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ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』ワークショップオフィシャルレポート

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ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』

2021年8月下旬、ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』のワークショップが実施された。これは新作を創るにあたり、主にスタッフ陣が作品の骨格を知るための必要な過程であるという。全キャストが揃う本稽古の2か月前というタイミングであったため一部の役に関しては代役により演じられ、出席の難しいキャストの多くはZoomをつないで参加するスタイルを採用。そうして台本とすべての楽曲とじっくり向き合い、実践と検証を繰り返しながら参加者全員でゼロから作品世界を立ち上げる日々は、創造と発見の連続であった。ここでは最終日、全編を最初から最後まで、歌を入れて行った模様をレポートしたい。。
広い稽古場。スタッフ、キャストが着席した様子が見える位置にあるPCは、アメリカにいる音楽のフランク・ワイルドホーンとリモートで繋がっている。手を振りあい、明るく挨拶を交わしあうカンパニー。さあ、いよいよこの一週間の総まとめのスタートだ。

ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』ワークショップの様子

第一幕冒頭は、ドラマティックに心をザワつかせてくれる力強いナンバー。北斗神拳の伝承の様子が綴られ、ケンシロウ、トキ、ラオウの三兄弟の波乱の人生の序曲でもあり、観客を『北斗の拳』の世界へと誘う始まりにふさわしい楽曲である。

俳優たちはみなすでに物語の流れも歌詞もメロディーも把握、迷うことなくテンポよく芝居が進んでいく。逃げ惑う人々、シェルターの扉1枚を挟んだ悲劇、愛する者との別れ……核戦争の炎に包まれた世界は、一気に混沌としていく。

ホッとする間もなく、ケンシロウがシンの指で胸に深い傷を負うあのシーンへ。シン役の上田堪大の張りのある声に、威圧と狂気が潜む。対するケンシロウ役の大貫勇輔は愛するユリアを守るためひたすら痛みに耐える。その重苦しさが稽古場内にも独特の緊張感を生み出していくのがわかる。

そんな空気が一変したのが、孤児でちょっと強がりな少年・バットの登場シーン。演じる渡邉蒼は身振り手振りを交えて軽妙なソロナンバーを生き生きと表現、子供の目から見た戦乱の世をシニカルに歌い、民衆たちとの掛け合いもいいテンション。

ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』ワークショップの様子

続くケンシロウのソロナンバーはバット、そしてリンと出会い、命の価値と生きる意味とを己に問い直す“覚醒”の1曲。心に浮かぶひとつひとつの思いを噛み締め、ジリジリとした疾走感とともに確実にパワーをチャージしていく心の動きが大貫勇輔の丁寧な歌唱とリンクしていく。そして歌の終わりと共に繰り出されるのは……「北斗百裂拳」。やはり決めシーンの登場は気持ちがいい。「お前はもう死んでいる」「……たわば!」のくだりでは、待ってましたとばかりに思わず場が湧いた。

ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』ワークショップの様子

ミスミ爺の種籾のエピソードからのトヨとミスミのシーンも見どころだ。トヨを演じる白羽ゆりはセリフを発する直前、自然と少し背を丸くし、歳を重ねた女性らしい声を響かせた。トヨとミスミのダンスナンバーは幸せだったかつての日々を思う歌。包容力のある凛とした白羽の歌声は目の前で花が咲いていくようなイメージで、暖かさと懐かしさを届けてくれる。

妹のため復讐を誓って村々を渡り歩いていたレイとの出会いもこの村。演じる伊礼彼方は巧妙に闘争心をコーティングしたスマートなレイ像を提示。大人の余裕を醸しつつも、ケンシロウの漢気に共感し“その先”へ踏み出す一匹オオカミとして脇からしっかりと場を支えていく。

ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』ワークショップの様子

村の中心人物であるマミヤ役は松原凜子。壮絶な過去を乗り越え人々の心にわずかにでも残る「希望」の灯火を絶やさぬよう前だけを向いて生きるその歌声には、確かな勇気が宿る。トキを救出すべく向かったカサンドラでケンシロウが“特別なファイター”だと見抜き信頼を深めていくナンバーは、マミヤも“闘う人”なのだと確信させられる情熱がたぎり、非常に印象深かった。

リンのソロナンバーも、またひとつ景色が広がった瞬間だった。演じるのは山﨑玲奈。ピアノが鳴るとスッと立ち上がり、死を恐れない勇気の心を健気な思いで歌い上げる。少女の伸びやかな声にトヨ、バット、ミスミ、さらに村人たちの声が重なっていく。名もなき人々の魂のコーラス。まっすぐな思いに怯む侵略者たち。清らかさが稽古場を包む。山﨑が最後のフレーズを歌い上げた瞬間、伊礼が思わずブラボー&拍手! さらにくるりと山﨑のほうに体を向け、大きくアイコンタクト。晴れ晴れとした表情の彼女もそれに応える。拍手が大きくなり、稽古場の熱量がさらに上がった。

ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』ワークショップの様子

感情の宿った台詞の応酬、確かな歌声──出会い、別れ、壮絶な戦いが繰り返されていく。ここにいる全員が前だけを向いて作品に命を吹き込み続ける時間はとても豊かだ。

1幕終盤、トキとレイによる“愛の歌”も心に沁みる。限りある命、残された時間、人として己ができることとは…静かに強く、1秒もムダに生きないと決めた男たちのスローナンバー。歌声から溢れる愛に誘われ、ここでも自然と拍手が起こった。

1幕ラスト。ここまでの怒涛の悲劇的展開を全て引き受け、飲み込み、その腕に抱えたケンシロウのもがき、苦しみ、慟哭のナンバーが響く。本番ではここで感情を全て放り込んだかのような大貫勇輔の踊りも期待される、最初のクライマックスへの到達だ。周囲の人々も畳み掛けるようにケンシロウの思いへと喰らいついていく。仲間の結束が高まる。やがて生まれるのは……確信。「ケンシロウこそが救世主なのだ」と──。

開始から約1時間半。一度も止まることなく走りきった前半。それぞれの顔にも自然と安堵と充足感が浮かぶ。休憩を挟みワークショップはさらに2幕へと進んでいくが……ひとまずレポートはここまで。後半からラストへのさらなる展開は、まだまだお楽しみにとっておこう。

それにしてもこれがまだ座り稽古の段階だとは思えないくらい、その完成度は素晴らしいの一言に尽きる。原作に描かれた重要なエピソードの数々をしっかりと押さえた濃厚な台本、勇壮でメロディアスな楽曲とやはり原作に刻まれた哲学や生きる気高さが織り込まれた歌詞、ドラマティックな演出プラン、そして俳優たちの熱と技術が、すでに『北斗の拳』をミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』へと華麗に変換させているのだ。

地固めは整った。ここから始まるさらなるクリエイティブな時間を経てミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』が劇場へと解き放たれる瞬間が、ひたすらに待ち遠しい。

取材・文=横澤由香

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