1年をかけ岩波少年文庫を100冊読破した読書インフルエンサーが感じた、「生きるエール」をもらえる 児童文学4選
「なぜ働くと本が読めなくなるのか」とは言い得て妙ですが、社会人になってから本を読む習慣が失われた方も多いのではないでしょうか。
また、夏休みに入り、子どもに読書習慣をつけさせたいけど、どうしたらいいのかわからないと考えている親御さんもいるかもしれません。
そんなコスパ・タイパ時代に、1年かけて岩波少年文庫を100冊読破した児童文学インフルエンサーがいます。
三本川さんが、児童文学に惹かれたきっかけ、書籍を読む習慣をつける方法と、そこで得た「人生の支えになる児童文学4冊」を解説します。
書店員、司書、塾講師、保健室の先生も注目!「保健室経由、かねやま本館。」シリーズ児童文学インフルエンサーをしている、三本川と申します。
ふだんはSNSでさまざまな児童文学の紹介を行っています。
この活動を始めた理由は、少々芝居がかったような言い方ではありますが、「児童文学は読者の人生の支えになるから、応援してくれるから」です。
現在、私はパート書店員として働いていますが、それ以前には会社員として10年間働きました。
会社員時代の最後の1年、思うところがあって身を置いたのは、激務が多いことで有名な業界でした。
不慣れな業務や穏やかでない人間関係によって精神的な負荷がかかり、メンタルクリニックに通いながら、綱渡りのように一日一日を過ごしていました。
そんな中、ふと児童文学を読む習慣をつくってみました。
児童文学を読むことをSNSで宣言し、通勤時や昼休憩の隙間時間に読みふけりました。
子どものころから本が好きで、たくさんの児童文学を読みましたが、大人になってからの読書はビジネス書や実用書に偏っていました。
久々にじっくり読む児童文学は心の癒やしになり、日々を乗り越える助けになりました。
多くの忙しい大人たちの読む本は、往々にして実利を得るための術が書かれており、役に立ちます。
でも受け取り方によっては、そういった術がなければ我々の存在に価値がないと示されているかのようです。
『モモ』に出てくる悪役「灰色の男たち」の価値観ではありませんか。
一方で子どものための本は、そもそも私たちには価値がある、貴い存在であると伝えてくれています。
また、他者は温かみを持った存在であり、苦しくても希望のある社会がある、そこで未来を切り開いていける、そういった人生観を育んでくれます。
平易な言葉で書かれているとか、ハッピーエンドになるとか、そういった表面的なことではなく、大人の作者から子どもの読者に手渡される人生の支えが芯にあって、作品が形作られている。
読者の存在を根本から肯定し、未来に向かって背中を押してくれる。
児童文学はそういった特別な素晴らしさがあります。
大人の私たちもその価値を受け取って、子どもたちに手渡していきたいものです。
読書習慣のつくり方についても少し書こうと思います。
私はおよそ1年かけて岩波少年文庫を100冊読み、現在は福音館書店の児童文学を100冊読んでいる最中です。
児童文学とその関連書を中心にしながら、毎日本を読んでいます。
こうしてしっかり読書するためにどんな方法を取っているかと言うと、例えばこんなことをしています。
・SNSで読書の目標を宣言する(このレーベルの本を100冊読みます! とフォロワーの方々に伝えて、気合を入れました)
・一日のスケジュールに読書の時間を入れる(毎朝6~7時は読書時間です。YouTubeでライブ配信をしながら読んでいます)
・なるべく本以外を持たずに外へ出る(結構スマホに依存しているので、なるべく物理的に離れたいのです)
そのようにして私がたくさん読んできた児童文学の中で、おすすめを4作品ご紹介いたします。
アストリッド・リンドグレーン『やかまし村の子どもたち』
