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「信号機」鑑賞は宝探し。丹羽拳士朗さんに伺う、1500種以上ものバリエーションがある信号機の奥深き世界

さんたつ

5.歩行者用・車用が一体化した信号機

4歳から信号機に魅了された、信号機マニア・丹羽拳士朗さん。これまで日本各地へ足を運び、さまざまなタイプの信号機を撮影し続けている。ひとくちに信号機といっても設置場所によって種類豊富で、時代ごとの変遷もある。著書『ヘンな信号機』、『信号機の世界』(イカロス出版)では、バリエーション豊富な信号機が数多く紹介されている。丹羽さんに、信号機の魅力についてお話を伺った。

4歳から信号機マニアの道へ。小学生時代にホームページ開設

愛知県「卯坂」交差点に2023年2月まで残っていた、古い角形の信号機。

外を歩けば一度は目にする信号機。丹羽拳士朗さんは、幼少期から信号機に魅了され、これまで全国各地4000カ所以上もの信号機を撮影してきた信号機マニアだ。

「4歳から20年以上、信号機を追いかけてきました。生まれつき、家の電気や街灯、イルミネーションといった光るものが大好きで、家の中でも天井ばかり見ているような子供でした。また、ビーズなどさまざまな色が混ざったものを色分けするのも好きだったんです。その2つが徐々に合わさって、信号機が好きになっていきました。

小学校に上がるまでの幼少期は、家の近くの信号機を何十分も見続けていたり、交差点で押しボタンを押して横断歩道を渡って、また元の場所に戻ってきて信号機の色が変わる様子を見たり……ということをひたすら楽しんでいましたね。

小学校高学年の頃、信号機を紹介するホームページ『Let’s enjoy signal!!』を開設したのをきっかけに、全国各地の珍しい信号機を本格的に探し歩くように。社会人になった今も、年間8回ほど信号機の撮影のために遠征しています。今年のお盆休みには8泊9日で山陰・山陽・四国の9県を巡って、信号機の写真を9730枚撮影しました」

実はバリエーション豊かな信号機

ひとくちに信号機といってもよくよく観察してみると、設置場所によってレンズのサイズや色の組み合わせ、素材など多様な種類がある。

電球式の信号機。
LED式の信号機。

「大きく分けると、信号機には電球式とLED式のものがあります。もともとは電球式でしたが、現在はLED式が主流です。

形状も、信号機が登場した当初は四角形の角形が主流でしたが、角が取れて楕円形になった丸型、さらに色ごとに分かれた分割型……と時代とともに変遷していっています。

光源がLEDになったことで構造上薄くできるようになり、近年ではさらに庇(ひさし)もなくし、灯器のサイズも小さくしたことで低コスト化を実現した低コスト型信号機が登場し全国的に普及しています」

低コスト型信号機。

「こうした灯器の形状自体の移り変わりに加え、用途や交差点の状況によっても種類がさまざまあります。例えば東京では、左折する場所が2ヶ所あるような五差路の交差点に、4灯式の矢印灯器が設置されていることがあります。このような4灯式の矢印灯器は、東京以外ではあまり見かけないですね」

黄・黄・赤の変則配列の信号機。

「また、信号は通常、青・黄・赤という組み合わせが一般的ですが、黄・黄・赤、赤・黄・赤といった珍しい組み合わせのものもあります。例えば赤・黄・赤の配列のものは踏切に隣接する交差点などで、進行する前に一時停止を促す目的で、青の代わりにあえて左の赤を点滅させているんです。黄・黄・赤の配列のものも用途としては近く、青の代わりに左の黄が点滅することで進行する際の他の交通への注意を促しています。

ただ、見慣れないドライバーにとっては分かりにくいので、こうした変則的なタイプの信号は減りつつあり、赤・黄・赤は福岡県や茨城県など、黄・黄・赤は兵庫県・新潟県など一部の県にしか残っていません」

カプセルフードの付いた信号機。

現在、北海道在住の丹羽さん。積雪のある北海道ならではの信号機もあるという。

「電球式に比べてLEDはあまり熱を持たないので、雪が信号機に付着して、何色が点灯しているか見えづらくなってしまうという問題があります。そこでカプセルフードといって、しずく状の形をした透明のカバーでLEDを覆って、雪が付着しないようにする工夫が施された信号機があります。北海道以外に、東北や北陸などの豪雪地帯でも見られます」

歩行者用・車用が一体化した「UFO型」の信号機。

丹羽さんにとっての信号機の魅力とは、まさにこのようなバリエーションの豊富さだという。

「信号機には、見方によって1500種類以上ものバリエーションがあるんです。こんなにいろんな種類や用途があり、変わった信号機があるということはほとんど注目されないことだと思います。突っ込んで調べてみると、意外な歴史や種類が見えてくるのが楽しいですね。例えば分かりやすいものでいうと、車用と歩行者用の信号機が一体化した『UFO型』と呼ばれる信号機や、アトムが描かれた歩行者用の信号機などもあるんです。

