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東南アジアで火花を散らすGrab、GoTo、Sea。スーパーアプリ戦争の勝者を占う

TECHBLITZ

東南アジアを舞台に、スーパーアプリを目指すGrab、GoTo、Sea。これら3社について、主要な5分野を比較した。

※本記事は、東南アジアのベンチャーキャピタルである東南アジアで繰り広げられる、三つ巴のスーパーアプリ戦争

 東南アジアを舞台に繰り広げられているGrabとGoToのバトルに注目が集まっている。両社とも配車サービスをルーツに持ち、新規上場(IPO)を目指すデカコーン企業だ。しかし、このバトルは実際のところ、世界屈指の有望な新興市場である東南アジアの覇者を決める、三つ巴のスーパーアプリ戦争なのである。

 GrabとGoToはともに、配車サービスとフードデリバリーというビジネスの枠を超えて進化を遂げてきた。しかし、未来を見据えたそれぞれの構想の中心には、決済アプリという新たなコアビジネスがある。決済アプリは、10カ国で構成される東南アジア諸国連合(ASEAN)という、モバイルフレンドリーな地域であらゆる製品を販売するためのゲートウェイになりうるものだ。そして、GrabとGoToの前に立ちはだかるのが、シンガポール発のSea Limited(以降Sea)という手強い第3のライバルだ。

 興味をそそられるのは、勝負の行方だけではない。勝者がいかにして戦いを制するのかも気になるところだ。Grab、GoTo、Seaは、すべてを支配するアプリ群を手中にしようと歩んできたが、その道のりは同じではない。そこで、各社の概要と、戦略的に重要な5分野についての違いを説明していきたい。

バトルに参戦する3社の概要

 

 

 

戦略的に重要な意味を持つ5分野別に評価

 スーパーアプリを比較するにあたっては、「配車サービス」「エンターテインメント」「EC」「決済アプリ」という、重要な4分野を検討する。5つ目は「無形」の全般的な戦略的価値として、リーダーシップとビジョンを併せ持つ息の長い創業者/最高経営責任者(CEO)が存在するかどうかを見ていく。

 では、各分野の重要性を述べ、Grab、GoTo、Seaについて筆者なりの評価を下していきたい。評価システムはシンプルに、分野の基盤が整っている場合は1点、まったく整っていない場合は0点、その中間の場合は0.5点とする。

配車サービスとフードデリバリー

 配車サービスのみでは儲からない可能性があるが、町中を提携車両が多数走り回っていることが、いくつかの点で有利に働く。

 配車サービスは、ユーザー基盤を拡大するための客寄せサービスになる。フードデリバリーは、利益を生むと同時に、決済アプリの加盟店ネットワークを構築する。この2つが掛け合わされれば、町中で消費者が企業名を目にすることが増え、認知度が向上していく。

1ポイント提携するタクシーやバイクタクシーが、広範にわたり各都市で走っている。

1ポイントGojekの最新車両によるサービス(現在は4輪駆動車も導入済み)が広く浸透している。ただし、見かけるのは主にインドネシアだ。

0ポイント配車サービスは提供しておらず、フードデリバリーに進出したのは2021年春で、ライバルから大きく後れを取っている。

ストリーミング配信サービス

 Insignia Ventures Partnersのインラン・タン(Yinglan Tan)氏が2020年3月に、テック系ニュースサイト「Wiredfocus」に対して述べたように、テックプラットフォーム企業は「ユーザーから長期にわたるエンゲージメントを獲得するための計画が必要」である。その役目を果たすのがストリーミング配信サービスだ。ストリーミング配信サービスは、消費者の関心を引きつけてそれを維持できるので、収益源になると同時に、画面を通じて知名度も向上できる。

0ポイントGrabは2019年2月に、アジアの動画配信サービスHooqと提携し、映画やドラマの領域へと進出。ところが、Hooqは倒産し、Grabは今のところ、エンターテインメントサービスを提供していない。

0.5ポイントGoToから派生したエンターテインメント事業GoPlayは、アジアを舞台にした映画やドラマシリーズを配信している。人気はあるが、競合他社も多い。そこでGoPlayは、ほかにはないニッチを開拓しようと、米人気ドラマ『ゴシップ・ガール』をリメイクしたジャカルタ版をはじめ、オリジナル作品を製作中だ。また、動画生配信サービスも開始し、若者に人気を博している。なかなか素晴らしい手だとは思うが、筆者は0.5ポイントにとどめた。その理由は、GoPlayが配信するコンテンツにはインドネシアものが多いことだ。一方、Garenaの配信コンテンツはASEAN全体にアピールできるものとなっている。

1ポイントこの分野については、エンターテインメントとゲームを配信するGarenaを持つSeaが文句なしの勝者だ。多くの若者はスマートフォンを手に入れると、真っ先にGarenaをダウンロードする。ゲームはきわめて社会的かつインタラクティブで、関心を引きつけておけるうえに、儲かるビジネスだ。ただし、参入障壁は高い。

EC

 AmazonのECモデルは、在庫を事前に大量購入して倉庫に保管しておくため、薄利多売だ。アジアの企業は、在庫をあまり抱え込まないやり方を好み、売り手と買い手をマッチングして大量販売することで高利益につなげている。ただし、落とし穴がひとつある。EC分野をめぐっては東南アジアで熾烈な競争が起きており、中国アリババ傘下のLazadaや、インドネシアのユニコーン企業Bukalapakに至る、さまざまな企業が参入してきているのだ。

