【川崎市麻生区】金程在住 横田さん 新刊に平和の願い込め 「防空壕きくらげ」題材に
麻生区金程在住の児童文学作家、横田明子さんが、同区内で生産されている「防空壕きくらげ」を題材にした新刊『タイムトンネルを見つけた夏』(あかね書房)を出版した。戦後80年を迎え、子どもたちに向けた平和へのメッセージが込められている。
同書は小学生のヒロ、カズヤ、ユリの3人が「たんけんごっこ」の中で、近所の山に防空壕を発見したことから展開する物語。同区内栗木の(株)熱源(船崎帆洸代表)が栽培している防空壕きくらげや、同社の小山仁美さんも登場し、小学生3人が戦争について知るためのきっかけを作る。
執筆の発端は、横田さんが常務理事を務める日本児童文芸家協会の季刊誌の特集として、平和をテーマにした小編の依頼があったこと。防空壕きくらげの存在は麻生郵便局前にある自動販売機で知っていたが、テレビ番組で栽培所が取り上げられているのを目にし「こんなに近くでと驚いた。すぐ(同社に)電話して取材に行った」と横田さん。実際に同社で小山さんから話を聞き、16頁の小編を完成させた。「絶対に本にしたい」との思いがあり、プロットを立てて備えていたといい、季刊誌の発売後すぐに出版社からオファーがあり、書籍として出版することになった。物語には自身が調べた複数の疎開の体験談なども盛り込まれている。横田さんは「よく防空壕を残す決断をされたなと、感嘆の思い。子どもたちにも、今の平和のありがたさを胸にとどめてほしい」と思いを語る。
戦争知るきっかけに
防空壕は2013年、同社が資材置き場として購入した山の工事の際に、船崎代表と小山さんが発見した。「防空壕があるから気を付けて、と近所の人に言われて探しにいった」と小山さん。竹藪の中で入り口が埋まり、わずかな隙間が空いているのを見つけ、はしごとロープで中に入った。「何のにおいもしなくて虫すらいなかった。時間が止まったようだった」。調べるうちに、当時の大島国民学校(川崎区)の女子児童らが、親元を離れて学童疎開してきた時に掘られたものだとわかった。「こんなに真っ暗な中で死の恐怖と戦いながら、何時間いるのかもわからないまま。どんなに怖かったか」
学校関係者らに相談したところ「残してほしい」との声が上がり、「埋めるにも整備にもお金がかかるなら、子どもたちのために残そう」と船崎代表が決断。有効活用を探る中できくらげの栽培を始めた。そのネーミングから防空壕の話を聞きに来る人もいるといい、小山さんはできる限り疎開の事実などを伝えるようにしている。マルシェなどに出店すると、戦争の体験を語っていく高齢者も多くいる。「防空壕という言葉には良いイメージを持たない人もいる。でも、知らないとなかったことになってしまう、というのが代表の考え。きくらげをきっかけに食卓で話題になればいい」と小山さん。「本にして伝えてもらったらわかりやすいのにと思っていた。物語にしてもらって、本当にありがたい」と笑顔を見せた。
同書は全国の書店などで購入できる。