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これからの孤独と向き合うために。ペットと暮らすことの意味

Harumari

これからの孤独と向き合うために。ペットと暮らすことの意味

今、ペットは単なる癒しの対象ではない。愛玩動物として所有するのではなく、人生の苦楽を共にする伴侶・コンパニオンアニマルという発想が主流になっている。ペットは人をどのように幸せにしてくれるのか。また、その幸せは人間では代替不可能なものなのか。

人とペットの関係やコンパニオンアニマルについて研究する第一人者・濱野佐代子さんに、ペットの心理的効果やペットを飼うという人生観を伺った。

帝京科学大学 生命環境学部 アニマルサイエンス学科 准教授・濱野佐代子さん

「ペットは家族」という新しい価値観

ペットを日本語訳すると「愛玩動物」。一方でコンパニオンアニマルは、「伴侶動物」となる。昔のような不審者に吠えるための犬、ネズミを取ってくれる猫という役割を超えて、今は家族の一員として一緒に暮らしている人が増えている。濱野さんによると、その大きな違いは「愛情関係」と「責任感」だという。

「コンパニオンアニマルの特徴は、人と愛情関係で結ばれていること。たとえば、自分の大切な人がいなくなったから、また別の人を……とはならないですよね。同じようにかけがえがない存在であり、同じ犬種や猫種なら何でも良いというわけではなく『この子だから』と大切に思えるのは今の価値観ならではだと思います。

そして、責任があること。『家族だから養う』『家族だから助ける』という責任感が発生しているのが、昔の番犬のような存在とは明確に違います。吠えるのが仕事で、餌をやるのが仕事、という利害関係では結ばれていないんです。

最近ではペットと旅行に行く人や、ペットとカフェで過ごす人、一緒に食事をする人も多いですが、あれはペットをみんなに見てほしいというのではなく、家族で大好きな対象だから一緒に過ごしているだけなんですね。

今は家族の在り方自体が多様化していて、『自分が家族だと思う人が家族』だといわれています。たとえば同性のパートナーも家族だし、血縁や婚姻関係がなくても家族。だから、ペットも家族だという価値観も当たり前になりつつあるんです」

また、「伴侶」には「共に連れ立って行く者」「配偶者」という意味があるが、濱野さんはコンパニオンアニマルを「変幻自在の家族」と捉える。

「小さいころから一緒に過ごしていると、兄弟のように思えるけど、自分が歳を取ると子どものようにも思えてくる。おばあちゃん世代では孫のように可愛がっている人もいることから、自分自身や環境によって存在が変わってくるのもコンパニオンアニマルの特徴です」

ペットを飼うメリットは?

コロナ禍を経た今、孤独を抱える人たちが増えているという。特に、ひとり暮らしのビジネスパーソンの場合、仕事とプライベートの切り替えがうまくできず、帰宅後も仕事のことを考えながら過ごす人も多いそうだ。そんな人たちの救いとなるのがペットの存在。実際にコロナ禍でペットを飼う人が増えたというデータもある。

「たとえば『このテレビ面白いよね』という何気ない共感を得ることができないのがひとり暮らし。特に女性の方はペットに話しかける人も多いので、何気ない日常の関わりで癒されたり、些細なことを誰かと一緒に共有したりしたいという思いをペットが代替してくれるんじゃないかと思います」

では、ペットを飼うことで実際にどのような効果が得られるのか。濱野さんによると、「心理的効果」「社会的効果」「身体的効果」の3つの効果があるという。

ペットがもたらす3つの効果

まず、「心理的効果」は、幸福感が高まる、孤独感が軽減されるなどといった効果のこと。また、ペットの世話をすることで自己効力感や自尊心が向上する効果があるそうだ。

次に、「社会的効果」は、社会のなかで、円滑に人と人との関係を繋いでくれること。たとえば、犬の散歩を経て近所の人と関わるきっかけができる、会社で共通のペットの話題を通じて上司と仲良くなるなどの効果がある。

そして「身体的効果」は、リラックス効果が得られたり、一緒に生活することで健康になったりすることが挙げられる。

ただし、これらの3つの効果は前提としてペットときちんとした愛情関係が築かれている必要があると濱野さんは指摘する。

「愛情関係や信頼関係があるからこそ、効果が得られるという前提があります。自分の苦手なペットやどうでもいいペットとは関係の構築ができず、効果を得ることは難しいです。

今は空前の猫ブームと言われていて、猫の飼育率が上がってきていますが、犬と比べると習性や関わりの違いがあります。たとえば、犬は群れで暮らす動物だが、猫は基本的に単独で生活する。ただ、一緒に過ごしていると楽しい、快適という気持ちはどのペットでも大差はありません。

どちらかというと相性の問題で、ちょっとそっけない猫がいいという人や、忠実な犬がいいという人もいるので、いかに自分に合ったペットと愛情関係が築けるかだと思います」

ペットならではの幸せって何?

