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【町田康さんの短歌集『くるぶし』】ユーモアあふれた痛快な歌集が誕生!一味違う町田作品の魅力とは?

アットエス

静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「町田康さんの歌集『くるぶし』」。先生役は静岡新聞教育文化部長の橋爪充が務めます。 (SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」2024年4月10日放送)

本題の前に。2024本屋大賞の予想結果は…

(山田)先週のこのコーナーで僕と橋爪さんで先ほど発表された2024年本屋大賞の予想をしましたが…。

(橋爪)懺悔ですね(笑)。

(山田)見事に2人とも予想を外したということで(笑)。

(橋爪)誰が取ったか言わなくていいんですか。

(山田)「成瀬は天下を取りにいく」ですね。著者は富士市出身の宮島未奈さん。

(橋爪)おめでとうございます!

(山田)これはもう喜びましょう。以前、この番組にも出演してくれましたしね。懺悔について一言ありますか?

(橋爪)懺悔とは言いましたけど、2位の作品、知ってますか?

(山田)投票結果のランキングが出ているんですよね。2位は何でしたっけ。

(橋爪)津村記久子さんの「水車小屋のネネ」です!

(山田)出た。橋爪さんが大賞だと予想した作品ですね。もうこんな争いはやめましょう(笑)。

さあ、切り替えていきますよ。今日は作家で音楽家の町田康さんの話題ですね。

(橋爪)はい。町田さんが初の短歌集「くるぶし」(COTOGOTOBOOKS)を発表しました。全て書き下ろしの352首は「自分の気持ちが景色となって表れた」ものであり「魂の日記」でもあるとおっしゃっています。小説と同様、おかしみや諧謔(かいぎゃく)があちこちから顔を出す、痛快な歌集が生まれました。

町田さんは熱海市にお住まいです。今、山田さんの手元に実際の歌集がありますけど、ご覧になってどうですかね。

(山田)真っ青でキラキラしてますね。かっこいいですね。

(橋爪)町田さんのプロフィールを簡単に紹介しますね。1962年の大阪府生まれ。高校在学中に「町田町蔵」名義でパンクバンド「INU」を結成し、1981年にレコードデビューしています。1996年、初の小説「くっすん大黒」を発表し、2000年「きれぎれ」で芥川賞、2005年「告白」で谷崎潤一郎賞を受賞しています。最新作は「ギケイキ③不滅の滅び」です。

(山田)僕のイメージとしては、パンクバンドのアーティストだから、作品はちょっと尖ってて難しいかなのかなという感じがあります。

(橋爪)非常に物腰やわらかい方です。私は3回インタビューしましたが、本当に丁寧に答えてくれます。取材では対話を録音し、後で聞きながら書き起こすんですが、とても論理的に話をされるので、それほど手を加えなくても記事になるんです。

(山田)へぇー。そのまま記事にしてもいいぐらいということですか。

(橋爪)記事にするには当然編集作業が加わりますが、そのまま読んでもらったほうが面白いような会話のやり取りもあるんです。4月1日付の静岡新聞にインタビュー記事を掲載したんですが、紙面ですと1400文字ぐらい。そのまま会話として出したほうが面白いところもあると感じたので、4倍ほどの分量のインタビューをネット上に上げています。ぜひ読んでください。

(山田)どうしたら読めますか。

(橋爪)「静岡新聞 町田康」でネット検索すると読めると思います。

(山田)皆さん、ぜひチェックしてみてください。

短歌集「くるぶし」は5タイプに大別できる!

(橋爪)町田さんといえば、いまや日本屈指の小説家といっても過言ではないと思います。このようなかたが静岡県内にいるのが誇らしいです。10代後半でパンクバンドのボーカリストとしてデビューしたわけですが、30代からは作家として高い評価を得ています。

小説のほかにも、萩原朔太郎賞を取った「土間の四十八滝」をはじめ、詩集も出されるなど文芸のジャンルをまたいだ活動をしています。歌集は今回の「くるぶし」が初めてだったので、ニュースだと思ってインタビューしました。ということで、今日はこの歌集からいくつか作品を紹介し、この本を読み解きたいと思います。

収録している短歌はだいたい全部、2022年に作ったものだそうです。短歌集の作り方としては珍しいのではないかと思いますが、つくった順に、時系列で並べています。

(山田)そうなんですか。

(橋爪)全部で600首以上の中から選んでいますが、さまざまなタイプの短歌が実にうまく散りばめられている印象です。私はこの歌集に収録された歌が、いくつかのタイプに分類できると思っています。挙げていきますね。