仕事に押しつぶされそうになっていたころに読んだ本として思い出深いのは、例えばこの本。
「やかまし村の子どもたち」著/アストリッド・リンドグレーン、岩波書店
スウェーデンの田舎の子どもたちが、ただただ遊んでいる話。
教訓の押し付けはひとつもありません。
子どもたちが遊びで家出を企てても、「いいとも。ちょっとだけなら、家出してもよかろうよ」と大人が背中を押す始末。
人間のあるがままに楽しむことが肯定されています。
すべての子どもたちがこのような豊かな子ども時代を過ごせることを願ってやみません。
この本のおかげで、私は通勤時と昼休みだけ現実を離れ、自然豊かな「やかまし村」に訪れて、幸福な子どもたちを「いいなぁ!」と羨ましく思いながら癒やされていたのでした。
それにしても牧歌的な表紙です。満員電車の中、スーツ姿でこの本を読んでいた当時の自分の姿を思うと、ちょっと可笑しい。
ジュール・ベルヌ『二年間の休暇』
『十五少年漂流記』というタイトルでも知られています。
子どものころに読んで、大人になってからも読み返して、いくども力をもらった作品です。
「二年間の休暇」著/ジュール・ベルヌ、福音館書店
8~14歳の15人の少年たちが船で漂流し、大人不在のまま無人島で生き抜きます。
いわば少年版の『ロビンソン・クルーソー』です。
ほとんどだれも弱音をはかない代わりに、「みんな、落ち着けよ。ぼくたちは、まだ子どもだけど、おとなのように慎重にやろうじゃないか」などと、子ども同士で励まし合うセリフが目をひきます。
彼らが生きながらえた要因は、自信を持って試練に立ち向かう姿勢にありました。
無人島ではなく都会に生きる私にも、彼らの姿勢から学べることが多くありました。
最近の児童書についても紹介します。
吉田桃子『夜明けをつれてくる犬』
「夜明けをつれてくる犬」著/吉田 桃子 イラスト/Naffy、講談社
小学生のころ、ひとまえで話すことのできない同級生の女の子が一人いました。
私は彼女がどんなことを考えていたのか、わからないままでした。
この本もひとまえで話すことのできない、おそらく場面緘黙症と思われる子どもの話。
人と話せない小学生の女の子が、大切な飼い犬の死を乗り越えられずにいます。
女の子が骨つぼの中の犬の骨に触れるシーンから始まり、その静謐な空気感に冒頭から心を摑まれました。
小説という媒体には、立場を超えて登場人物に共感できるという良さがあります。
この本を読むことで、うまく話せない人にも共感を持つことができるようになります。
「声になって外に出ないだけで、わたしのなかは、いつだって言葉でいっぱいなのだ」というモノローグもあるとおり、主人公の内面には複雑な思いであふれています。
そんな彼女が悲しむべきことをしっかり悲しんで、強くなって進んでいく健気な姿には、読者も大いに力をもらえること間違いありません。
松素めぐり『保健室経由、かねやま本館。』
「保健室経由、かねやま本館。」著/松素めぐり、講談社
以前はクラスの人気者だったのに、引っ越した先の学校では、人間関係がうまくいかない。
そんな悩める中学生の女の子が、学校の保健室を通ってたどりついたのは、なんと湯治場。
さまざまな効能の温泉につかる30日間の話です。
疲れたら休んでもいいということや、物事は必ずしも自分の目に見えているとおりではないことを教えてくれるストーリーです。
10代のころ、学校の人間関係を全世界の全てであるかのように感じていた方は多いのではないでしょうか。
この本は、そんな視野の狭さに気づくきっかけをくれます。
大人が読んでも同様に、視野が狭くなっていることに気づかされるかもしれません(あと、温泉に行きたくなります)。
以上、人生の支えになる児童文学のご紹介でした。
言うまでもありませんが、世の中には他にもたくさんの素晴らしい作品があります。
子どもも大人も、児童文学を読んで力をもらい、生きる力をもらいませんか?