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【義足のジャンパー新たな挑戦へ】パラ陸上界のレジェンド山本篤さんが描く第二の人生とは

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静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「義足のジャンパー新たな挑戦へ」。先生役は静岡新聞の寺田拓馬運動部専任部長が務めます。(SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」 2024年5月30日放送)

(寺田)今日は、パラリンピック陸上競技の走り幅跳びで活躍した掛川市出身の山本篤さんが現役引退を発表した話です。

(山田)僕は静岡新聞で知って驚きました。この番組でインタビューをさせてもらったこともあります。

(寺田)山本さんは目標にしてきたパラリンピック・パリ大会への出場が現実的に難しくなったことを引退理由に挙げていました。

山本さんは現在42歳。掛川西高2年時に交通事故で左足を太ももから切断しました。義肢装具士を目指した専門学校時代に陸上を始めて、パラリンピックに初出場した2008年北京大会の走り幅跳びで、日本人義足陸上選手として初めて表彰台に上り、銀メダルを獲得しました。2016年には当時の世界記録を更新しました。

パラリンピックには前回の東京まで4大会連続で出場し、合わせて銀2、銅1のメダルを獲得しています。これだけでもすごいんですが、2018年にはスノーボードで冬季パラ平昌大会にも出場したんです。「常に挑戦し続ける」という姿勢で競技生活を送ってきたんですね。

(山田)お話していても、本当に明るい人ですよね。

(寺田)パラ・パリ大会も出場を目指していたんですが、5月下旬に行われたパラ陸上の世界選手権で今季の自己ベストを出しながら5位。「『可能性のある限り挑戦する』という信念のもとで活動してきたけれど、今大会の結果はその可能性が見えなくなった瞬間だった」と話していました。

魅せるパラアスリートの先駆者

(寺田)引退発表を受けて山本さんに単独インタビューした時に、山本さんが東京パラで使ったという義足を持たせてもらいました。何キロくらいあると思いますか?

(山田)競技用義足はおそらく軽いんだろうな。

(寺田)3キロぐらいなんです。持ってみると「あ、結構重い」って感じなんですよ。ただ、人間の足よりは軽いそうで、山本さんが切断した左足は約5キロあったそうです。

山本さんは太ももから左足を切断したので、義足は太ももを入れて取り付けるんですね。「足を切断」っていうと、少し驚いて引いてしまう人もいるかもしれませんが、山本さんは講演に行くと、子どもたちの前で実際に義足を取り付けるところを見せています。

障害者に対して「かわいそう」とか「どう接していいか分からない」って思う人が多いとは思いますが、山本さんはパラアスリートとしての格好良さを示し、偏見をなくそうと取り組んでいます。

(山田)僕もイベントに参加した時に、義足があちこちに転がっていて、最初は「エッ」って思いました。でも、山本さんの話を聞いて普通の光景になってきて、生活用義足から競技用義足に変える姿がとても格好良かったのを覚えています。

なぜ走り幅跳びだったのか

(寺田)山本さんは種目として、なぜ走り幅跳びを選んだのか。山本さんは「世界のトップを狙えたから」と話していました。

短距離の100メートルだと海外の強豪と力の差があったそうですが、走り幅跳びは走るだけじゃなく、リズムを合わせてジャンプする技術が必要になる。山本さんは「自分は義足をうまく使えた。これなら世界と勝負できる」と思ったそうです。

(山田)なるほど。

(寺田)義足のジャンパーはどっちの足で踏み切るか、知っていますか?山本さんは競技を始めた当初は健足で踏み切っていたそうですが、義足に変えてから記録が飛躍的に伸びた。今は義足で踏み切るのが世界のスタンダードになっています。

走り幅跳びって、踏み切り前の3歩が大事なんですね。前に進む力を、踏み切りで垂直方向に飛び上がる力に変えないといけない。踏み切り手前の1歩は自分の健足で沈み込み、踏み切りの時にブレードで力強く地面を蹴って推進力を垂直方向に変換するんです。

ダイナミックで、もう「超人」って感じですよね。

(山田)映像で見たことがありますが、すごいですよね。パラスポーツは、その道具をどう使うかも面白い。

(寺田)山本さんが競技を始めた時、義足の走り幅跳びは理論も技術も未発達で、「正解がない中で、自分で新しい形を見つけ、自己記録を伸ばす面白さがあった」とおっしゃっていました。

夢の9メートルジャンプまでもうすぐ

(寺田)ところで男子走り幅跳びの世界記録は現在8メートル95ですが、義足のジャンパーの世界記録は…?

マルクス・レーム選手(ドイツ)の8メートル72。彼はまだ現役でパラ・パリ大会にも出場します。この夏には人類初の9メートルジャンプが見られるかもしれません。

レーム選手は以前、パラアスリートとしてオリンピックを目指していたんです。ところが、「義足の反発力が競技に有利に働いているのでは」という声が上がり、世界陸連からNGが出てしまった。

山本さんとこの話をしたら、「確かに踏み切りだけを抽出したらブレードの反発力を使うのはずるいってなるかもしれないが、ブレードだけで飛べるわけじゃない」と指摘していました。

山本さんは「こういう議論は大事だ」っておっしゃっています。スポーツとパラスポーツの関係性について考えることは必要だと。

記録の取り扱いは別にしても、私も同じ大会にパラアスリートが参加してもいいんじゃないかなと思います。実際にローカルな大会では一緒に競技を行う大会もあります。エコパスタジアムで毎年行われる静岡国際陸上にもパラアスリートが参加しています。

ゴルフのベストスコア70台!

(寺田)パラ東京大会を経てパラスポーツへの社会的な理解は進んだと感じますが、義足の普及には経済的な問題などが山積しています。義足は値段が高いし、子どもだと成長に合わせて買い換えないといけない。社会的にどう支援できるか、課題は多いです。

山本さんは「自分は競技に打ち込むことで豊かな人生を送ってこられた。同じような境遇の子どもたちに少しでも手助けがしたい」と。スポーツを通じた障害者の社会参加へのきっかけづくりや後進の育成に意欲を示しています。

さらに、山本選手の第二の人生はこれだけじゃなさそうで、今度は「競技者としてゴルフに本格的に取り組みたい」とのことです。学生時代から趣味でやっていて、コロナ禍で練習量を増やしたらスコアが伸びたそうです。今、ベストは70台らしいです(笑)

(山田)すごっ。

(寺田)今は義足の競技者を指導する人はいないので独学で上達するしかない。YouTubeをみて健常者の理論をどう自分に落とし込むか考えているそうです。「創意工夫するのは走り幅跳びと同じ。どこまでやれるか自分を試したい」って(笑)

(山田)本当に、挑戦する意味や希望を多くの人に与えてくれるアスリートですね。

(寺田)「これから新しい挑戦が始まる」という前向きな姿勢に私も元気をもらいました。さらにゴルフだけじゃなく、マラソンも完走したいと。パラ陸上のレジェンドは、第二の人生でも道を切り開き続けていきそうです。

(山田)山本さんの第二の人生が本当に楽しみですね。まだまだ応援していきましょう。今日の勉強はこれでおしまい!

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