<アオザメ>の驚くべき体温調節能力が明らかに 深海に潜るための準備も欠かせない?
ほとんどの魚類は変温動物であることが知られており、体温は周囲の水温によって決まります。
一方、アオザメ・ホホジロザメなどの一部のサメやマグロ・カジキ類は、体の中心温度を周りの水温よりも高く保つことが可能です。このような性質は「部分的内温性」と呼ばれ、冷たい海域への生息域拡大などのメリットがあると考えられています。
しかし、この性質を持つ魚の中にはアオザメやメバチのように暖かい海域を好む種も少なくありません。これらの魚たちにとって部分的内温性はどのようなメリットがあるのでしょうか。
魚の多くの変温動物
魚類はほとんどが変温動物です。そのため体温は周囲の水温によって決まります。
一方、アオザメやホホジロザメのような一部のサメのほか、マグロ・カジキ類などは体の中心部の温度を周りの水温よりも高く保つことが可能です。
このような性質は「部分的内温性」と呼ばれ、冷たい海域への進出などのメリットがあると考えられています。
部分的内温性の恩恵とは?
しかし、部分的内温性を持つ魚の中にはアオザメ、メバチ、メカジキのように暖かい海域を好む種も少なくありません。では、これらの魚にとって部分的内温性はどのような恩恵をもたらすのでしょうか。
総合研究大学院大学の徳永壮真氏、渡辺佑基氏、台湾農業部水産試験所のWei-Chuan Chiang氏、長崎大学の中村乙水氏、沖縄美ら島財団の松本瑠偉氏から成る研究グループは、この疑問を解明すべく、アオザメに行動記録計を装着。バイオロギングと呼ばれるこの手法により、野生のアオザメの潜水行動および体温変化の測定が行われました。
この研究では台湾南東部台東沖の延縄で捕獲されたアオザメに水温・体温・深度を計測する記録計が装着され、放流されています。
急速な体温上昇
測定の結果では、水温が低い深海と水温が高い海面を行き来する際、深海では体温がゆるやかに下がる一方、海面では急速に体温が上がっていることが判明しました。
このことから、深海では体温が周りに奪われるのを防ぎ、反対に海面では熱を吸収していることが分かったのです。
また、体温上昇は体温低下と比較して10倍以上も速く進行しており、その数値はメバチとメカジキに匹敵し、その他の魚類を大きく上回っていたのです。
このことから、体温低下を遅らせて獲物が豊富な深海に長く留まり、時折海面で急速に体温を回復させてから再び潜ることで、捕食効率を高めていると考えらています。
特殊な個体の記録
さらに、研究では特殊な体温変化が記録されたアオザメが1個体います。
その個体は海面で体温を回復させた後、海面に留まり体温をさらに上昇させ、海面水温を上回ったタイミングで深海へ潜ったのです。この際、潜水中における体温と水温の差は最大で約10度に達しました。
これは、この個体が水温の低い深海へ潜ることを見越して、事前に体温を上げておく「潜水前の準備」をしていた可能性が考えらています。研究グループが知る限りこのような体温調節は魚類では前例がないとのことです。
心拍数が関係している可能性も
今回の研究によりアオザメが並外れた体温調節能力を持つことが明らかになりました。この発見は体温保持と冷たい海域への適応こそ部分的内温性のメリットという考えを覆すものだといいます。
一方、アオザメの体温調節能力を可能にする詳しいメカニズムはまだ謎に包まれているとか。研究グループはアオザメが心拍数を変化させ、周囲の海水との熱交換を調整している可能性があるとし、今後の研究でこの仮説を検証したいと考えているようです。
今回の研究成果は『Journal of Animal Ecology』に掲載されています(論文タイトル:Enhanced thermoregulation abilities of shortfin mako sharks as the key adaptive significance of regional endothermy in fishes)。
(サカナト編集部)