【検証】海の「サビキ」は沖縄の淡水域でも釣れるのか?…よりも“もっと興味深い”光景を見れた話
堤防や海釣り公園のファミリーフィッシングにおいて、不動のエースとして君臨する釣り方といえば「サビキ釣り」である。 ハリにエサを付ける必要がなく、カゴに撒きエサ(マキエ)を詰めてドボンと落とすだけ。それだけでアジやイワシなどの美味しい小物が鈴なりになって釣れる、まさに初心者からベテランまで誰もがお世話になる超お手軽メソッドだ。
そんなサビキについて、昔から疑問を抱いていたことがある。
「サビキって……もしかして淡水域でも釣れるのか?」
思い立ったら即行動。さっそく「淡水サビキ」の可能性を検証すべく、まずはAIに話を聞いてみた(鵜呑みにはしないが…手っ取り早いでしょ!)。
釣具店での最初の壁…
沖縄には「淡水釣り」の文化がない!?
まずは情報収集だ。AIに質問したり、ネットで調べたりしてみると、やはり世の中には同じようなことを考える先人がいるもので、本州には「オランダ仕掛」と呼ばれる淡水魚専用のサビキ仕掛があるとのこと。おもな対象魚はアユやオイカワ、ウグイといった川魚たちで、これを使えば沖縄の淡水魚もイチコロかもしれない!?
「オランダ仕掛」による、淡水域でのサビキ釣りのイメージ。やることは海のサビキ釣りと大差ないのだが、釣れる魚が違うのはもちろん、海ではマキエがアミエビなどの動物性のものがメインなのに対し、淡水域では「粉系」のものが多いようだ
とりあえず近所の釣具店へと向かったのだが…ここで最初の、そして最大の壁にぶち当たることになる。
仕掛コーナーをどれだけ探しても、お目当ての「オランダ仕掛」が見当たらないのだ…。店員さんに尋ねてみると、申し訳なさそうな顔でこう言われた。
「いやぁ、うちには置いてないですね。そもそも沖縄って、淡水で釣りをする文化自体がほとんどないですから」
確かにその通りである。沖縄で釣りをするといえば、誰もが真っ青な海、サンゴ礁のリーフ、あるいは大物をねらった沖釣りを思い浮かべる。わざわざ川に行って淡水魚をねらう物好きは、私のような一部の変人(?)だけなのだ。
ないものは仕方がないが、ここで諦めるわけにはいかない。海用のサビキで代用することに。選んだのは、沖縄の定番ベイトであるミジュン(ニシン科)や、チカ(ワカサギの代用魚?)、豆アジをねらうための極小サイズのサビキ仕掛だ。
沖縄の釣具店にはオランダ仕掛が置いていなかったため、今回は「豆アジ専科 リアルシラス 6本鈎(品番HS382)」「チカ専科 サバ皮 秋田キツネ7本鈎(品番HS514)」「ミジュン リアルアミエビ仕様」の3種類をチョイス
しかし、受難はこれだけでは終わらなかった。サビキ釣りの命ともいえる「寄せエサ(練りエサ)」にも、強烈な文化の差が立ちはだかった。
本州の淡水釣りであれば、コイやフナをねらうための、水中でバラリと粉末状に溶け出るタイプの練りエサ(マッシュポテトやサナギ粉ベースのもの)が定番だ。だが、沖縄の釣具店のエサ冷凍庫にストックされているのは、粘り気が極めて強く、水に溶けにくいタイプばかり。これは沖縄の磯・防波堤で人気のターゲット「カーエー(ゴマアイゴ)」をねらうための練りエサである。
本来はカーエー(ゴマアイゴ)などをねらうときに使う練りエサと、練りエサを入れるカゴも購入。「ニンニク入り」との表記があるので、さぞかし強烈なニオイがするのかと思ったが…
「オランダ仕掛もなければ、バラけやすい集魚材もない。あるのは豆アジサビキと、粘り気抜群のカーエー用練りエサ……」 一抹の不安が脳裏をよぎるが、これもまた沖縄ならではのリアルだ。この「致し方なくそろえた装備」で、いざフィールドへと出撃した。
沖縄の淡水域でサビキは通用するのか?
実績河川を巡って検証
浅場を攻略せよ!
“マイクロジギングサビキ”で淡水域を探る
最初にエントリーしたのは、過去に何度も小魚の姿を確認している実績のある淡水ポイントだ。川の様子を観察して、すぐにひとつの問題に気がついた。
「水深が浅すぎる……」
どこをどう見ても、水深が1mに満たない。海用のサビキ仕掛をそのまま垂らすと、仕掛全体が水に浸かりきらず、水面から上の仕掛が虚しく宙に浮いてしまう。そこで、サビキ仕掛を真ん中でチョキンと切断。半分の長さに調整する即席アレンジを施した。
過去に実績のある有望河川(水路?)だったが、明らかに水量が少ない。比較的濁った水質にもかかわらず、それでも肉眼でボトムが見えてしまうほど浅くなっていた
まずはカゴを使わず、仕掛の最下部に小型のルアー(ジグ)をオモリ代わりに装着する「ジギングサビキ風」のセッティングで試してみる。ルアーのフラッシングで魚を寄せ、サビキに食いつかせる作戦だ。
3g前後のメタルジグやスプーンを使った“マイクロジギングサビキ”で広範囲を探ってみたのだが…生命感、まるでなし
今回は使う仕掛が前述のように“マイクロ”なこともあり、ロッドもマイクロな「穴釣り用ミニロッド」(ダイソー)をチョイス。グラスのソリッドで柔らかく、小物を釣るには面白いロッドかもしれない。写真のように真下に落とす釣りには使いやすいが、キャスティングは…まぁ~難しい!
