を力強くヴィブラフォンで奏でていただきました。

録音風景

ーー このCDは「編曲」という言葉の概念が変わるようなクリエイティヴな編曲が集まりましたね。「癒やし」になる編曲だけでなく、驚くようなダイナマイト的な編曲もありますよね(笑)。

通常のいわゆる編曲アルバムにはしたくないと思いました。コンサートで何度でも演奏できる作品として、作曲家の本気の作品として紡いでほしいと依頼しています。正統派のアレンジもあれば、作品の新たな魅力を感じる編曲と、様々なラインナップとなりました。

ーー このアルバム2枚組で、その2枚めのCDのラストを飾るのが、権代敦彦さんによる「故郷」の編曲ですね。まさにダイナマイト的なすさまじい、大傑作だと思います。

「故郷」はどうしても権代敦彦さんにお願いしたかった。当時「<ふるさと>が遠くから響いてくるように、そのまま水底に堕ちて、融解してしまうような、そんなイメージを抱いています」という文章を権代さんにメールでお送りしました。最終的に、10分を超えるふるさとになりました。ディスクのラストを飾る大曲です。

左から権代敦彦、會田瑞樹、デスタス・バルカウスカス、佐原詩音

【動画】2018年にリトアニアで會田瑞樹が初演した権代敦彦の協奏曲


ーー 録音機材にもこだわったそうですね。Acoustic Reviveのケーブルを使用したとか?

Acoustic Reviveの素晴らしいケーブルは一目見て只者じゃないと感じました。そして西耕一さんと磯部英彬さんの強力なタッグで録音をしていただきました。スコアチェッカーには欧州で勉強を重ねられた作曲家、今堀拓也さんが付ききりで様々な助言をくださり、その一つ一つがとても有意義なものでした。その結果はディスクにいかんなく発揮されていると思います。

使用したAcousticReviveのケーブル

ーー マレットも特注のものを多数使ったそうですが。

これまで高橋美智子先生から継承したマレットを使ってきました。Deaganの音板は通常のヴィブラフォンと違って厚みや調律が異なるので、独自色が必要だと常々考えていて、この度研究に研究を重ねた新しいマレットを用いての収録となりました。今ようやくその結果が反映されてきたように感じています。

會田のマレットより一部(演奏中のもの)

ーー CDのために新たに開発した奏法や音色も、見事に収録されていますね。

本来ヴィブラフォンには忌避されるシロフォン用のバチを思い切って使っています。これまでも使ってきたのですが、強烈なサウンド、弱奏の繊細な美しさ、両面で音色のパレットを加えることができます。今回も多数使用しています。

ーー それは、CDのどの曲で効果的に使用されているのでしょうか?

福嶋頼秀さんの夕焼け小焼けでこれまでにないほどの弱奏で使っています。夕焼けの切ないイメージが込み上がってくるようです。強奏では権代敦彦さんの作品で用いています。まがまがしいほどの響きは巨大な鐘を思わせます。

CDブックレットに使用されている薮田翔一撮影の写真より

ーー CDをどんな方に聴いてほしいですか?

音楽を愛する全ての方々に聞いていただきたいです。どんな世代にもマッチする音楽だと思います。さるお方から「安眠のためのディスクを作って欲しい」とずっとお話を伺ってきました。今回それが僕の中でぴたりとマッチしました。緊張感の続く現代社会に、おやすみ前や、家族との団欒の時、お酒を飲みながら……幅広くお楽しみいただけたらと思っています。

CDブックレットに使用されている薮田翔一撮影の写真より

ーー 今回2枚組CDですが、あえて詰め込まないで2枚組にすることでレコード盤を裏返してB面を聴くような時間も想定したそうですね。音楽の聴き方について、生演奏、CD、配信など様々に違うと思いますが、どのように考えておられますか?

音楽は本当に懐が深いと思います。生演奏も、配信も、CDやレコード、ラジオやテレビ…様々な媒体があります。それらをお客様が自分のライフスタイルに合わせて選ぶことができる。どれが良いとは一概に言えないし、音楽はそれだけ人々のそばに寄り添ってくれるのだと思います。僕たち音楽家は、たくさんの楽しみ方を提案できる多様な存在でなければと考えています。それを選んでくださるのはお客様であり、聞いてくださる方々です。

CDジャケットB面




■ヴィブラフォンによる會田瑞樹の挑戦の数々を体験せよ

ーー 2020年10月から11月にかけてとてつもないスケジュールですね。リトアニアでのオンライン初演の後に、日本では吹奏楽との協奏曲、そして、リサイタル、東京と仙台でのB to C。しかも、それぞれ演目が違う!

