日本でただ1人! 歌って吹けるJAZZアーティスト、TOKUさん
ファッションデザイナー:コシノジュンコが、それぞれのジャンルのトップランナーをゲストに迎え、人と人の繋がりや、出会いと共感を発見する番組。
TOKUさん
日本で唯一のJAZZボーカリスト兼フリューゲルホーンプレイヤー。父親の影響で音楽に親しみ、2000年に『Everything She Said』でデビューして以来注目を集め、ジャズの枠を超えた幅広い音楽性から国内外さまざまなフィールドで活躍しています。
JK:フリューゲルホーンって珍しい楽器ね。
TOKU:なかなかなじみがないですよね。ちょっと太っちょなトランペットって感じですが、デビュー当時からご存じない方が多くて、それ以来この楽器を広めようと頑張ってきているんですが、音を聴いていただいたら「いい音だな」と思っていただけると。
JK:TOKUさんの声と雰囲気にぴったりですね! 楽器なのか声なのか分からないぐらい、一体化している。
出水:2人を引き合わせたきっかけは?
JK:肝心かなめなのが立川直樹さん。立川さんプロデュースでセルリアンタワーの公演があって、その時にびっくりしたんですよ。なかなかであったことがなかったので。
TOKU:気づいた時にはいろんなイベントでご一緒するようになって、音楽だけでなくアートもいろんなことをやってらっしゃる方でね。
出水:そんな立川さんと一緒に制作したアルバムが「Dear Mr.SINATRA」。
TOKU:フランク・シナトラ生誕100周年が2015年で、その年に恐れおおくもトリビュート・アルバムを作りたいと思って、立川さんにプロデュースをお願いしたんです。国内のアーティストとシナトラのレパートリーを演奏したアルバムで、シナトラなんでスタンダードばかりなんですが、僕にとってもスタンダードだけのアルバムです。1曲オリジナルは書きましたけど。レコーディングで初めて演奏する曲もあったし、あらためてスタンダードとじっくり向き合って、立川さんのアイデアも取り入れながら作っていって、本当に楽しかったです。
JK:最近パリのLIVEでお会いしましたよね。パリにも長くいたんですか?
TOKU:実は今年1月からパリに拠点を置くことにして。パリは2017年以来友人のプロジェクトで年に2回ぐらい行き来してたんですが、2020年1月にヨーロッパ向けのアルバムをフランスでリリースして、2月にツアーして、3月からコロナ禍が深刻化してヨーロッパに行けなくて・・・去年の夏3年半ぶりにようやく行けて、もっとヨーロッパを知りたい、ここに身を置きたいということで、拠点を移しました。
出水:パリの日々はいかがですか?
TOKU:最高ですね! とにかくフランスは日本とすべてが逆、と思っておくといいかもしれない(^^) 本当に面白いです。
JK:どんなふうに?
TOKU:電車の時間、バスの時間は全然正確じゃないし(笑) とってもファジーなところ。1人1人の生活を尊重するんですよ。それぞれに流れている時間帯があって、時間があってないような・・・ゆっくりというか・・・
JK:みんな自由勝手! だから約束してもややこしいんですよ! 「じゃあ7時に待ち合わせね」って言っても、7時に家を出るから(笑) だから1時間ぐらいかかるのよね。8時ごろ食事、って言ったって誰もいないもの。
TOKU:でもたまに7時に来る人もいるんですよね(^^)
出水:LIVEの場合もお客さんは後から来るかんじなんですか?
TOKU:その辺も、7時ちょうどに始まるわけがない、と皆さん思ってる(笑)
JK:パリコレでもそうですよ。時間通りに来るのは日本人だけ! 「えッ、今日よね? まだ誰も来てないんだけど?」って疑っちゃうぐらい。スケジュール上から進んで、夜の方になると1時間後、2時間後は当たり前ですね。
TOKU:そういうのは文化の違いだし、ヨーロッパは多様性っていう意味でも、昔から陸続きじゃないですか。皆さん基本移民なんです。本当に多種多様。そういうところを尊重し合わないと成り立たなかった歴史があるんじゃないかなと思います。
出水:日本で唯一のJAZZボーカリスト兼フリューゲルホーン奏者、とありますが?
TOKU:まず男性のJAZZボーカリストって少なくて、それでホーンも吹くっていうスタイルで出てきたのは僕だけ。
JK:ものすごい重いですね! 軽いかと思ったら。こじんまりして、持ち歩くにはいいですね。
出水:長さは50㎝ぐらいでしょうか、トランペットより一回り大きいぐらい。フリューゲルホーンを選んだ理由は?
TOKU:音色ですね。一吹きボレっていうか・・・大学1年からJAZZを始めて、最初はトランペットを吹いてたんですが、文字ではフリューゲルホーンの存在は知ってたんです。いろんなJAZZでトランペッターが持ち替えて吹いてて、アルバムを聴いてると突然音が柔らかくなる。これは明らかにトランペットじゃない、これがフリューゲルホーンなんだなって。それで大学のビッグバンドのメンバーが持ってるっていうんで、初めて吹かせてもらった。
JK:そこでピーン!と来たわけですね。
TOKU:一吹きポッと吹いて、「うわぁ、ナニコレ!」って。そこからバイト代を数か月貯めて買いに行きました。
出水:歌とホーンの入り混じったスタイルはいつ頃思いついたんですか?
TOKU:JAZZを始める前にもロックとかフォークとかをやっていて、ギターを弾きながら歌っていたんですが、JAZZではインストゥルメンタル中心でボーカリストという存在をあまり気にしていなかったんですが、やっぱりフランク・シナトラという存在ですね。マイルス・デイヴィスが大好きで、マイルスが演奏の際にシナトラの歌い方を参考にしているという話を聞いたり、あとはルイ・アームストロング。あの人もトランペットを吹きながら魔法のような声で歌って・・・でも僕が好きなのはチェット・ベイカー。あの人の声は中性的で、トランペットのサウンドもものすごく好きで。「あ、こういう人もいるんだ」と思って、歌うスタンダードのレパートリーを少しずつ増やしていったという感じですね。
(TBSラジオ『コシノジュンコ MASACA』より抜粋)