Yahoo! JAPAN

介護現場に笑顔を。133種類のスポーツ体験から生まれた「介護スポーツレクリエーション」

Sports

ミニフットゴルフで蹴ったボールが、見事にホールインワン。普段はあまり表情を変えない高齢の利用者さんが、満面の笑みを浮かべました。

その姿を見た施設スタッフから、思わずこんな言葉がこぼれました。

「こんな表情を見たのは、本当に久しぶりです」

介護施設では、食事や入浴、リハビリなど、日々の生活を支えるサービスが提供されています。一方で、仲間と笑ったり、悔しがったり、何かに夢中になったりする機会は、決して多くありません。

そんな介護施設に、誰もが参加できるスポーツレクリエーションを届けているのが、株式会社ソクスポです。同社が運営する訪問型サービス「ソクスポ配達」では、座ったままでも楽しめるミニフットゴルフやスカットボールなどのニュースポーツを活用。20~30人ほどの施設利用者が一緒に参加し、体を動かしながら、笑い、競い合える時間をつくっています。

2026年4月時点では4施設で5回の開催だったこの取り組みは、施設から施設へと口コミで広がり、わずか2ヶ月ほどで20施設以上に拡大しました。

なぜ、この取り組みはここまで広がっていったのでしょうか。そして、なぜソクスポの代表の吉田将来さん(以下、吉田)は、介護施設にスポーツを届けようと思ったのでしょうか。これまでに133種類ものスポーツを体験してきた吉田さんに、活動の背景にある想いと、これからの展望を伺いました。

133種類のスポーツを体験して見つけた、自分の強み

ーー吉田さんがこれまで体験してきたスポーツの数に驚きました。なぜそんなにもたくさんの数のスポーツをやってきたのか、教えてください。

吉田)僕はもともと小学3年生から今まで野球を続けているのですが、大学2年生くらいのときにふと感じた「自分には野球以外にも向いているスポーツがほかにもあるんじゃないか」という気持ちと、話のネタになるような新しくておもしろい体験を増やしたいという想いから、いろいろなスポーツを体験し始めました。

それから10年以上が経ち、これまでに体験したスポーツの数は、133種類になりました。そのスポーツの経験や知識をもとに、今では自治体や企業のスポーツイベントの企画・運営や、スポーツの新規事業の支援といったことをやらせていただいています。

ーー133種類の中で、とくに印象的だったスポーツは何ですか。

吉田)「スカットボール」です。ピンボールとゴルフを組み合わせたようなスポーツで、今年出会った132種類目のスポーツです。これが介護施設にスポーツを届ける『ソクスポ配達』の取り組みにもつながってくるのですが、子どもから高齢者まで誰でも楽しめるスポーツです。

これまで133種類を体験してきた中でも、「まだこんなスポーツがあるんだ」「こんなにも誰でも取り組めて、夢中になれる良いスポーツがあるんだ」と思いました。参加するハードルがとても低いのに、参加している人も、見ている人もおもしろい。本当によくできたスポーツです。

ーーこれまでに多くのスポーツを経験してきた吉田さんだからこその強みは、どのような部分にあると感じていますか。

吉田)僕は、スポーツを楽しむ“場づくり”が得意です。世の中には、そもそもスポーツが好きな人もいれば、逆に苦手意識がある人もいます。でも、そのときに決めるルールや声かけのひとつひとつで、参加者がスポーツやその時間を楽しめるかどうかは大きく変わります。

逆に言えば、その場にいる人たちに合わせてルールや声かけを柔軟に組み立てれば、誰もが楽しめる時間に変えることができます。そうやって場をつくるのが僕は好きで、そこが自分の強みかなと思っています。

2つの想いが重なり始まった「ソクスポ配達」

ーー介護施設にスポーツを届ける「ソクスポ配達」は、どのように始まったのですか。

吉田)僕は新卒時代から今まで、ずっとスポーツに関わる仕事をしてきました。あるとき、障がい者就労支援事業所に勤めていた父から「介護施設では、これからは余暇活動が大事だと思う。スポーツを楽しめるようなレクリエーションをやってほしい」と相談を受けて、2022年の末から月に1回のペースで、スポーツレクリエーションを行うようになりました。

毎月レクリエーションを行う中で、取り組むスポーツの内容に手応えがありました。これを父の施設の一箇所のボランティアだけで終わらせるのではなく、事業やサービスとして継続や拡大可能な形にできないか、という想いはずっと持っていました。

ーーそこから想いだけで止まるのではなく、事業化したのには何があったのですか?