(山田)聞かせてください。

(橋爪)タイプ1。「おかしみ」が満ちているものです。読み上げますね。

・仲間どち盗んだ神酒に酔い痴れて畏(かしこ)き場所に反吐を吐くなり

あまり解説すると野暮になってしまうので、次に行きますね。

・捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ紅梅の蕾の奥に猿の刻印
・親友の国債盗み現金化遊興すれど祈り届かず

(山田)深いですね。面白い。

(橋爪)町田さんはインタビューで「歌はなんぼでもでてくる。そんなに苦吟することはなくて、歌のモード、歌の脳みたいなものにパッと入ると、自然にいくらでも出てくる」とおっしゃっています。今のような「おかしみ」というのは、町田さんの小説や詩に通底しているものなんですよ。短歌は文字数が少ないのに、そういうものがにじみ出てくるというのはすごいですね。

続いて、タイプその2。「ほろりとさせられたり、エモい感じに襲われたりするもの」です。

(山田)聞きたいです。

(橋爪)いきますね。
・また一人春に旅立つ男ありあの日の桜かえり見もせで

これはおそらく親しい方との永遠の別れを歌っていると思うんですが、同じような情景かなと想像するのが次の歌です。

・着流しで凝と見てゐた観覧車まんま昏れてもよいのですよと

ちょっとしみじみとしてしまう感じがします。

そして、タイプその3。「どうしようもないいらだちが感じられるもの」です。パンクですからね。紹介しますね。

・阿呆ン陀羅しばきあげんど歌詠むなおどれは家でうどん食うとけ

(山田)いいですね!「うどん食っておけ」という切り捨て方が。

(橋爪)もう一ついきます。

・諦めろおまえは神の残置物祈りとしての恥を楽しめ

(山田)自分に言っている感じがしますね。

(橋爪)おそらくそういう部分もあると思います。町田さんは深いところで自分を見つめている方ですから。

そして、タイプその4。「諦念のようなもの」です。ある種の諦めがじわじわと伝わってきます。

・春霞右も左もわからずにただながらへて飯を食ふなり

何の役にも立たないという感じですね。

(山田)なるほどね。

(橋爪)もう一つ。

・もはやもうなにもしないでただ単に猫を眺めて死んでいきたい 

分かりますよね。確かにこういう気持ちになることはありますよね。

最後に、タイプその5。「『豚』が出てくるもの」です。

(山田)さっき「くるぶし」をパラパラとめくっていたら、いくつか豚が出てくる歌を見ましたよ。多いですよね。

(橋爪)そうなんです。いくつか紹介しますね。

・豚たちと漬物食べて壱岐対馬もうこの事は言ふな喋るな
・この村に豚と生まれておぼぼしく生きていくのか栗を拾うて

「おぼぼしく」というのは愚かという意味なんですが、これも諦念が漂っていますよね。

町田康さんの作品に「豚」がたびたび登場するのはなぜ?

(山田)豚は何を表現しているんですか。

(橋爪)小説にもよく出てくる町田作品のキーワードの一つなので、ご本人に聞いてみました。そうしたら「俺らの内側に豚的なマインド、魂がある」とお答えでした。「人間の中にはよこしまなものもある。それをことさら抑圧するんじゃなく、それを恥じる必要もなく、むやみに攻撃的になる必要もない。そのことをナチュラルに認めながら生きていけばいいんじゃないか。自分にはそういう観念がある」と。

要するに人間は「知恵をつけた動物」みたいな格好の付け方をしますけど、獣である、愚かであると。そういう自覚が町田さんの中には常にあって、それが一言「豚」という言葉になって出てきているのではないかと私は解釈しています。

(山田)今、自分の頭の中で、映画「千と千尋の神隠し」で、お父さんとお母さんが神様のもの食べてしまって豚にされてしまう場面が出てきました。その豚が浮かびました。

(橋爪)短歌は景色の描写が多いですが、この歌集はそういうものとは違うのではないかと思います。町田さんにとっての短歌は「自分自身の心の動き、頭の中身が赤裸々に表れている」ものだそうです。「『生活』は自分の外側にある。『こんなお茶碗を使っている』とか『こんな家に住んでいる』ではなく、そこに触れたときの感情が短歌の言葉になっている」と話していました。

「くるぶし」を読めばそのことが分かります。ぜひ手に取ってください。

(山田)今日話を聞く前は、僕には多分難しいなと思いましたけど、なんか読んでみたいと思いました。というわけで、今日の勉強はおしまい!

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