10月14日に、近藤浩平さんの新作ヴィブラフォン協奏曲《ホトトギスの夜》が吹奏楽集団である現代奏造の皆様と板倉康明先生の指揮、小生の独奏で初演されました。近藤さんは、それこそチャールズ・アイウズのような人で、本業と作曲業を両立させながら、膨大な作品を生み出しています。山登りが趣味で、今回の作品も鳥のさえずりをコラージュした自然豊かな音世界です。

日本作曲家協議会主催による吹奏楽と現代音楽の祭典

10月24日には神奈川県茅ヶ崎でリサイタルです。湘南クラシック音楽をを愛する会を主催する藤本辰也さんが茅ヶ崎で現代音楽を発信したい!という強い思いで企画してくださいました。山田耕筰も茅ヶ崎で童謡を生み出しておりご縁を感じます。(公演情報欄参照)

そして、11月2日にはCD「いつか聞いたうた」発売記念となるリサイタルです。生演奏で全て体感できるのはこの演奏会だけです。是非お聴き逃しなく!

続いて「B→C」は、本来4月に予定されていた公演ですが、今回改めて開催できることを心から嬉しく思っています。今ここにある響きを、伝えていきたいと思っています。(公演情報欄参照)

「B→C」

その後も筑波大学の学生有志が主催するつくばリサイタルシリーズへの出演させていただきます。若い演奏家が揃う中、昭和生まれは僕1人となり隔世の感…中堅としての責任をしっかり担わなければという思いです。(公演情報欄参照)

つくばリサイタルシリーズ、筑波大学の有志が主体となる新しい音楽会の形。

ーー 會田さんのこれまでの活動では、3人の作曲家を原点とされていることを何度も発言されていますが、その3人について、なぜ取り上げるか教えて下さい。

八村義夫、末吉保雄、水野修孝の三氏ですね。いずれも1930年代に生まれた作曲家です。日本現代音楽第三世代に当たるといっても過言ではないでしょう。第一世代である山田耕筰、第二世代である武満徹……それらの作曲家の歩みを感じながら、自分たちはいかにあるべきかを真摯に考えた三人の作曲家だと感じています。演奏機会が少ないことがとても悲しく、この三氏から学んだことを僕は後世に伝えていきたいと考えています。

【動画】巨匠水野修孝先生の30年ぶりの蘇演となった《マリンバ協奏曲》


ーー 10月27日(火)には會田さんを特集するDOMMUNE( https://www.dommune.com/ )も5時間の生放送で「打楽器百花繚乱」として予定されているとか? 新CDや打楽器音楽の温故知新&最先端を味わえる内容になっていて、スタジオライブもあるとのことで、楽しみですね。

DOMMUNEならではの音楽世界にしたいと思っています。音を紡ぐことでは、どんな時代も変わっていません。多重録音を駆使した作品も今年は多数発表しました。最新のテクノロジーと、温故知新の心を忘れずに音楽を紡いでいきたいと思っています。

【動画】山形県酒田市土門拳記念館とのコラボレーションによる會田瑞樹の多重録音により紡がれた「ken 〜土門拳へのオマージュ」

【動画】今年91歳を迎えられた日本現代音楽界の巨匠、湯浅譲二先生を讃え會田瑞樹版による「走れ超特急」


取材・文=仁木高史

【會田瑞樹プロフィール】

Mizuki Aita percussion 1988年宮城県仙台市出身。宮城県仙台第二高等学校を経て武蔵野音楽大学、および同大学院修士課程修了。佐々木祥、星律子、吉原すみれ、神谷百子、有賀誠門、藤本隆文の各氏に師事。日本現代音楽協会主催第9回現代音楽演奏コンクール「競楽Ⅸ」において第2位入賞。2016年NHK-BSプレミアム『クラシック倶楽部』出演。これまでに3枚のアルバム『with…』(朝日新聞推薦盤)『ヴィブラフォンのあるところ』(レコード芸術特選盤)『五線紙上の恋人』(レコード芸術準特選盤)を発表し、いずれも高い評価を得た。

打楽器のための新しいレパートリーの発展を活動の中心に据え、これまでに200作品以上の新作を初演。東京交響楽団、中国国家交響楽団、リトアニア・聖クリストファー室内合奏団との新作協奏曲初演をはじめ、国際交流基金アジアセンター主催事業「Notes」では自作曲初演を含むインドネシア公演を開催するなど海外での活動も積極的に行っている。2019年は自らの声を使った表現にも積極的に取り組んだほか、第10回JFC作曲賞へのノミネートを果たすなど、作曲活動へも力を注ぎ、垣根を超えた活動を展開している。

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