吉田)去年の1月ごろ、草野球仲間から突然、「福祉の現場でスポーツを取り入れるのはどうかな」と相談を受けました。

彼は介護・福祉の仕事をするなかで、レクリエーションの大切さを感じる一方、現場が抱える課題も目の当たりにしていました。そこで、すでに福祉施設にスポーツを届ける活動を始めており、「この取り組みをもっと広げていきたい」と考えていたそうです。話を聞くうちに僕もその思いに共感し、意気投合しました。

お互いの頭の中にすでにあった構想や既に実際に行っていた取り組みが重なって、「やってみようよ」と始まったのが、介護施設にスポーツレクリエーションを訪問型で届ける『ソクスポ配達』です。その友達も、現在一緒に運営をしています。

ーーソクスポ配達では、「スポーツ」を届けることにこだわりがあると聞きました。

吉田)勝ち負けや挑戦があるからこそ、「思ったようにできなくて悔しい」「褒められて嬉しい」といった感情が自然に生まれるからです。介護の現場では、どうしても感情を大きく表現する場面が減ってしまいがちです。だからこそ、僕らはそこに価値があると思っています。

僕らが目指しているのは、いわゆるレクリエーションではなく、スポーツイベントであり、スタジアムのような一体感や盛り上がりです。実況が入ったり、拍手が起きたり、成功した人をみんなで称えたり。プレーしている人はもちろん、見ている人も楽しい場をつくっていきたいです。

介護現場の「マンネリ化」と「スタッフの負担」という課題

ーーまた、ソクスポ配達は、介護現場の課題解決にもつながっていく可能性があるそうですね。実際に現場には、どのような課題があるのでしょうか。

吉田)大きく3つあると思っています。1つ目はマンネリ化です。決まった時間に食事をして、テレビを見て、という日常がずっと流れています。体を動かす機会も、非日常的な体験も少ないです。これまでは施設のスタッフの方が毎月のイベントを考えたり、地域の方に協力してもらったりしてきたのですが、どうしても同じなようの繰り返しになってしまいます。

2つ目は、スタッフの方の負担です。スタッフの方は、レクリエーションで場を盛り上げることを専門的に学ぶ機会があるわけではないので、「盛り上げなきゃいけない」というのが負担になりやすいです。

3つ目は、全員が楽しめる内容にするのが難しいことです。折り紙や風船バレーなどがレクリエーションで行われていることが多いのですが、人によっては興味がなかったりして、なかなか全員が楽しめるレクリエーションにするのが難しいです。

ーー吉田さんの“場づくり”の力が、まさに活きる現場ですね。

吉田)介護現場のイベントには、屋内の限られたスペースで行うこと、安全にできること、大人数が一斉に参加できることなど、いくつもの制約や条件があります。その中で「このスポーツをやりましょう」と自信を持って提案できるのは、これまでたくさんのスポーツを体験し、教えてきた経験があるからだと思います。

「スポーツから軸足を介護にずらすだけで、こんなに自分の経験が活きるんだ」と、スポーツが好きな僕にとって本当に幸せな活動です。もっと自分のスキルや経験が活きる場所、価値が高まる場所があるんじゃないかと思っていたのですが、この1年で、それが介護という現場ですごく活きているなと感じています。

「感動した」スタッフの言葉|現場で生まれる喜怒哀楽

ーーこれまでたくさんの活動をされてきたと思いますが、その中で、特に印象に残っていることを教えてください。

吉田)具体的なシーンがいくつもあります。スカットボールで高得点が出たとき、ミニフットゴルフでホールインワンを決めたとき。成功すればすごく笑顔になってくれるし、入らなければ悔しそうな顔をする。日常生活の中にも喜怒哀楽はあると思うのですが、スポーツという時間の中で、対戦形式だったり、初めて挑戦したりするからこそ起きる、大きな喜怒哀楽のシーンを見られたときは、本当に嬉しいです。

ーーとくに心に残っているエピソードはありますか。

吉田)介護度が高く、手足を動かすことが難しかったり、反応が少なくなっていたりする方もいます。

現在は、月に1回や2回など、継続して実施している施設もあります。回数を重ねていくと、スポーツをしたこと自体は忘れてしまっても、体は少しずつ動きを覚えていくことがあります。スカットボールが入るようになったり、ボールをうまく蹴れるようになったりするんです。

ある方も、2回、3回、半年と続けていくなかで、ある日突然、うまくボールを蹴れるようになりました。その瞬間、これまであまり見られなかったような、すごくいい笑顔を見せてくれたんです。

