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国産ドローンメーカーの苦境[春原久徳のドローントレンドウォッチング]Vol.91

DRONE

今年のジャパンドローン展で目立ったのは韓国・台湾勢のブースであった。

新興の海外ドローン機体メーカーの台頭

商用のドローンに関しては、このコラムでも何度も書いてきたように、中国のDJIが強く、世界全体においても7~8割のシェアを握ってきた。

Vol.79 新しいステージに入った世界のドローン[春原久徳のドローントレンドウォッチング]

その中で当然のように機能面においても、価格面においても、また、使い勝手の面においても優位性を保ってきた。そのこと自体は現状も変わらない状況にある。

しかし、ウクライナ戦争において、ドローンがその中心に踊りでることで、状況が大きく変わってきた。それは、軍事関連の利用において、多くの国がDJIを始めとする中国のドローンを採用することが難しく、自国もしくは同盟国でのドローン、特に中型以下のドローンの調達を行わなければならない状況になってきた。

Vol.61 ウクライナ戦争以降のドローン環境の変化[春原久徳のドローントレンドウォッチング]

そんな中で、一番早くに動いたのは米国であった。DJIのような強力な機体メーカーを興す方向ではなく、Blue UASのような形でオープンプラットフォームを活用することにより、業界全体を水平分業的に向上させていくことを選んだ。その試みはまだ道半ばであり、なかなかDJIに匹敵した機能や価格のドローンを生み出すのはできてはいないが、それでもだいぶ整ってきているともいえよう。

Vol.53 ドローンのプラットフォームとその戦略[春原久徳のドローントレンドウォッチング]

その米国の状況を学ぶことで、2022~2023年ごろから自国でのドローン製造を動かしてきたのが、アジア近隣においては、台湾、韓国、そしてインドである。米国に倣って、オープンプラットフォームを採用し、また、そういった新興勢力において、オープンプラットフォームの採用は、新規に開発製造するドローンの機能や信頼性を既存製品にキャッチアップするのにも適している。また、台湾や韓国は、PCやスマートフォンで培ってきた水平分業のノウハウも持っており、一気にその水準を上げてきており、個々の機体メーカーも力をつけてきている。

ただし、どこの国もオープンソース系のドローンソフトウェアエンジニアは不足しており、筆者が経営するドローン・ジャパンが実施してきているドローンエンジニア養成塾に関しての問い合わせも増えてきており、今年は海外でもそのトレーニングを実施する形になってきている。

そして、それ以上の動きとしては、ウクライナの機体メーカーの動きである。まだ、戦争状態が続いているため、大きな動きにはなっていないが、もし、戦争が終結した場合には一気に動いてくる可能性がある。生産台数も多く、コスト効果も出ているため、もし、こういった動きが加速した場合には、日本の機体メーカーにとっても大きな脅威となってくることも予想される。

日本の機体メーカーにとっては、今まではDJIを意識する中で、そのDJIと直接当たらない部分で戦ってきたが、それでも苦戦を続けてきており、今年度を迎え、複数のドローン機体製造のメーカーや事業部が撤退を余儀なくされてきている。

日本の防衛分野において、日本の機体メーカーの機体を中心に採用していく動きも出てきてはいるが、それでも、デュアルユース(防衛と民生)を意識した開発構想や戦略を築いていかないと、継続的なものになっていかないだろう。

中国の輸出規制強化

これもこれまでのコラムで書いてきたが、今月に入って、中国のドローン関連部品の輸出規制が強化されている。きっかけは6月1日に行われたウクライナによるロシアへのドローン攻撃「蜘蛛の巣」作戦ともいわれている。

内容としては以前に示されたものを実行した形になっている。

Vol.82 嗚呼DJI[春原久徳のドローントレンドウォッチング]

ドローン及びドローン関連部品の輸出規制の強化・調整

中国商務部と関係部門は、2024年7月31日付で軍事利用の可能性があるドローンとドローン部品の輸出規制の強化(調整)を発表した(公告31号)。昨年の同日付での規制を拡大するもの。2024年9月1日施行。商務部はドローンの輸出規制を「適切に」拡大することを決定したと表明した。昨年2023年7月の規制は、次のようなもので、2つの公告(27号、28号)に基づいて9月1日から実施されていた(新華網日本語2023.8.1付)。一部のドローン用エンジンや重要ペイロード、無線通信設備、民間用反ドローンシステムなどの輸出を規制する。一部の消費者向けドローンについても2年間の臨時輸出規制を実施する。規制リストに含まれないその他のすべての民間用ドローンの軍事目的での輸出を禁止する。

今回これら2つの公告は廃止され、新たな公告31号に引き継がれる形となる。

具体的には、フライトコントローラー、ドローン搭載用のカメラ、大型のモーター、ESC、大型のバッテリーと広範囲に及んでいる。中小型のモーターやバッテリーは現在、まだ含まれてはいないが、いつそのリストに含まれてもおかしくはない。

これは日本の機体メーカーにとっても、大きな痛手となっている。従前より、中国の輸出規制によるチャイナリスクは存在してきたし、その動きとして、「DOP(ドローンオープンプラットフォーム)」といった活動も筆者はしてきたが、そのリスクは共有されるものの、一向に現実的には進んでいかなかった。

Vol.57 日本版ドローンオープンプラットフォームプロジェクトが目指すもの[春原久徳のドローントレンドウォッチング]

ここにきてのこういった中国の動きの中で、各省庁等でもその対策に急に動き出してきているが、果たして、そのエコサイクルは出来るのかどうか、そして、それが効果を発するかどうかは不明だ。

例えば、ドローンで使われるリチウムポリマーのバッテリーひとつとっても、現在、その生産シェアは中国が圧倒的であるが、実際はその生産シェアもあるが、その原材料やその精錬において、中国は圧倒的なシェアを握っている。

グラファイト(天然/合成)の精錬90%以上を手中に収め、天然グラファイト生産は約61–62%。鉱石形態からの一次加工でも圧倒的支配(リチウム、コバルト、マンガン、ニッケル含む)。

こういった状況もあり、米国と中国間も、ドローン本体や部品には、現在双方が輸出入の規制強化の動きを取ってはいるが、レアアースや原材料に関しては、一定の手打ちをしてきている部分もある。

今後の動き

機体メーカーにとっては、短期的には、中国の輸出規制強化が、そして、中長期的には、台湾・韓国・インド・ウクライナ等の海外機体メーカーの動きが、その脅威として残っていくだろう。そして、「これを見据えて戦略を立てていかねばならない」というのは、簡単であるが、PCやスマートフォンで、これまで日本のメーカーが立たされてきた苦境を思えば、そう簡単ではないだろう。ドローン産業が、PCやスマートフォン産業と異なるところは、その産業の中心がコンスーマーではなく、産業用途ということだろう。そして、これはこれからも大きくは変わらないだろうという風に思う。

そこにおいては、建設機械や農業機械の市場状況が参考になるのではないかと考える。ただし、今までの垂直統合型の構造ではなく、それはDXなどと連動する中で、いかにその業界の中で、継続的で使いやすいプラットフォームを形成していくかということになり、そのプラットフォームの形成にカギがあり、また、それをきちんと国内だけでなく、海外に展開していける、もしくは、海外と協業していけるかという観点が重要となってくるだろう。

そして、ドローンを活用するサービス企業やユーザー企業も、そのトレンドをきっちり掴みながら、サービスの付加価値向上やユーザー企業における生産性の向上、効率化などに役立てていけるかが重要となってくる。まさに正念場となっている。

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