しかし、数投しても川からの反応は一切ない。そもそも、水面を見つめていても生命感が恐ろしいほど薄いのだ。「魚はいずこへ……」と呟きながら、早々にこの場所を見切ることにした。
大量の魚影を発見!
テラピア相手に「淡水サビキ」を実践
次に選択したのは、過去に車で通りかかった際に、何度か魚影を見かけた記憶がある初めての河川だ。車を降りて川を覗き込むと、先ほどの場所とは打って変わって水がひじょうにクリアで、肉眼でもたくさんの魚影が確認できた。
御覧の通り、なかなかの魚影! …なのだが、これ全部テラピア。沖縄の河川ではよく見られる光景なのだが、ここ数年はテラピアよりも「プレコ」の方が幅を利かせているような気がする。ここはプレコに占領されていない、貴重なスポットといえる
「おお! めちゃくちゃ魚がいる!!」
テンションが跳ね上がったのも束の間、よく見るとその魚影の正体は、沖縄の淡水・汽水域でお馴染みの「テラピア」たちであった。
正直なところ、コイやフナといった日本古来の淡水魚が釣れることをどこかで期待していたのだが、背に腹は変えられない。「沖縄の淡水域でサビキが通用するか」という実験なのだから、相手がテラピアであっても何ら問題はない…ハズ?
(テラピアは汽水域にも生息するが、純淡水にも適応しているので、今回は淡水魚として扱わせていただきたい)。
ここでは最初からセオリーに則り、仕掛の下部にエサカゴを装着。粘り気のあるカーエー用エサをカゴに詰め込み、魚の群れの鼻先へ静かに投入した。
先出の練りエサはペースト感が強く、ネチャネチャとした触り心地。適量取ってカゴの中に入れて準備完了。気になるニオイは…ニンニク入りにもかかわらず、何とストロベリーの香りがした!
ついにそのときが!歓喜のファーストヒット!!
仕掛が水に馴染むと同時に、幸先よく奇跡が起きた。水に溶けにくいはずのカーエー用エサなだけに、目に見えて溶け出す様子は見えない。しかし、ニオイが拡散しているのか、それともカゴに対する興味なのか、テラピアたちがワラワラと集まってきたのだ。
仕掛を投入し、カゴから練りエサのニオイがジワジワと溶け出す(と思われる)と、テラピアたちが集まってきた。比較的、色が薄い個体が多いような気がする
「コレは…イケるんじゃね~の!?」
心臓の鼓動が速くなる。しかし、魚たちはカゴの周りを取り囲んで興味津々に見つめるものの、肝心のサビキバリを口に入れようとはしない。海のアジのように、プランクトンと間違えて自動的に吸い込むようなイージーな展開にはならなかった。やはり見切られているのだろうか…?
ここで、仕掛に少しアクションを加えてみることに。竿先をチョン、チョンと小さく震わせ、サビキの擬似餌(スキン)を水中できらめかせると…おぉお!?
1尾のテラピアが狂ったように反転し、サビキバリを引ったくっていった。カツカツカツッ! と手元に伝わる明確なアタリ。すかさずアワセを入れると、小気味よい引きが腕に伝わった。慎重に抜き上げたのは15cmほどと小さいが、綺麗なテラピアであった。
「釣れないだろ…」という疑念が強いわけではなかったが、「釣れるっしょ!」という自信があったわけでもなかっただけに、最近の釣りの中ではもっとも感動したかもしれない!?
