【感覚鈍麻/過敏】夏に長袖、不意のタッチには激怒!ASD・小3息子の不思議な感覚世界への寄り添い方
監修:新美妙美
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 特任助教
周りは半袖なのに、一人だけ長袖。親を悩ませる「季節外れの服選び」
5月、6月と暦が進み、じわじわと汗ばむ日が増えてくるこの季節。最近は日によって寒かったり暑かったりと大人でも服選びに頭を悩ませますが、ASD(自閉スペクトラム症)の特性がある小学3年生の息子は、気候に合わない服を選んで汗だくになっても一度着た服は脱ぎたがらなかったり、暑いと分かっていても長袖を着たがったりと、謎のこだわりを見せています。
「今日はすごく暑いよ?汗かいちゃうよ?」と声をかけますが、本人はどこ吹く風で変えたがらず。結局、ほかの子どもたちが涼しげな半袖短パンで活動する中、息子だけが一人、季節が止まったかのような格好で過ごすことになります。
実は息子には、服の前後ろに気づきにくかったり、季節に合わせた衣服を選べなかったり、さらにはトイレに行きたい感覚(尿意)をキャッチするのがのんびりでギリギリになったりする「感覚鈍麻」の傾向があります。
大人から見れば、「家から出れば、暑いって分かるでしょう?」「さっきまであんなにのんびりしてたのに、なんでギリギリまでトイレ行かないの?」と思ってしまうのですが、息子にとっては、自分の身体の内側から発せられる「暑い」「冷たい」「おしっこが出そう」というセンサーのボリュームが、とても小さく設定されているようなのです。
「どうして気づかないんだろう」「いつまで大人の声かけが必要なんだろう」と、見守る親としてはいつもグッタリしてしまいます。
しかし、この「感覚ののんびりさ」に困惑する一方で、息子はこれとは真逆の、身体の過敏さも持ち合わせていたりします。
「鈍感」なのに「敏感」?大人から見ると不思議な感覚のアンバランス
尿意や衣服の温度といった、自分の身体の感覚にはのんびりしている(感覚鈍麻)息子。それなら、全体的に「ちょっと感覚がおっとりした、鈍麻が強いタイプ」なのかというと、そんなことはありません。
むしろ、特定の刺激に対しては、「おおげさな……」と驚くような「過敏さ」を見せることがあります。
その代表的なものが、いわゆる「くすぐりポイント」への接触です。
首筋や脇、お腹のあたりに少しでも誰かの手が触れようものなら、身体をよじって逃げて「さわらないで!」と本気で嫌がります。
それどころか、仲の良い人に後ろからお尻を「ポン」と軽く叩かれた(スキンシップのつもり)だけでも、息子は「許せない。絶対謝って」と、仲の良い人に対してもずっと根に持ちます。
大人から見れば、「真夏日に長袖で汗だくな不快さは気にならないのに、友だちにお尻をポンとされただけでそんな過敏に反応するの……?」と、不均衡さに戸惑います。
専門家ではない私なりの気づきなのですが、彼にとっては「自分の内側ののんびりした感覚」と「外から突然やってくる予測できない刺激」は、まったくの別物なのだと思います。
特に首や脇、お腹やお尻といった場所は、急所でもあります。息子にとっては、自分で「これから触るぞ」と心の準備ができていない状態でそこを刺激されるのは、大人が想像する以上に「怖いこと」なのかもしれません。
このように、ある部分では驚くほど動じないのに、別の部分では非常にデリケート。そんな息子の「感覚のボリュームツマミ」の不思議さは、外での遊びの場面でも、また違った形で私を戸惑わせます。
にぎやかな場所は苦手。でも、自分が楽しんでいるときは大音量
この「感覚の不均衡さ」は、外の世界やお友だちとの関わりの中でも形を変えて現れます。
息子は、たくさんの子どもたちが集まってワイワイしているような、にぎやかな遊び場が少し苦手な傾向があります。
そういう場所に行くと、遊びに没頭できない様子で「もうここから離れたい」と、逃げたがることが多いのです。
「それなら、静かな環境や人の少ないところが好きなのか」と思うと、ここでも息子の「ボリュームツマミ」は一筋縄ではいきません。
同じような環境でも気心の知れた数人のお友だちと一緒にいたり遊びに没頭しはじめると、「にぎやかな場所が苦手な姿」が嘘のように、大はしゃぎ。周りの騒がしさがまったく耳に入っていない様子で、自分自身が誰よりも大きな声を出して盛り上がったりもします。
息子が何に気をとられているかで、同じ環境やシチュエーションでも様子がガラリと異なるので、親としては「このシチュエーションが平気なのかダメなのか、どっちだ?」と、より混乱します。
本人が主役になってお友だちと楽しく遊んでいるときは、その楽しさに100%集中しているため、周りの雑音がシャットアウトされ(鈍麻状態に)、自分の出している大音量にも気づかなくなってしまう。息子にとってはどちらも「そのときどきの、脳のフィルターの通り具合」が極端に変わっているだけなのですが、付き添う親としてはどういうコンディションになるか予想がしづらいのです。
