「虎に翼」チェ・ヒャンスク役でも話題の俳優 ハ・ヨンスさん「間違いを恐れず、自分の世界を広げたい」──特別インタビュー【前編】
連続テレビ小説『虎に翼』で崔 香淑(チェ・ヒャンスク)役を熱演し、現在はNHK Eテレ「ハングルッ!ナビ」のスキットにも出演中のハ・ヨンスさん。日本で活動するという夢を叶えた“語学力”の秘密や、挑戦を続ける原動力について伺います。
(「ハングルッ!ナビ」テキスト2024年10月号の記事より、本記事用に一部を編集・追記して掲載しています。)
――――独学で日本語を学んだと伺いましたが、来日を決めたきっかけは?
元々韓国で役者をしていて、「日本の作品に出てみたい」というぼんやりした夢がありました。タイミングもなく諦めかけていたのですが、ある日ふと「いま決意しなければ、永遠にチャンスがないかもしれない」と思って、日本語の勉強を始めました。
そのときはまだひらがなが少し読める程度で、子どもみたいなレベルでした。
それから、日本のアニメや映画を見ながら1日6時間くらいシャドーイングしたり、日本語ができる友達と電話でたくさん話したりしてみました。
「半年以内に実力が伸びなかったら諦めよう」と思っていたのですが、想像以上にできるようになったので「よし行こう!」と、思い切って日本に来ることを決めました。
――――映像作品で話す・聞くを中心に勉強されたんですね。
「(日本語の)ネイティブの子どものように勉強してみよう」と思ったのがきっかけですね。
子どもって、周りの大人の会話を聞いたり絵本やアニメを見たりして、だんだん言葉の意味を覚えていくじゃないですか。私も同じように学べば、生きた日本語(口語的な表現)が身につくはずだと。なので、文字を一通り覚えてからは、日本のアニメやドラマを見て勉強しました。
実は私、「アンパンマン」が大好きで、ばいきんまんが“推し”なんですよ!
アニメはキャラごとに口調や語尾が違うのでセリフを真似するのも楽しいし、単語も比較的簡単で、内容にも興味が持てるから続けやすかったです。例えば、「このキャラがよく言う“ござる”って何だろう?」と思って調べて、「ああ、昔の言い方なんだな、時代劇とかでも使うのかな?」という感じで…関心を広げながら言葉を覚えましたね。
――――第二言語を学ぶにあたって、ほかに意識していたことはありますか?
とにかく「正しさにこだわりすぎない」ことです。
「この表現で合っているかな? 間違っているかも」と考えてしまうと、何も喋れなくなったりしますよね。
でも、ちょっと間違っていたとしても、勇気をもって話しかけてみるのがいちばん大事だと思います。ひと言でも発すれば相手も何か返してくれるし、コミュニケーションを取る中でまた新しい表現を覚えることができますから。なので、恥ずかしがらずに自分の気持ちをしっかり相手に伝えようとすることを意識していました。
今の事務所に所属する前、韓国からオンラインで面接をしたのですが、そのとき「去年(来日を)決心しました」と言いたかったのに「来年決心しました」と言ってしまって…(笑)。でも、言い間違えても大体の意味や熱意が伝わって、こうして日本に来られました。
あとは、あまり自分の母国語に言い換えないこと。
例えば、「りんご」という単語を覚えるときは、日本語の文字と発音だけをインプットするような感じですね。「ハングルでは“사과(サグァ)”だから…」と毎回母国語に言い換えてしまうと、言葉がスッと出てこなくなるような気がしたので、なるべく素直に日本語だけを覚えるようにしていました。今では、日本語は日本語、母国語は母国語で脳を半分に分けるような感覚になっています。
――――独学でここまで勉強を続けられている、そのモチベーションは何でしょうか。
(語学の)勉強が自分の仕事に直接つながっているのももちろんですが、
「その国の言葉で自分の気持ちを伝えて、その国の人と関係性を作っていきたい」というのがいちばんのモチベーションです。私にとっては、それが自分の世界を広げる方法なんです。
旅行が好きでよく海外に行くんですけど、そのときは必ずその国の言葉を少しでも覚えてから行くようにしています。私はいわゆる「陰キャ」なので(笑)、新しい人と話すのは本当は苦手。でも、「自分が思ったことをひと言でもいいから伝えたい、好きな人やその国の文化を理解できたらもっと楽しくなるはず」という気持ちが勝つんですよね。
そのために毎日頑張ろうと思えるし、その努力が次に起こる「いいこと」につながるはずだ、と考えています。いまは日本語を頑張って勉強していますが、いつかネイティブレベルまで上達したら、ほかの国の言語にもチャレンジしたいですね。
後編では、ヨンスさんを形作る日々の習慣や、韓国旅行でおすすめのスポットなども伺います!
後編はこちら▼
ハ・ヨンス
1990年、韓国・プサン(釜山)生まれ。高校時代はアニメーションを専攻し、絵本作家を夢見ていた。2013年に映画『恋愛の温度』でデビュー。その後、韓国でリメイクされたドラマ『リッチマン』での主演をはじめ、さまざまな映画・ドラマに出演。2022年から日本での活動を本格化させ、2024年にはNHK連続テレビ小説『虎に翼』に出演するなど、多彩に活躍中。
◆写真:神藤 剛
◆取材・文:「ハングルッ!ナビ」テキスト編集部