“へんなパイン“には真面目な人が多い?一等地の畑で作る「熟度」が命のパイナップル農園、名前の由来は…【沖縄県石垣市】
沖縄の夏の名物といえばパイナップル。近年、沖縄のパイナップルは、品種改良やブランド化が進み高級フルーツとして認識されることも多くなってきた。八重山諸島の中心地、石垣島でもパイナップルの栽培は盛んに行われており、Googleマップで「石垣島」「パイン」を検索すると多数の農場が候補に上がる。その中でも一際目を引くのが島内中心部、名蔵(なぐら)にある「へんなパイン」だ。一体、何がどう変なのか?石垣島滞在中の筆者が現地で確かめた。
「え、これシロップ漬けじゃなくて?」深い甘みとサクサクジューシーの食感に驚く
へんなパインでは、昨年(2023年)から農場でのパイナップルの直売を始めた。この形態での販売を考案したのは、へんなパインに集う若手のスタッフたち。観光客から地元の人までたくさんの人が訪れていて、インターネットでの口コミも評価が高い。その場でカットパインをこしらえてくれるのも、旅人には大変ありがたい。
今回いただいたのは、2017年に商標登録された品種「サン・ドルチェ」。果汁糖度が19度以上と従来の品種と比べ高く、その人気は高級品として名高いゴールドバレルと肩を並べるほどだ。口に入れると、爽やかな酸味とともに深い味わいが広がる。濃密な甘さは、シロップにつけてるのではないか?と錯覚するほどだ。食感もサクサクさとジューシーさをうまく両立しており、スナック感覚で食べられる。直売では価格もお得。小さいサイズであれば1個800円というのだから、本州での流通価格を考えれば、驚きのお買い得さである。
うまさの秘訣は、土地と熟度の管理にあり。
「(へんなパインのある)名蔵の土って、パイナップルを作る畑としては石垣島でも一等地なんです。ほかの地域とは味の差があるんですよね」
おいしさの秘訣を答えてくれたのは、へんなパインのスタッフで畑人(はたけんちゅ)の西川徹(にしかわ・とおる)さん(41)。「今年植えたものが採れるのは2年後で、しかも一株から一株しか採れないから手間がかかるんです。なのに、実がつくと、カラスとか、猪とか、キジとかが、上手に大きいやつから食べていっちゃうんです。小さいものから食べてくれたらいいのに(笑)」と、おいしいパイナップルを作るまでの苦労をにじませた。
へんなパインは最高の熟度で商品を提供するために、完熟直前での収穫を基本としている。パイナップルは、バナナなどほかの作物と違って追熟(収穫後に熟させること)ができないため、2年かけて育てたパインを一番おいしい状態で食べてもらうためには、完熟直前のものを収穫するのがベストなのだ。
へんなパイン。一体どこが変なのか?
「ところで、へんなパインって、どこらへんが変なんですか?」と、どうしても気になっていたことを尋ねると、「それ、よく聞かれるんですけど、社長の名前が平安名(へんな)っていうんです」と西川さん。まさかの、社長の苗字をそのままつけただけであった……。
西川さんは、名古屋で会社勤めやモデルの仕事を経て、7年前に石垣島に移住してきた。
「転職するタイミングで農業をやろうと思っていたんですが、へんなパインを知って移住を決意しました。へんなパインには泊まり込みの寮があって、手ぶらで移住できちゃうんです。実は、島人(しまんちゅ=沖縄の人)は社長しかいなくて、東京や岡山など、色んな地域から人が集まっています」と話す表情は、とても楽しげだ。
真面目な人が多い、へんなパイン。パイナップルの概念を、真面目に変えていく
「色んな地域から人が来ている……となると、変な人が多いんですか?」と、ぶしつけな質問をする筆者に「いや、真面目な人が多いです」と笑顔で即答する西川さん。先述の通り、パイナップルづくりにかける思いは真面目にほかならない。
「へんなパインに出会う前は、パイナップルは、口が切れたり痺れたりする缶詰のイメージがあって、果物の中でも(高級さという点で)下位の方に位置していると思っていたんです。でもここに来て、『口の切れるすっぱい果物』というイメージが180°変わりました」という西川さん。今後の展望を尋ねると、「パイナップルは見た目での違いが分かりづらいので、ブランドを見える化して覚えてもらうことが大事だと思っています。本土で売るとなると、送料がかかるので、ここ(石垣島)で買っていってもらえるのが一番です。繰り返し来てくれる人がいるのがうれしいですね」と続けた。
(写真は7月16日、すべて筆者撮影)
へんなパイン公式HP: