Yahoo! JAPAN

「机に向かう」を手放したら?特別支援学級の小3息子と見つけた、通常学級を見据える無理のない家庭学習

LITALICO発達ナビ

「机に向かう」を手放したら?特別支援学級の小3息子と見つけた、通常学級を見据える無理のない家庭学習

監修:新美妙美

信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 特任助教

通常学級への転籍も視野に。家庭学習のサポートを考えるものの……

息子は現在、小学3年生。特別支援学級に在籍しています。学校生活はおおむね安定していますが、将来的には本人の進路希望に合わせて通常学級への転籍も選べるよう、必要な学習は家庭でサポートしておきたい、と考えていました。

ただ、現実はそう甘くありません。そもそも一人で宿題を始めることが大の苦手で、「ママ、そばにいて」「手伝って!」が毎日の口グセ。問題を解く以前に落書きを始めたり、周囲のモノに気を取られたり……。私は毎日となりに張りつき、「今は宿題の時間!ほら、次はこれだよ」と、あっちこっちに飛んでいく息子の関心をつなぎ止めるアンカーのような役割をしています。

たとえば、気が散る息子の頭を力を入れてマッサージしてあげると、揉んでいる間は不思議とソワソワが落ち着くようでした。「頭への刺激」が集中スイッチのようですが、はたから見たらもはや「殿と付き人」状態です。宿題だけで親はヘトヘト。それでも、落ち着きさえすれば勉強が分からないわけではない息子の姿を見て、「この子に合う勉強の形ってなんだろう?」と模索しはじめました。

「紙での学習のほうが頭に入る」と聞くけれど……

家庭学習を始めるにあたり、最初に頭に浮かんだのは紙の通信教材でした。世間でよく聞く「書いたほうが覚える」という話に、私自身も「そのほうが息子の力になるだろう」とお試しのプリントを取り寄せてみたのです。イラストや図解つきで、私から見れば「とても分かりやすい」と感じる教材。

ところが息子は、チラッと見た瞬間に大きなため息をつき、「無理!」と早々に逃亡をはかります。「パッと見ただけじゃ、無理かどうかも分からないでしょう!」と、なんとかなだめすかして机に戻し、取り組む姿を観察していてハッとしました。

私には整理されて見える情報も、彼にとっては「多すぎる」のです。どこから読めばいいのか視線が迷子になり、ようやく読み始めたと思ったら問題文を最後まで読まずに突っ走り、「問題で聞かれていることを、もう一度よく読んで!」とやり直しになることもしばしば。

私からすれば「まず落ち着いて読めば分かるのに」と思うことでも、その“まず読む”というスタートライン自体が、息子にとっては高すぎるハードルのようでした。宿題だけで親子ともにヘトヘトな毎日に、これ以上高い壁は追加できない。私は「どうやったら勉強の入口まで、もっとスムーズに連れていけるか」を考え直さざるをえませんでした。

タブレット学習ならうまくいく……?

紙教材でつまずく息子を見て、試してみたのがタブレット教材です。もともとゲームが大好きで操作にも慣れていた息子にとって、タブレットは親しみのある道具でした。何より、紙のように大量の情報が一度に目に入らず、画面には今取り組むべき問題だけが表示されます。

また、世間では「余計な刺激」と言われることもあるアニメーションや音声も、息子にとっては視線を導いてくれるガイド役になりました。文章量に圧倒されやすい息子でも、テロップのように順番に表示されることで、問題文を追いやすかったのです。

こうして、宿題以外の家庭学習をタブレット中心へ切り替えていきました。「これで家庭学習も軌道に乗るかもしれない」そう期待したのですが、現実はそう簡単ではありませんでした。

「机に向かう学習」を手放す

タブレットなら紙の学習よりは取り組みやすくなったものの、今度は「机に向かう」という壁が立ちふさがりました。タブレット学習でも文字を書く問題は出てきますし、姿勢よく取り組んだほうが文字判定も通りやすい。結局は「机に向かうこと」が前提になっていたのです。ところが、そうなると息子はまたウロウロ。「あとでやる」と言いながら、テレビをつけようとしたり、お菓子を食べたり、別のことを始める……。

でも、考えてみれば当然でした。息子にとってタブレットは、普段ソファでゴロゴロしながらゲームをしたり、動画を観たりする「完全なるリラックスの相棒」です。それを急にカチッとした机の上に置かれ、「さあ、ここでお勉強だよ!」と言われても、気持ちの切り替えがうまくいかなかったのです。

