TVアニメ『スナックバス江』リレーインタビュー④ 山田役・阿座上洋平
TOPICS2024.01.08 │ 12:00
TVアニメ『スナックバス江』リレーインタビュー
④ 山田役・阿座上洋平
北海道最大の繁華街「すすきの」から5駅離れた「北24条」の小さなスナックを舞台に、人生経験豊富なママ&チーママのコンビとぶっ飛んだ客たちが巻き起こす情熱の嵐。ボケがさらなるボケを生み続ける『スナックバス江(以下、バス江)』いう作品で、唯一の常識人であるサラリーマンの山田を演じるのは、阿座上洋平。その静かな奮闘を、本人の言葉で語ってもらった。
取材・文/前田 久
インタビュー_TOPICSスナックバス江声優阿座上洋平
山田の気分そのままで原作を味わった
――本作に関わる以前に、スナックに行ったことはありましたか?
阿座上 ありました。僕は群馬県の出身なんですけど、草津に行ったことがなかったので、あるとき思い立って友達と一緒に行くことにしたんです。そうしたらご飯屋さんがどこもいっぱいで、ようやく入れたお店がたまたまスナックだったんです。入ったときは僕ら以外はお客さんがいなかったこともあってか、ママさんがすごく優しく対応してくれて。あとから来たお客さんも、僕らよりずっと年上の方ばかりだったんですけど「せっかくだからお客さんと盛り上がれるような選曲をしよう!」とカラオケで昔の曲を歌ったら、めっちゃ盛り上がってくれたんですよ。去り際には握手をして肩を抱き合ったくらいで「スナックって、こんなに楽しいものなんだ」と感じたのをおぼえています。
――素敵な経験ですね。それは『バス江』のアフレコに生かされたりは……。
阿座上 まったくしていないです!(笑)
――あはは。では、あらためて原作の感想をお聞きしたいです。
阿座上 オーディションのお話をいただいてから、初めて読みました。最初はタイトルだけの印象で、スナックを舞台にした日常系のお話なのかな?と予想していたんです。でも、単行本を手に取ってみたら、カバーの絵から様子が違って(笑)。
――「日常系」にはなかなか出てこない雰囲気のキャラクターたちですよね。
阿座上 ページを開くと今度は「何が始まるの?」みたいな感じだったんですけど、第1話を読み終えると「あれ? 俺は今、何を読んでいたんだろう?」という嵐が通り過ぎたような感覚でした。山田は原作第1話の冒頭から出てくるんですよね。僕はオーディションで山田を演じるために読み始めたので、山田に自分を投影しながら、彼の全部のセリフを音読していたんですよ。つまり、気持ち的には自分が山田になってスナックに入ったわけで……。
――そ、それは大変ですね……。
阿座上 もう、ホントに訳のわからないことが次々と起こり始めて(笑)。まさに山田と同じような気持ちで「スナックバス江」を体験したので、原作の感想といえば、そのときの何ともいえない感覚がまず思い浮かびます。スナックの扉を開けたら、いきなり人が死んでいる……衝撃でした。
ツッコミ役としての役割をまっとうしよう、と考えた
――山田という役には、どんな印象を持ちましたか?
阿座上 突飛なキャラクターばかりのこの作品の中で、唯一真面目なキャラクターですよね。だから演じるときは、その場、その場で新鮮に驚いて、ちゃんとツッコむことを心がけています。山田がしっかりツッコまないと、ボケだらけになってしまうんですね。そういう意味では、作品を成立させる装置的な役割を担っていることも意識しています。普段は「キャラクターがお話の流れを作るためだけの存在になってはいけない……」と考えて演じているのですが、この作品ではかえって雑音になってしまうかな、と。彼がこの作品で担っている役割をまっとうするため、自我を出さずに言葉を発していこうと心がけています。
――そのあたり、ゲストも含めて本当に唯一の常識人ですよね。小雨ですらちょっとおかしいところがありますし。
阿座上 そうですね。小雨と山田は常識的なふたりなんですけど、山田がいちばんちゃんとしているんじゃないかなと思います。今思うと、僕がこれまで演じてきたキャラクターはボケ役が多いんですよね。僕自身も、どちらかというとボケ寄りの性格だなという自覚がある。だから「ツッコミって難しい」と思いながら、毎回演じています。
――まわりの方のお芝居を見ていて、とくに印象に残ったものはありますか?
