【鎌倉 イベントレポ】鎌倉市鏑木清方記念美術館 特別展覧会 “あの人に会える!” - 70年の時を経て、清方が晩年を過ごした古都鎌倉に、あの「幻の名作」が帰って来た。
この絵を見たことは、ありませんか?
切れ長の目、細い眉、赤い口紅、洋風の髪型、黒い羽織を着た美しい女性。
背景に描かれているのは外国人居留地のある東京下町の風景。
美人画の第一人者と言われる鏑木清方の<築地明石町>です。
画像出典:鎌倉市鏑木清方記念美術館
《築地明石町》昭和2年(1927) 東京国立近代美術館蔵 Photo:MOMAT/DNPartcom
これまで数々の名作を残した清方の作品の中でも、代表作と呼ばれるのがこの<築地明石町>なのです。
帝国美術院賞を受賞したこの作品ですが、実は2019年に再発見されるまでの44年間、所在不明となっていました。
その<築地明石町>が、今回ここ鎌倉に来ています。
今回の展示では、<築地明石町>に加え<浜町河岸><新富町>の三部作が揃います。
三部作が鎌倉に揃うのは、実に70年ぶりのこと。
このタイミングを逃したら、次はいつお目に掛かれるか分からないので、さっそく鎌倉市鏑木清方記念美術館に行って来ました!
たっぷりご紹介します。
画像出典:鎌倉市鏑木清方記念美術館
鏑木清方について
いろいろ学んで来ましたので、ご紹介します。
清方は、1878(明治11)年の東京神田生まれ。
幼少期を東京下町で過ごした生粋の東京っ子です。
明治初期というのは、町はまだ江戸の風俗を引き継いでいたらしいです
そこに新しい文化がどんどん入り、モダンになり、人々の暮らしが変わり始めた時代のようです。
清方の絵は、単に美しい女性を描くだけでは無く、古き良き明治を懐かしむ想いが、女性のたたずまいや背景の風物に表されています。
鎌倉市鏑木清方記念美術館ホームページ 主な所蔵品のご紹介
画像出典:鎌倉市鏑木清方記念美術館
清方は、関東大震災と第二次世界大戦を東京で経験しています。
すべてが破壊され、無くなり、新しく町が建て直されていく。
急激に変わっていく、町を目の当たりにしたのですね。
終戦後、清方は鎌倉に居を移し、93歳で亡くなるまで鎌倉で暮らします。
華やかさと閑静さを兼ね備えた鎌倉は、清方には住みやすい場所だったようです。
晩年は、画業よりもペンを持つことが増え、随筆家としても類いまれな才能を発揮します。
清方の随筆を読んだことはありますか?
こんな文章を見つけました。
“鎌倉へ住むようになってからは、三ヶ日のうち八幡さまへ参詣するのと、うららかな晴れた海辺をあるくだけで、一切世間との交渉がなくて済む。
蒔絵にかくような静かな波の寄せている浜へ出ると、昔頼朝がここで鶴を放ったというのが思い出されたりする”
(鏑木清方随筆集「正月の思い出」 岩波文庫)より引用
鎌倉の良さって、まさにこんなところです。
今更ですが、鎌倉に住んでいたという清方に、とても親近感を覚えてしまいました。
ちなみにこの鏑木清方随筆集は、一年を通しての春、夏、秋、冬の日常や四季折々の風物が書かれており、読みながらとても癒やされました。
日常の慌ただしさを忘れたい方には、お勧めの一冊です!
鏑木清方の経歴その他については、鎌倉市鏑木清方記念美術館のホームページでも紹介しています。
鎌倉市鏑木清方記念美術館ホームページ 鏑木清方の歩み
<築地明石町>三部作の楽しみ方
<築地明石町>は、2年後に描かれた<浜町河岸><新富町>と三部作としてまとめられました。
それぞれの町の風景を、女性を通して描いています。
女性の顔や立ち居振る舞い、そして背景に淡く描かれた景色などを見比べてみると面白いですよ。
<築地明石町>の描かれた背景
まずは、<築地明石町>の描かれた時代背景を説明します。
関東大震災が起き、年号が「昭和」へと改元された時代です。
新しく変わる時代。
そんな中、清方は、幼き日を過ごした懐かしい明治の下町を描きます。
子供の頃に見た、新しいものと古いものが混在する懐かしい風景を、その町の女性に乗せて描きます。
異国情緒あふれるモダンな町、築地明石町。
そして、江戸の風情を残す新富町や庶民の暮らす、浜町河岸。
世の中が急激に変わり、人々が懐かしい風景に想いを寄せた時代背景も、<築地明石町>の人気を後押ししたようです。
楽しみ方 その1.三部作見比べ
簡単に説明すると、
<築地明石町>は、外国人居留地で、異国情緒のあふれる町です。描かれているのは、その町のモダンな女性。
<新富町>は、劇場などがある歓楽街。描かれているのは芸者。蛇の目傘をさし、濡れた足元に気を使いながら歩く女性が描かれています。
<浜町河岸>は、庶民の町。描かれているのは、お稽古に通う娘。習ったばかりの踊りを思い出しながら歩いているようです。
着物や髪型、そして背景。
細かいところを見比べてみると、町の生活の違いなどが見えてきて面白いです。
そして三つの作品に共通しているのは、水のある情景。
<築地明石町>の佃の入江に漂う朝霧。
<新富町>の新富座を濡らす雨。
<浜町河岸>は、隅田川の流れとかすかに雨が描かれています。
水のある情景が、より静かに叙情的なものに感じさせますね。
楽しみ方 その2.学芸員さんの話を聞く
開催期間中、学芸員さんによる展示解説があります。