0ポイントEC事業なし。

0.5ポイントGoToは合併によって、Tokopediaという強固なプラットフォームを手にした。サポート体制がしっかりした出品者ネットワークのおかげで、ありとあらゆる商品が販売されており、流通取引総額は右肩上がりだ。とはいえ、インドネシアでは5社以上のユニコーンが我先にとトップを目指しており、地元を重視するGoToの姿勢が弱点となっている。Tokopediaが国内競争で負けるようなことがあれば、先行きは暗い。

0ポイントSeaのEC部門ShopeeはASEAN全域で実績をあげており、インドネシアでは昨年、サイト訪問者数で地元のTokopediaを上回った。ASEANのトップEC事業者には常にShopeeの名前が挙がっている。

決済アプリ

 Alipayが中国で成功したことからもわかるように、広く普及した決済アプリがあることで3つの大きな利点が手にできる。決済アプリは有料なので収益源となること、金融商品の販売ハブとなること(アリババのAnt Financialがその例だ)、利用者から得られる消費者データの宝庫であることだ。そのデータを解析すれば、将来的にはターゲティングマーケティングに利用したり、顧客の購買力を判断したりできるほか、事業戦略を組み立てて新たな商品ラインやパートナーシップへとつなげることもできる。

0.5ポイントGrabPayは東南アジアで確かな地位を築き、普及がますます進んでいる。Grabはまた、インドネシアの電子マネーOVOやベトナムの電子決済アプリMocaといった地元企業と提携し、露出の増加に努めてきた。とはいえ、顧客を抱えてデータを利用しサービスをさらに売り込むというやり方は弱点になる。優位に立つためには、地元の決済企業を買収する必要があるだろう。

0.5ポイントGoPayも人気上昇中で、大小さまざまな店舗で利用ができるようになっている。しかし、インドネシア以外の市場でGoPayが最適な決済アプリになるとは考えにくい。Tokopediaとの合併により、外部出品者が購入履歴へのアクセスを許可しなくなる可能性がある。

マイナス
0.5ポイントSeaMoneyは、GarenaでゲームをしたりShopeeで買い物をしたりする分には問題ない。難点は、Seaは配車とデリバリーのインフラを持たないため、アプリのユーザー基盤や、利用可能な小売店ネットワークを拡大する機会が大幅に制限されていることだ。この難点は他にも多くの悪影響を及ぼしうるため、減点せざるを得なかった。

創業者/最高経営責任者(CEO)

 テック系スタートアップは、創業当初の製品やビジネスモデルの規模をただ拡大するだけで大きく成長できることは滅多にない。イノベーションと進化が絶対に必要だ。そうした成長を経るなかで、創業者(あるいは共同創業者)が継続してビジネスを率いていくことに価値がある。

 Alibabaはジャック・マーが起業ビジョンとカルチャーを守り続けた。Appleは、まずスティーブ・ジョブスの下で成長を遂げ、彼の退社を受けて失速したものの、復帰によってまた息を吹き返した。Amazon、Facebook、Airbnb、Microsoft、Intelなどの企業はみな、創業を支えたキーパーソンが舵を握り続けた。欲を言えば、新たなリーダーへとバトンを渡すのは、企業が確固たる地位を確立したあとにすべきだ。

 ASEANのスーパーアプリ戦争では、確固たる地位を確立した企業はまだひとつもない。イノベーションはこれからもどんどん進む。企業を率いる創業者/最高経営責任者(CEO)の存在は、漠然としているがきわめて大きな強みとなる可能性がある。

1ポイントアンソニー・タン(Anthony Tan)は、ハーバード大学でまだMBAを学ぶ学生だったときにGrabを立ち上げ、それ以降もずっと優れたリーダーシップを発揮している。

0.5ポイントGojekのGojekの主要な創業者ナディム・マカリム(Nadiem Makarim)は現在、インドネシアの教育文化大臣を務めている。Tokopedia創業の立役者たちも、合併後はGoToの経営には携わらない。この2つの合併によって、新たに力強い企業が誕生したが、大企業の統合には複雑な作業がつきものであり、GoToを率いる経営陣にはやるべきことが山積している。しかし、一部の共同創業者は合併後もビジョンの推進を継続していく。また、CEOに就任したアンドレ・ソエリスティオ(Andre Soelistyo、Gojek元CEO)と、社長に就任したパトリック・カオ(Patrick Cao、Tokopedia前社長)は20年の経験を持ち、インドネシアでのビジネス成功を熟知するドリームチームだ。

1ポイントフォレスト・リー(Forrest Li)は、創業まもない段階でGarenaを引き継ぎ、それを足掛かりにSeaを築き上げて、現在も指揮をとっている。

総合評価

 ここまでを見ると、レースは引き分けだが、それぞれがアドバンテージを持っている。筆者の見立てでは、Grabの強みは決済アプリと地域拡大、Seaの強みは定着したエンターテインメント事業とEC事業ということになる。GoToにはインドネシアという地盤があり、総力戦に向けて準備中だ。ベンチャーキャピタルという立場から言わせてもらえば、背水の陣を敷き、生き残りをかけて戦おうと挑む企業を応援したい。そうした意気込みを持つのがGoToだ。

 東南アジアは一大市場であり、着々と成長している。伸びしろがあるので勝者は一社とは限らないし、すべての挑戦者が戦略的な動きをできるくらいの余地もあるので、買収劇が繰り広げられたり、大型合併が実現したりする可能性もある。いずれにせよ、期待できることがひとつある。東南アジアを舞台にしたこのバトルロワイヤルがどう展開するかによって、他市場におけるスーパーアプリ企業の未来もかなり見えてくるかもしれない。

(翻訳:遠藤 康子)

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