奥州三名湯「飯坂温泉」の小さな宿からあふれ出る大きなおもてなし(後編)【福島県福島市】
「温泉」それは私たち日本人が古来より愛してきた安らぎ、癒(いや)しであり、温泉文化は未来永劫(えいごう)守っていくべき大切な日本の宝物のひとつです。筆者が住む東北地方には数多くの温泉、それも名湯がいくつもあります。今回は前編からの続き(前編:https://thelocality.net/sabakoyumoto-sabakoonsen1/)で、飯坂温泉駅から徒歩数分。「鯖湖(さばこ)湯元なかや旅館」をご紹介しています。
新鮮で良質な素材を生かす日本料理の技が光る
温泉地における入浴以外の楽しみのひとつは「食事」ではありませんか?なかや旅館の食事はご主人である篠木宣彦さんが中心となり作っています。篠木さんは東京都で修業をされたのち飯坂に帰郷し腕を振るっておられます。心のこもった滋味深い料理はとてもおいしいです。
夕食からご紹介します。
きのこと小松菜の煮びたし。小松菜ときのこの香りをだしがつなげています。
刺し身はとても新鮮でその魚介がもつ独自の旨味が口の中に広がります。
この日は土瓶蒸しを頂いたのですが、マツタケ、シメジ、鶏肉やギンナンなど旬の素材のうまみが溶け出しただしは複雑で奥深い味。とても体が温まりました。
サンマのあぶりです。あぶることで皮の裏の脂の旨味を活性化させます。ポン酢がそのうまみを引き立て、後味をさっぱりとさせます。その香りに一層食欲が増します。野菜と一緒に食べてもおいしいです。
ブリと大根をショウガしょうゆだれで焼いたものです。ブリ大根はもちろんですがブリと大根の組み合わせは焼いてもばっちりです。ホクホクとしたブリの身と淡泊な大根とねぎの香味、食欲を増すショウガしょうゆだれ。お酒にもご飯にも合いそうです。
エビと季節の野菜の天ぷらです。カラリと香ばしく揚がったきれいな天ぷらは揚げ加減がちょうどよいです。プリっとしたエビとみずみずしく味が濃い野菜。だしがきいた天つゆがその味を更に押し上げてくれました。
この日いただいたお酒のひとつは喜多方市の奈良萬 (ならまん)純米酒です。ふっくらとした豊かな味が口に広がります。
もう1ついただいたお酒は福島県を代表する銘柄、榮川(えいせん)を熱燗で。軽やかでいて深い味わいのお酒です。
ご飯とみそ汁です。飯坂町の契約農家さんから仕入れているコシヒカリのご飯はふっくらとした炊きあがりで粒が立っていて噛むほどに甘みがジワリと広がります。だしのきいたみそ汁はなめこに三つ葉です。みそとだしのコクと香りが合わさった深みのある味です。
デザートは女将(おかみ)さん手作りのプリンと地元飯坂産の和梨とシャインマスカットでした。なめらかでコクのあるプリンと濃密でさわやかな甘みと酸味の果物。楽しい食事を締めくくるのにぴったりなデザートでした。
その日の活力がわいてくるよう朝食
温泉旅館の朝ごはんがひときわおいしく感じるのは筆者だけではない事でしょう。飯坂名物である定番メニューも入った朝食をいただきました。
夕食でもいただいた地元飯坂町のコシヒカリはやはり本当においしいです。
みそ汁の香りに食欲がかき立てられます。コクと風味に富んだみそ汁です。
タケノコの土佐煮、切り干し大根の煮物。ともに味付けの塩梅(あんばい)がちょうどよく和食の神髄ともいえるだしが染み込んだ素材の味が生きています。身体が元気になるご飯に合う一品でした。
さつまいものレモン煮と漬物です。ホックリとした甘みのさつまいもとレモンの爽やかさがよく合います。浸かり具合の丁度良いキュウリの漬物はご飯のお供にもお茶請けにもどちらにも合いそうです。
飯坂名物ラジウム玉子です。濃い黄色をした黄身のプルンとした食感と、まったりとしたコクはご飯に合うことはもちろん酒のあてにもいけそうです。
お客様一人ひとりへの真摯で温かい真心がいっぱいのなかや旅館
今回の取材では、なかや旅館のご主人である篠木宣彦さんにお話しを聞くことができました。なかや旅館は1893年、明治26年の創業。旅館の前身は現在の飯坂町の中野地区で炭の卸業をされていたそうです。
炭の取引のために飯坂に訪れた人たちを泊めていた事をきっかけに旅館業を始めたとのこと。
昔は団体のお客さんがたくさん来られる時代もありましたが、現在は1人で来られる方や少人数で来る方も多く自分のペースで過ごせる、だからこそ、これまでは見落とされがちだった魅力に自然と目が向くようになってきたのかもしれません。
筆者自身も感じたことですが、飯坂の名の由来でもある歴史を感じ取れるいくつもの坂や各宿ごとに共同浴場ごとに湯の質の違いがあります。名物のラジウム玉子もお店ごとにことなる味であったり、大小様々な違う楽しみがある温泉街です。
篠木さんは来たお客様にほっとしてもらえる。またなかや旅館に帰ってきたと思ってもらえるような旅館でありたいとおっしゃいました。
なかや旅館からは古き良き時代の温泉旅館の良さがひしひしと伝わって来ました。一人ひとりのお客様に寄り添ったおもてなしを心掛けていらっしゃるとのこと。
地場産の米、野菜、果物。新鮮な魚介類と肉。それを生かした繊細な技巧が光る日本料理の素朴でいて力強い味。鯖湖湯の源泉を宿に居ながらにして楽しめる。そして温もりのある接客。
飯坂温泉で一番小さなお宿とおっしゃっておられましたが、真心のこもった大きなおもてなしがそこにありました。
なかや旅館はこれからも飯坂温泉と鯖古湯とともに歴史を育んでいかれることでしょう。
情報
鯖湖湯元 なかや旅館
福島県福島市飯坂町字湯沢25
HP:https://iizaka-nakaya.com