「予測できる工夫」で暮らしやすさを探る
本人としても、なぜ同じ場面で平気なことがあるのか、ダメなときがあるのか、言語化したり整理するのがなかなか難しい発達段階でもあります。
今でも毎日のように「なんでだろう?」と首をかしげ、息子の予想のつかないコンディションに振り回され、親子で一緒に困り、頭を悩ませています。
でも、わがままや気まぐれではなく「本人の脳の中で、そのときどきのボリュームツマミが極端に変わっているんだ」と考え、一喜一憂してもしょうがない「そういうものなんだな」とも思っています。
たとえば服選びのときは、本人の「暑い・寒い」という体感に任せるのを一度お休みして、クローゼットの中にとにかくその季節におおむね合っているだろう!という服しか入れない!など選択の余地を減らす。
一度着たら脱ぎたがらない息子ですが、「着替えてくれたらちょっと頭マッサージするよ!」などサービスをつけたら着替えてくれる、というようにご褒美で釣って説得したり、一旦本人の自立は期待せず見守ることにしています。
また、不意の接触で激怒してしまうことへの対策は、後ろからお尻をポンと叩くようなスキンシップは封印し、触る前には必ず「今からトントンするよ」と声をかけ、本人が心の準備をできるようにしました。
学校や療育(発達支援)先でも、「突然触られるのが苦手」ということを共有し、周囲にも配慮をお願いしています。
今の息子にとって大事なのは、「刺激そのもの」よりも「予測できること」なのかもしれないなぁと感じています。
「息子のちょうどよさ」を探しながら、広げていく
遊び場でコンディションが読めないときも、「どうなるか分からないから、とりあえず嫌がるまでは行ってみよう」と、親子で探るような気持ちで過ごしています。予測できる範囲だけで生活を繰り返していては、息子のちょうどよさがとても小さくまとまってしまう気がしており、新しい場所、新しい機会には触れていこうとも考えています。
こういった工夫をしつつも、正直に言えば、「いつまで親の干渉や、声かけ、交渉が必要なんだろう」としょっちゅうグッタリしたりしています。同じ場所でも平気な日と無理な日があり、昨日うまくいった方法が今日は通じないこともあります。
それでも、「こうすれば絶対大丈夫」という正解を探すより、「今の息子に合うちょうどよさ」を少しずつ見つけていくしかないのかなと思っています。
あまり固定化せず、そのときどきで挑戦したり、やり方を変えてみたりしながら、息子の世界を少しずつ広げていけたら……。
これから本格的な夏がやってきます。きっと今年も、汗だくの長袖息子を前に「暑くないの!?」と言いながら、親子の試行錯誤は続いていきそうです。
執筆/河野りぬ
感覚の特性について、日常の具体的なエピソードを通して分かりやすく伝えてくださりありがとうございます。
感覚の偏りは発達特性のある方によく見られますが、その現れ方は本当に人それぞれです。診断名だけで決まるものではなく、同じお子さんの中に感覚過敏と感覚鈍麻が共存することも珍しくありません。記事にあったように、汗だくになっても暑さに気づきにくい一方で、不意に触られることには強い不快感を示すとか、にぎやかな場所は苦手なのに好きな活動に夢中になっているときは大きな音も気にならなかったりと、一見すると矛盾しているように見えることもあります。
そのため周囲からは「気分の問題では?」「わがままなのでは?」と誤解されることもありますが、本人が意図的にそうしているわけではありません。そのときどきの体調やストレス、不安、モチベーション、環境への安心感などによって感覚の入り方が大きく変化することもあり、ご本人にとってもコントロールが難しいものです。納得できる状況や安心できる相手との場面では苦手な刺激に対応できることもありますが、それは「慣れれば大丈夫」という意味ではなく、そのときの条件が整っていた結果と考えた方がよいでしょう。
また、感覚鈍麻は訓練によって劇的に改善するというよりも、別の方法で補う工夫が現実的なことも少なくありません。例えば尿意は「感じたら行く」ではなく時間で管理する、服装は体感だけでなく気温や天気予報を参考にするなどです。最近ではスマートフォンやAIなどを活用して判断を補う方法もあります。大人になる頃にはいろんな別の指標で判断できるようになればなんとかなっていきます。記事にあったように季節に合った服だけを選択肢として用意しておく工夫も、とても実践的な方法だと思いました。
記事の中でも繰り返し語られていた「予測できる工夫」は、多くの発達特性のあるお子さんに共通する大切な視点です。正解を探すのではなく、そのときどきのお子さんに合った“ちょうどよさ”を見つけていく姿勢は、多くのご家庭の参考になると感じました。(監修:小児科医 新美妙美先生)
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。