ここで疑問となるのが、ペットで得られる幸せは代替可能ではないのかということ。恋人、友人、家族などの人間を超える何がペットにはあるのだろうか。

「ペットは『無条件の愛情をくれる』と言われています。人間はどうしても肩書きやレッテルでその人を見てしまいがちです。一度道を踏み外してしまえば指をさされ、会社内で偉くなればフランクに話しかけてくれる人はいなくなります。

でも、ペットにとってその人は肩書きもレッテルも関係ない、ただ大好きな人。無条件にその人がその人であるがゆえに好き、というのは人間関係ではなかなか難しいところです。

また、『裏表がない』のもペットの特徴。人は『いいよ』と笑いながら心のなかでは『あっち行け』と二重の意図を発する一方で、ペットは尻尾を振っていれば嬉しい、お腹が空いていたらお腹が空いたと鳴く。日常生活・社会生活で相手の顔色をうかがい、空気を読みすぎてストレスを抱えるようなことが、対ペットではほとんど起こらないんです。

そして、『今を生きている』こと。人間は未来を憂いたり過去を後悔したりするけど、そんなときにペットは『遊ぼうよ!』と強制的に今に戻してくれる。『今を生きる』というのは現代人には難しいことだけど、一緒にいることで今を生きさせてくれるのはペットならではだと思います」

ところで、ペットを飼っていなくてもすでに幸せだという人もいる。そんな人がペットを飼うことで、満たされることはあるのだろうか。

「動物嫌いな人がうさぎを飼ったことで、保護犬・保護猫の問題や、畜産動物などに対してまでも関心を持つようになったというケースがあります。今ある幸せを増幅するというよりも、新しい発見を得て世界が広がることはあるかと思います」

ペットで人間関係はおざなりになるのか?

ペットは人間では代替不可能なものを与えてくれる。

一方で、「ひとり暮らしで猫を飼ったら婚期を逃す」など、ペットに夢中になることで人間関係を疎かにしてしまうリスクがあるように感じる。これに対して濱野さんは疑問を投げかける。

「人間関係をおざなりにすることに、ペットの有無は関係ありますか?そういう人は、ペットを飼う前からおざなりなんじゃないでしょうか。もともと友人がいるのなら、一緒に散歩に行ったり、ペットを含めて家で食事をしたりと、新しい経験や楽しみが増えるだけ。孤独な人がペットに救われることこそあれ、人間関係が潤沢な人が適正にペットを飼育していれば失うものはないと思います。

むしろ、ペットによって社会に参加していくというケースがあります。犬と散歩したり、犬の共通の話題を介して出会ったりと、ポジティブな影響のほうが大きい。ペットがいることで、自己肯定感や自尊心が向上し、社会生活で建設的なコミュニケーションを取れることにも繋がります。

最近では『動物介在介入(いわゆるアニマルセラピー)』としてペットが貢献する場面も多々あります。施設で孤独を感じている高齢者の方と一緒にレクリエーションをすることで癒されたり、病気の人が辛い治療を受けるときに一緒にいてもらうことで治療を頑張れたり。欧米では盛んに行われているので、あと5年もすれば日本も頻繁にみられるようになるんじゃないかと言われています」

ペットは単なる娯楽として飼うものではなく、家族と同等かそれ以上の大切な存在。とはいえ、寂しいからといって孤独を満たすために気軽に飼うのはNGだ。

責任を持って最後まで飼えるのか、緊急事態が起こったとき、側にペットの面倒を見てくれる人はいるのか、きちんと愛情を注げるのか。今、保護犬・保護猫問題も増えており、面倒を見切れなくなったペットを捨てるというのは、大切な人を置き去りにするのと等しい。ペットの在り方が変わってきている今だからこそ、一緒に暮らすことを改めて慎重に考えていきたい。

取材・文:いしかわゆき

Illustration byOlha KhomichfromOuch

◆濱野佐代子

大阪府に生まれる。日本獣医生命科学大学卒業。獣医師。白百合女子大学大学院博士課程発達心理学専攻単位取得満期退学。博士(心理学)。臨床心理士,公認心理師。現在、帝京科学大学生命環境学部アニマルサイエンス学科准教授。専門:生涯発達心理学、人と動物の関係学。主な著書は『人とペットの心理学:コンパニオンアニマルとの出会いから別れ』(北大路書房)

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