スレとかではなく、しっかりと上アゴにフッキングが決まっている。明らかに「食いにきている」証拠だろう
「釣れた…淡水魚がサビキで釣れた!!」(「立った…クララが立った!!」っぽく読んでいただきたい)
これほどあっけなく、そしてカンタンに答えが出るとは思わなかった。釣具店での絶望的な状況から一転、見事な大逆転劇である。「沖縄でも、海用サビキを使って工夫すれば淡水魚が釣れる」という仮説は、見事に証明されたわけだ。
よし、この調子でガンガン釣って、さらなる再現性を確かめよう。私はそう意気込み、再び仕掛を投入した。
水中で繰り広げられる、
テラピアたちの「生命をつなぐ縄張り争い」
しかし、ここから私の興味は、釣りそのものよりも、目の前の水中で繰り広げられているテラピアたちの不思議な行動へと移っていくことになる。水が極めてクリアなおかげで、彼らの一挙手一投足が丸見えなのだ。
じっくりと観察を続けていると、川底で“ある面白い現象”が起きていることに気が付いた。
群れの中でひときわ体が大きく黒っぽい数尾の個体たちが、それぞれ一定の間隔を保って川底に陣取っている。そして、彼らは自分の周囲に目に見えない境界線……いわゆる「テリトリー(縄張り)」を持っているようなのだ。
下側の赤丸内に注目。灰色っぽいテラピアに、黒っぽいテラピアがアタックしている。上の赤丸内には、やはり灰色っぽいテラピアが黒いテラピアの目を盗んで侵入してきている
ほかの魚たちがその境界線に一歩でも足を踏み入れようものなら、大型個体は猛烈なスピードで突進し、執拗に追い払っている。その姿はさながら、わが家に侵入した不審者を命がけで排除しているかのようだ。
「一体、彼らは何をしているんだろう?」
よく見ると、彼らが守っている足元の川底だけ、周囲の泥や砂が綺麗に払いのけられている。そこだけ固い岩や砂利が露出した「ハードボトム(硬い川底)」になっていたのだ。
黒っぽいテラピア3尾が居座る場所の川底を見てほしい。ほかの部分と違って砂利やゴミなどがキレイに取り除かれ、硬い(と思われる)底質が露出しているように見える
ピンときた。これはバスフィッシングなどでもよく知られる、産卵のためのベッド(産卵床)、いわゆる「スポーニングベッド」だろう。
テラピアのオスは、繁殖期になると川底の砂を口で運んだり、ヒレを使って泥を吹き飛ばしたりして、自らの手(ヒレ)で綺麗な産卵床を作り出す習性があるらしい。元々そこが固い場所だったのか、あるいは彼らが意図的に掘り進めてハードボトムを露出させたのかは定かではないが、その場所は恐らく、これから新しい生命を育むための「聖地」なのだろう。
生命の営みを前に釣り続けるのは…無粋というものかと
このスポーニングベッドを巡るテラピアたちの行動を観察していると、先ほど私が釣れた理由、そして今サビキに起きている現象の謎が解けてきた。
ベッドを守り、産卵の準備に躍起になっている大型の個体たちは、私が投入したマキエのカゴをチラリと見ることはあっても、決してそれ以上近付こうとはしなかった。彼らの頭の中は現在「子孫を残す」ことだけで一杯で、目の前のエサを貪り食うような食欲の余裕は微塵もないのだろう。
一方で、マキエのカゴに猛烈な勢いで群がってくるのは、産卵行動には全く関係のない、まだ未成熟な小さな個体たちの群ればかりであった。つまり、先ほど私のサビキにイージーに食いついてきた15cmの個体も、この「独身貴族」のような若魚の群れの1尾だったのではないだろうか。
いわゆる「独身貴族」の群れ。こういった小型のテラピアたちは、薄めの灰色っぽい体色の魚体がほとんどであった。成長すると黒っぽくなるのか、それとも違う種類のテラピアなのか…その辺りは定かではない
ほかの魚を激しく威嚇し、必死になって自分のベッドを守り続ける大きなテラピアたち。その姿をじっと見つめているうちに、ある種悟りを開くかのような気持ちになり、
「今、釣りを続けるのは無粋…だな」
と、ロッドを置くことにした。
テラピアは日本の生態系において「要注意外来生物」というひじょうにデリケートで、ときに嫌われ者となってしまう微妙な立場にある魚だ。生態系への影響を考えれば、保護すべき存在かどうかは何とも言えないところである。
しかし、目の前で必死に生き、命を繋ごうとしている姿を見せられては、これまた何とも言えない。ましてや娯楽や実験のためにその聖なる行動の邪魔をするのは、何か違うような気がした…。
釣果以上に「よいもの」を見られたのが最大の収穫
こうして、私の「沖縄淡水サビキ作戦」は、わずか1尾の釣果をもって、自らの意思でストップフィッシングとなった。
当初の目的であった「サビキで沖縄の淡水魚は釣れるのか?」という疑問に対しては、「釣れる!」という大成功の答えを得ることができた。工夫次第で、海の仕掛は川でも十分に通用する。その遊びの幅の広さを知ることができただけでも、大きな収穫だ。
「テラピアも、いろいろと大変なんだなぁ…」と、普段にも増して感じさせられた釣行であった
だが、それ以上に今回の釣行で得られたのは、魚たちのリアルな「命のドラマ」を特等席で観察できたことにある。生き物に対する生命の考え方は人それぞれだったり、立場によって変わったりと難しいところだが、「よいもの」を見られたことだけは確かなようだ。
「サビキで淡水魚釣り」これはなかなかに奥が深いテーマだ。今回は彼らのプライベートタイムを邪魔しないよう退散したが、産卵期が終わった別のシーズンに、今度は異なるアプローチで再びトライしてみようと思う。
そのときは、まだ見ぬ未知の淡水ターゲットに出会えることを期待している。
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レポーター
プロフィール:くどぅちゃん
バイク雑誌→釣り雑誌の編集者を経て、現在はフリーランスのライター&編集者に。個人的な趣味としてもバイク&釣りを楽しんでいるが、完全にヘタの横好きで費用対効果がひじょうに悪いのが悩みドコロ…。