阿座上 皆さん、面白すぎるんですけど、中でもやっぱり森田は面白いですね。岩崎諒太さんのお芝居には、あんなイメージはなかったので驚きました。そんな「童貞声」も出せるんだって(笑)。岩崎さんの森田は、本当に「俺は悪くない、間違ってない」と心から思っている。声だけ聞いていると、イケメンの顔が浮かんでくるくらい(笑)。でも、画面を見ると、間違いなく森田の声に聞こえてくるから、さすがだなと思います。
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生々しいのに実態がつかめない明美の謎
――山田と森田以外に、気になるキャラクターはいますか?
阿座上 明美は山田がいないときはツッコミに回るんですよね。高橋李依ちゃんは本当に器用に立ち回るのですごいなと、あらためて感じました。明美もじつは何を考えているのかわからない人だと思うんです。話数によって、まるで別人かのように振る舞いますよね。なんというか、本当に大事にしているものがなさそうに見える。そこが明美の本当の魅力じゃないかと思っているんです。
――ああ、たしかに……言われてみれば彼女は「虚ろ」なのかも。
阿座上 森田は「モテたい」という思いが中心にあるし、山田も「ここでちゃんとツッコまないと、大変なことになる」みたいな考えが行動の軸にある。バス江ママにしろ、タツ兄にしろ、小雨にしろ、みんな何かが奥底にあるんですけど、明美だけは見えないんですよね。だからこそ、気になる存在です。元カレの借金を肩代わりした理由とか、そもそもなぜ「スナックバス江」に勤めるようになったのかとか、聞きたいような、聞きたくないような。でも、どこかのスナックに、こういうチーママがきっといるだろうなという感じもするんです。あまり自分のことを話さずに、まわりをひたすらいじって楽しむような人。そして、明美の人間性にツッコむ人が誰もいないことによって、このスナックにおける人間関係の絶妙なバランスが生み出されている。そんな気もしています。
――深いです……。
阿座上 バス江ママも急におかしなことを言い出したりしますけど、でも彼女にはどこかマスコット的な部分があるじゃないですか。だからなんとなく安心して見ていられるんですよね。明美は存在としては生々しいのに、ぽっかり見えない部分がある。怖いです(笑)。
山田は本当に常識人なのか?
――ところで、山田といえば風間先輩の存在もポイントかなと思います。
阿座上 風間先輩は本当にノリがウザいんですけど(笑)、でもウザさが控えめのときは意外と常識人なんですよね。場をしっかり盛り上げてくれるし、なにより初めて山田を「スナックバス江」に連れてきたときに、お店のヤバい状態を見てひとりで帰っているんですよ。それだけで常識人なことがわかるじゃないですか(笑)。
――たしかに!
阿座上 その反応がまともなんですよ。山田は置いていかれて、結局「スナックバス江」になんだかんだでなじんでいますからね。だから風間先輩はいいボケ役だし、すぐに「ち○ぽ」と連呼したりするのはどうかと思いますけど――じつは登場人物の中ではまともなんですよね。ひょっとすると、山田よりまともかもしれない。
――山田は「スナックバス江」のあの場の空気に取り込まれている時点で、常識人ではない……。
阿座上 たぶん、彼は刺激的な日々を求めていたんじゃないかな。普段の行動が真面目すぎて。そんな風に想像したりしますね。
――このインタビューではいろいろな発見があって、作品の見え方まで変わってきそうです。
阿座上 山田を演じていると、あの世界を俯瞰して見ることができるんです。だから「みんなおかしいけど、じつはいちばんおかしいのは山田じゃね?」ということまで考えてしまう。本当のところはわからないですけどね(笑)。ただ、原作の時点で本当にセンスのあるボケとツッコミですから、役者がひとつひとつその面白さを細かく拾っていくと、逆にこの面白さが消えてしまうかも、とも感じたんです。だからいろいろ考えてはみたものの、現場では流れに乗せてもらっているだけ、というシーンも多々あります。監督も『バス江』のファンだし、他のスタッフやキャスト陣とも仲よくやりとりをしながら収録ができているので、そこで生まれる空気には全幅の信頼を置いています。作品全体から生まれてくる面白さを楽しんでいただけたらうれしいですね。
阿座上洋平あざかみようへい 8月7日生まれ。群馬県出身。青二プロダクション所属。主な出演作に『機動戦士ガンダム 水星の魔女』(グエル・ジェターク役)、『それでも歩は寄せてくる』(田中歩役)、『スプリガン』(ジャン・ジャックモンド役)、『鴨乃橋ロンの禁断推理』(鴨乃橋ロン役)など。リレーインタビュー第5回に続く作品情報
TVアニメ『スナックバス江』
2024年1月12日(金)よりTOKYO MX他にて放送開始!
©フォビドゥン澁川/集英社・「スナックバス江」常連一同