「通常は着物の下に長襦袢を着るのですが、<築地明石町>の女性は素肌に秋の着物の袷を着ています。これは素袷(すあわせ)という着方で、現代ではあまり行いませんが、明治時代には比較的されていた着方です。」
「下絵も展示しているので、見比べてみると面白いです。
まず、下絵で構図と輪郭線を決めます。その後、本番用の絹に写していくのですが、この間にも変更される場合があるので、良く見比べて違いを探してみてください。」
「<築地明石町>は、下絵と本画で顔が少し違います。下絵の女性はモデルとなった江木ませさんにそっくりですが、本画では、微妙に顔の印象が異なります。もう一人のモデルといわれる『天うつ波』(小説)に登場する女性のイメージが加えられたのではないかと言われています。」
なるほど。よく見ると違っています。
裏話などを知ると見方も変わってきて面白いですよね。
これ以外にも沢山面白い話を聞かせて貰いました。
学芸員さんの話を興味津々に聞いていたら、どんどん引き込まれてしまい、取材中なのにメモを取るのも忘れていたくらいです。
鎌倉市鏑木清方記念美術館 紹介
展示
<築地明石町><浜町河岸><新富町>三部作の他にも、清方の作品が展示されています。
絵の展示は、1~1.5ヶ月周期で変わるそうなので、また違う絵を楽しみに行ってみるのも良いですね。
鏑木清方のおもかげ
<築地明石町>の制作にかかわった人物の紹介コーナーもあります。
画室と正面玄関は、1954(昭和29)年建築当時の部材を使って再現。
施設紹介
みなさんは、美術館に行かれますか?
私は、美術館の静かな空間が好きです。
建物の外観、館内の静けさ、展示品がかもし出す知性と創造性、そのすべてが一体となった美術館の空間が好きです。
ここ鏑木清方美術館も、素敵な美術館です。
古都鎌倉ということもありますが、和の静けさを感じる、落ち着いた美術館です。
一人で癒やされたい時などはぴったりなので、お勧めします。
清方は、庭に好みの草花を植えて楽しんでいたそうで、こちらの美術館も、四季を通してさまざまな草花が花を咲かせます。
鎌倉市鏑木清方記念美術館ホームページ 庭園の花暦
ショップ
ショップも併設されていますので、お土産も買えます。
今回の特別展に合わせて用意された、コーヒーや小冊子もあるとのことです。
鎌倉市鏑木清方記念美術館ホームページ ミュージアムショップ
イベント・ワークショップ
ここでは、美術講演会の他、子ども・親子参加プログラム、日本画制作実演、日本画ワークショップ、等々いろいろな学び・体験のプログラムも用意されていますので、気軽に訪れてみて下さい。
画像出典:鎌倉市鏑木清方記念美術館
詳しくは、ホームページをご覧下さい。
鎌倉市鏑木清方記念美術館ホームページ イベント
展示解説
ここまで鏑木清方を知ってる素振りで説明をしてきましたが、実はこれ、全部ここで学芸員さんに教えてもらいました。
絵を鑑賞するだけではなく、学芸員さんのレクチャーを聴く。
「学芸員さんによって、清方への想いも違うので、それぞれの学芸員さん視点からの話を聞くのも楽しいですよ。」
わざわざ違う学芸員さんの話を聴きに来てくれるお客さんもいらっしゃるそうです。
それも楽しそうですよね。
取材に付き合ってくれた、学芸員の小林さんです。
話を聞いていて、鏑木清方大好き!がすっかり移ってしまいました。
また、話を聞きに行きます。
最後になりますが
みなさんも心に残る懐かしい風景は、ありませんか?
現在ではすでに変わってしまっている、懐かしい風景。
心にだけ残っている風景。
清方の絵には、懐かしさを感じます。
懐かしくて、ほっとする絵なのです。
清方の見た風景は、きっとあなたの懐かしい風景も思い出させてくれますよ。
長くなりましたが、ここ鎌倉に、鏑木清方という日本を代表する画家がいました。
取材というタイミングでしたが、鏑木清方に触れられて良かったと思っています。
そして、「幻の名画」<築地明石町>は、みなさんにも是非を見て頂きたい作品です。
ポスターとか写真ではなく、原画の魅力を感じて欲しいのです。
“あの人に会える”のは、今だけですよ。
特別展示会は、2025年11月30日(日)までです!
※写真撮影は、取材で特別に許可を得ています。
特別展覧会『あの人に会える!代表作<築地明石町>三部作』
開催日時
2025年10月25日(土)~11月30日(日)
開館時間:9:00~17:00 (入館は4:30まで)
休館日: 毎週月曜日(11月3日・24日を除く※祝日の場合は開催し、翌平日を休館)、11月4日(火)・25日(火)
開催場所
鎌倉市鏑木清方記念美術館
住所:〒248-0005 神奈川県鎌倉市雪ノ下一丁目5番25号
最寄り駅:JR鎌倉駅
アクセス:鎌倉駅東口から徒歩7分
駐車場:なし
関連イベント
◆展示解説 ※学芸員による展示解説を行います。
日時:10月25日(土)、11月8日(土)・22日(土)13:30~
毎週水曜日 11:00~
◆手話付き展示解説(ご予約不要)※学芸員による展示解説を手話付きで行います。
日時:11月9日(日)13:30~
◆市民講座(ご予約不要)※担当学芸員が本展の見どころをスライドで解説します。
日時:11月15日(土)13:30~(約45分)