一緒にいた施設のスタッフの方も同じように感じてくださっていて、あとから「あのときは感動しました」と話してくれました。

こうした出来事を振り返ると、本当にやりがいを感じます。普段とは違うスポーツレクリエーションの場だからこそ、引き出せる表情や変化があるのだと思います。

ーー施設のスタッフの方からは、どのような反応がありますか。

吉田)一番よく言ってもらえるのは、「こんなに盛り上がるんだ」や「こんなに盛り上げてくれるんだ」という言葉です。僕らが盛り上げ役になっているのもあるのですが、そもそもスポーツ自体が盛り上がります。リハビリではスポーツをするわけではないので、「こんなに施設利用者の方が動けると思っていなかった」と言ってもらえたり、「こういう形ならスポーツができるんだ」というリアクションをいただいています。

目指すのは「当たり前のようにスポーツを楽しめる日常」

ーー広がりつつある『ソクスポ配達』ですが、今後どのようなことを目指していきたいですか。

吉田)これまでは”課題を解決する”という視点でお話ししてきましたが、このスポーツレクリエーションが施設で日常的に行われることで、逆に“価値として上乗せできる”部分があると思っています。有料老人ホームや介護施設は本当にたくさんある中で、何をもって入居先に選んでもらうか。これからは、レクリエーションや日常の楽しみを得られることが、より重要になっていくと思っています。

例えば、「この施設では、家族と一緒に楽しいスポーツレクリエーションができる」とか「スポーツを楽しむ時間を日々の楽しみにできる」のような魅力がある施設を、一つでも増やしたいです。

そのために、僕らが月1回行くことに加えて、日常的に楽しめるスポーツ道具が置いてある、レンタルできる、スポーツが得意な施設スタッフが増えていくことなど、いろいろな伴走の仕方があると思います。いまは訪問型という“点”の取り組みですが、それを線でつなげていきたい。そして今後は担い手を増やしていき、エリアも関東から全国へと広げていきたいです。

ーーその「点」が線になり、全国へ広がった先に、どのような光景を実現したいですか。

吉田)ソクスポ配達のゴールは、単に訪問レクの回数を増やすことではないんです。介護施設でスポーツをすることが当たり前になり、利用者さんに「今日もスポーツの日だね」と楽しみにしてもらえる。そんな文化を根付かせていきたいです。

そのためには、僕らが訪問するだけではなく、地域のスポーツクラブやスポーツ好きな人たちが現場に関わったり、施設に道具が常設されて、スタッフさん自身が日常的にスポーツレクを実施できるようになったり。高齢者の方が日常的にスポーツを楽しめる環境そのものをつくっていきたいと思っています。

スポーツは、子どもやアスリートだけのものではありません。年齢や身体の状態に関係なく、誰もが即、いつでもスポーツを楽しめる。それが当たり前になる社会をつくっていきたいです。それが「ソクスポ」で目指したい社会です。

ーーありがとうございました。

おすすめの記事

新着記事

  1. 花乃衣 美優、軽やかで上品なフェミニンコーデを披露!

    WWSチャンネル
  2. 花火が夜空を彩る!夏の風物詩 「第48回あさご夏祭り」 朝来市

    Kiss PRESS
  3. 毎日配信!少年アシベ「鱶田の敵」森下裕美/ゴマフアザラシの“ゴマちゃん”をめぐる名作ギャグ4コマ

    ふたまん++
  4. 「語り手なき時代」に「あの戦争」のリアルを継承していくには【戦争をいかに語り継ぐか】

    NHK出版デジタルマガジン
  5. フェルメール《真珠の耳飾りの少女》 ミキモトが名画着想の特別パールピアスを記念製作!

    イロハニアート
  6. 小野寺結衣、青色トップスが目を惹くお姉さんコーデで魅了!

    WWSチャンネル
  7. 【鳥取市】喫茶アイガー|創業50年以上!鹿野町で愛され続ける老舗喫茶店の人気ランチ

    tory
  8. 名駅|早起きしてでも食べに行きたい、軽井沢発祥の人気ベーカリーレストラン

    ナゴレコ
  9. 8月8日は米米CLUBの日!40周年ライブ「FANtachy medley」を88年限定公開

    WWSチャンネル
  10. 大型犬を助手席に乗せ『洗車機に入った』結果→『怖がるかな』と思ったら…コントのような『まさかの光景』に爆笑「可愛いw」「めっちゃ笑った」

    わんちゃんホンポ