新たな珍しい信号機に出合えると、まるで宝物に出合った感覚になれますね」

アトムが光る歩行者用信号機。

日の出から日没まで。信号機の撮影は時間との勝負

文字が表示される信号機。

忙しい仕事の合間を縫って全国各地の信号機を巡る丹羽さん。限られた日程の中で一つでも多くの信号機を撮影できるよう、時間や交通手段を有効活用している。

「何も用意せずに現地を訪れても、珍しい信号機や見たい信号機には出合えません。あらかじめ信号好きの人たちとSNS上で情報交換をしたり、ストリートビューをチェックするなど、下調べして行程を組んだ上で現地を巡っています。

取材の際は、日の出の1時間後から日没1時間前まで、ひたすら信号機の写真を撮ります。とにかく信号機を撮影することが目的なので、ご飯も基本的には手づかみで食べられるもの。節約のために飛行機はLCCで、宿泊も基本的にはネットカフェです。

ただ取材中の移動手段にはお金は惜しまず、渋滞の可能性が高い都市部では公共交通や徒歩、駅から距離がある場所であればレンタサイクル、地方であれば特急やレンタカーなど、行き先に応じて考えうる最速の交通手段を組み合わせています」

しかしいくら綿密に準備をしても、予想しない事態が訪れることも。

「悔しいのは、現地に行って見ようと思っていた信号機がなかった時です。たとえ信号機好きであっても、最新の情報をすべて網羅できているわけではありません。またストリートビューの更新頻度は2年に一度程度なので、最新の状態ではない場合もあるんです。

電車やバスを乗り継いで何時間もかけて遠征したのに、お目当ての信号機がなくなっていた時は『もっと早く来れば良かった』と悔しい気持ちになりますね。

これまでで一番悔しかったのは、北千住の信号機です。北千住駅のそばに、昭和40年代前半に設置された1灯式の古い信号機が2015年3月26日まで残っていました。この日に信号機好きの仲間が写真を撮って投稿していたので、「明日見に行こう」と翌日の3月27日に見に行ったところ、なんと一晩の間に撤去されてなくなっていたんです。

何が悔しいかというと、実は3月26日から東京にはいたんです。ただ、この日は大ファンであるAKB48の握手会に行っていました。『時間があるから明日でいいや』と信号機を見に行くのを翌日に回してしまっていたことで、撮り逃してしまった。

珍しい信号機だったこともあり、悲しかったですね」

赤信号が楽しい時間に

現在は北海道庁の職員として、日々北海道の土木や交通に関わる丹羽さん。仕事を通して、信号機に対する視点に変化はあったのだろうか。

「現在は道庁の建設管理部で、道路工事の発注などを担当する部署で働いています。実は就職する時、信号機のメーカーで働くか、信号機を発注する側である警察で働くかでも迷ったのですが、仕事になってしまうことで信号機が嫌になってしまうのは避けたいなと思ったんです。今の仕事は、道路や交通に携わっていて、信号機とは付かず離れずの関係を保てています。

最近うれしい出来事があって。通常信号機の発注は警察が行っているんですが、『委任信号機』といって、工事現場などで信号機の設置が必要になった場合、道路工事を発注する我々建設管理部が代わりに発注することがあります。実は先日、私が担当する現場でこの委任信号機を発注する機会があったんです。

どのようなメーカーやタイプの信号機が設置されるのか、今から楽しみですね」

「矢印・赤・矢印」が表示される変則配列の信号機.。

多くの人にとっては、道路を渡ってよいかどうか、道を進んでよいかどうかといったことを判断する目的で目を向けられ、わざわざ立ち止まってじっくり見る機会は少ないかもしれない信号機。

しかしよくよく調べてみると、材質や形状の変遷、地域性、設置場所ごとの状況に合わせた工夫など、その背後には奥深い世界が広がっている。

「一般的に、信号待ちにはマイナスイメージがつきまといがちだと思いますが、私のような信号好きからすると、赤信号で止まっている間は信号をじっくり観察できるので、全くストレスにならないんです。私が小さい頃は、一つでもたくさん信号機を見たいので、家族で遠出する際にも『なるべく高速道路は使わないで』と親に頼んでいたくらいです。普通は逆ですよね(笑)。

信号機をちょっとでも楽しめるきっかけになればいいなというのが、私が本やホームページで信号機のことを発信している理由の一つでもあります」

丹羽さんの視点を借りれば、今まで憂鬱だった信号待ちの時間がちょっと楽しくなる。

取材・構成=村田あやこ

※記事内の写真はすべて丹羽拳士朗さん提供

村田 あやこ
路上園芸鑑賞家/ライター
福岡生まれ。街角の園芸活動や植物に魅了され、「路上園芸学会」を名乗り撮影・記録。書籍やウェブマガジンへのコラム寄稿やイベントなどを通し、魅力の発信を続ける。著書に『たのしい路上園芸観察』(グラフィック社)。寄稿書籍に『街角図鑑』『街角図鑑 街と境界編』(ともに三土たつお編著/実業之日本社)。

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