「私がまず優先したいのは、姿勢よく勉強することだっけ?」
胸に手を当てて考えてみると、答えはNOでした。今の目的は、とにかく少しでも学習の時間を確保すること。だったら、もう一つの“当たり前”も手放してしまおう。そう決めた私は、思い切って息子にこう言ってみました。

「ソファに寝転がってもいいよ。やりやすい姿勢でやりな」
私のその言葉に、息子も「それなら、まあやってもいいか」という風に、ハードルが下がったようでした。

「自分で取り組む」を手放す

「寝転がってもいいよ」にしてから、息子は以前より気軽にタブレットを開くようになりました。これなら一人でやれるかも……と淡い期待を抱いたものの、やっぱり「ねえ見て!」「こっち来て!」と呼ばれます。結局、まだ一人で取り組むには心細かったようで、私も隣でサポートすることになりました。

ただ、ソファだとさすがに狭い。そんなわけで、いつの間にかわが家の学習場所は「ベッドに二人で寝転ぶスタイル」へと移行していきました。一般的な勉強風景とはずいぶん違いますし、姿勢や視力への影響などデメリットもあります。

でも、私が最優先したかったのは「学習時間の確保」です。それに、私にとっても、机の横でカリカリ監視するより、横になっているほうが圧倒的に楽です。ベッドという一番安心できる場所で、好きなタブレットを使い、隣には親がいる。この「安心とリラックス」こそが、息子が家庭学習に向かうための絶対的な土台でした。

気づけば、かつてはピリピリしていた時間が、「どこまで進んだ?」「このアニメ分かりやすいね」と息子と会話する時間に変わっていました。そうして少しずつ、ベッドでの先取り学習で、学校の宿題より難しい課題に挑戦できるようになっていきました。すると不思議なことに、以前はあれほど大変だった宿題も、楽に感じられるようになってきた様子でした。

「理想」よりも「続けられる形」を

もちろん、これがすべての子どもに合う方法だとは思いません。今のやり方がずっと正解だとも思っていません。成長とともに息子の感じ方も変わり、いつかは机に向かって集中する日も来るかもしれません。

でも今は、「理想の形で始めること」よりも、「続けられる形で始めること」のほうが何倍も大切です。机に向かうことも、一人でやることも、いずれ必要になったときに身につけていけばいいと思っています。

一見、遠回りに見えるかもしれません。けれどわが家にとっては、世間の“当たり前”を少しずつ手放していったこの形こそが、息子が無理なく学習の入口に立つための、第一歩でした。

執筆/河野りぬ

家庭学習について調べると、「机に向かって勉強する」「紙に書いたほうが覚えやすい」「一人で取り組めるようにする」といった方法がよく紹介されています。もちろん、これらは多くの人にとって効果がある学習法です。しかし、それはあくまで統計的な傾向であり、目の前のお子さんにその方法が合っているかどうかは別の問題です。

特に発達特性のあるお子さんでは、学習内容そのものよりも、「情報量が多いと疲れてしまう」「机に向かうこと自体が苦手」「一人では始められない」など、学習に取り組む前の段階につまずきがあることが少なくありません。そのため、方法が合わないことで「勉強は苦手」「勉強は嫌い」という気持ちにつながってしまうこともあります。
そのような中で、河野さんが「何が負担なのか」を一つずつ観察し、お子さんにとって一番取り組みやすい方法を試行錯誤しながら見つけていかれた姿勢には、本当に頭が下がります。

記事の最後に書かれていた「『理想の形で始めること』よりも、『続けられる形で始めること』のほうが何倍も大切でした」という言葉は、とても印象的でした。学習は一時的に頑張ることではなく、長く積み重ねていくものです。続けられなければ、どんなに理想的な方法でも意味がありません。
勉強法は、お子さんによって本当にさまざまです。文字より映像のほうが理解しやすい子、ゲーム形式だと集中できる子、書いて覚える子、聞いて覚える子、体験しながら覚える子、目標があると頑張れる子もいれば、テスト形式より繰り返しインプットするほうが力を発揮できる子もいます。お子さんの数だけ学び方があると思って、固定観念にとらわれず、「この子にはどんな方法が合うだろう」と柔軟に探していくことが大切なのだと、改めて感じました。今回の体験談は、そのことを教えてくれる素晴らしい実践例だったと思います。(監修:小児科医 新美妙美先生)

(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

【関連記事】

おすすめの記事