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サステナブルな日本酒の新たな一面を知る「農!と言える酒蔵の会」のイベントレポート

ELEMINIST

原料となる米づくりから酒造りまで、一貫して手がける酒蔵が集まった「農!と言える酒蔵の会」が、日本酒の新しい一面を体感できるイベントを開催した。日本酒のサステナビリティについてのトークショー、日本酒のテイスティングなどが行われた。

普通であって普通でない「農!と言える酒蔵の会」とは

当日MCをつとめた、あおい有紀氏。和酒コーディネーターとして自身でも酒蔵ツアーを主催したり、日本酒コンテストの審査員もつとめる日本酒のプロ。

原料となる米づくりから酒造りまで、一貫して手がける酒蔵が集まった「農!と言える酒蔵の会」がイベントを開催した。これまであまり語られることのなかった、サステナビリティという観点での日本酒づくりを語るトークショーやテイスティング講座など、日本酒の新しい一面を体感できる会となった。

「農!と言える酒蔵の会」代表の関谷醸造・関谷氏が、立ち上げに至った経緯や活動内容、今後の展望などについて語った。「農!と言える酒蔵の会」は、2019年7月に農業と醸造、そして消費者をつなげることを目的に、米づくりから酒造りまでを一貫して手がける蔵元が有志で集まり発足。古くは密接に関わっていた農業と醸造だが、第二次世界大戦時に米が国の管理下に置かれたことから、距離ができてしまった。その後、米流通は自由化されたものの、現在でも距離を縮めることがむずかしく、この状況に危機感を覚えたことで会を立ち上げた。

「農!と言える酒蔵の会」ではこれまで、米づくりについて勉強したり、酒蔵同士で情報交換をしたり、関係省庁との意見交換などを行ってきた。そのほか、消費者向けに酒蔵見学会や田んぼ、酒造りの現場をみてもらう参加型のイベントも開催。さらに酒屋を対象にセミナーを開いたり、青山ファーマーズマーケットに参加したりと、その魅力を広く伝える活動を行なっている。

今後の活動について聞かれると、「酒蔵の見学会など今後も開催していきたいですね。消費者の方達と直接触れ合うイベントは続けていきたいと思っています」と関谷氏。自らが酒米を育て、酒を造ることにこだわる「農!と言える酒蔵の会」。立ち上げ当初は12蔵だったという参加酒蔵数も、現在は22蔵まで増加。今後もさらに増えることが予想されるといい、これからの活動が楽しみだ。

古くから地域に根ざすサステナブルな「日本酒づくり」

「日本酒のサステナビリティ」をテーマにトークライブでは、エシカルなライフスタイルを、個々の暮らしに寄り添って提案するエシカルプランナー・中川原圭子氏と、料理に関するさまざまな資格を持ち、料理芸人としても活躍するクック井上氏、さらに全国の酒蔵や田んぼに350回以上足を運び取材をしてきた、本イベントのMCでもある、あおい有紀氏が登壇した。

地域の生態系のバランスにも影響をおよぼす耕作放棄地

トークライブのゲストとして語ってくれたクック井上氏。お笑いコンビ「ツインクル」のツッコミ担当。料理好きの趣味が高じてフードコーディネーターや食育インストラクターとしても活躍している。

以前「農!と言える酒蔵の会」にインタビューを行ったこともある中川原氏は、そのときに感じた雇用問題の深刻さについて言及した。日本の少子高齢化にともなう人手不足は多くの業界で課題となっているが、農業も例外ではない。「高齢の方々のボリュームが多い農業では、後継者がいなくなり畑を使用しない、または手入れできなくなった場合の『耕作放棄地』も問題」と話す。「耕作放棄地」とは、以前耕作していた土地で、過去1年以上作物を作付け(栽培)せず、数年の間に再び作付けする意思のない土地のことを指す。

この耕作放棄地は、現在日本で非常に多く存在しており、その影響は農作物が減ることだけではないという。放棄された農作物が地面に落ちることなどによって、害虫や病気が発生し、生態系のバランスが崩れてしまう危険性もあるのだ。

人手不足を乗り越える鍵は「スマート農業」と「グローバルGAP認証」

耕作放棄地について語る中川原圭子氏。エシカルなライフスタイルを提案する「エシカルプランナー」として2018年より活動開始し、ELEMINISTではECの立ち上げに携わる。

加速する少子高齢化のなか、人手不足は避けることがむずかしい問題だ。そこで、人手不足を乗り越えようと、「スマート農業」を取り入れる農家も増えてきているという。

クック井上氏は、ドローンで田んぼや畑を管理している様子を実際に見た経験があるのだとか。「上から俯瞰することで、どこに水があげられていないのか、どこか枯れてきていないか、などがわかりやすいのが特徴。これまで何人かでやっていた作業をドローンで代用することで、人手不足に対応しているのだなと感心しました」と話した。中川原氏によれば、「農!と言える酒蔵の会」のなかでも、ドローンを使ったり、ソーラーシェアリングを使ったり、積極的に新しい技術を取り入れている蔵も増えているそうだ。

中川原氏によると、人手不足解決に向けた取り組みのひとつとして「グローバルGAP認証」が注目されているのだとか。グローバルGAP認証は「適正な農業の実践」を意味し、食品安全と労働環境、環境保全に配慮した持続可能な生産活動を実践する、という世界的な認証のこと。働く人の安全性や環境の安全性まで担保することで、求職者に選ばれる基準のひとつになるのでは、と語った。

私たち消費者ができることとして「こういう認証があるということを日常会話の中で口に出すしていくことも大切だと思います」と中川原氏。クック井上氏も、「認証を受けている田んぼでつくったお米でできたお酒だと知っていると、さらにそのお酒を応援したい気持ちも生まれますよね。自分も関われている気がしますし、お酒好きとしてはそういう情報も発信していきたいですね」と話した。

日本酒の消費量が増えると田んぼが活性化する

「玄米一合から日本酒が一合できるので、単純計算で週に5日、毎日一合ずつの日本酒を日本人が飲むと、日本の田んぼの4分の1が復活する」と中川原氏は話し、日本酒を飲むこと自体もサステナブルなアクションのひとつになることを伝えた。「日本で造られている日本酒はほぼ100%国産米なので、日本酒の消費量が伸びれば、自ずと日本の田んぼも活性化していくということですよね。直接的につながりがあるのが嬉しいですね」とあおい氏が話し、日本酒好きの参加者達からも笑顔がこぼれた。

「農!と言える酒蔵の会」に参加する蔵元では、日本酒の量り売りや酒造りで生まれる酒粕や籾殻といった副産物のアップサイクルも積極的に行っている。「こうしたつくり手のさまざまなサステナブルな取り組みを、私たち飲み手が理解して、価値を感じながらおいしく味わうことが、いま日本酒を通してできる一番のアクションだと思います」と中川原氏は締め括った。

「有機」「地域循環」「自然」をテーマに日本酒3種をテイスティング

「農!と言える酒蔵の会」の取り組みや、日本酒のサステナブルな側面を理解したところで、参加者お待ちかねの日本酒テイスティングへ。株式会社Sake Business Laboratory 鈴木更紗氏のリードで、「有機」「地域循環」「自然」3つのキーワードについて説明を受けながら、それぞれのキーワードにマッチした「農! と言える酒蔵の会」の日本酒を味わった。

「有機」のキーワードでは、有機JAS認証を受けている、丸本酒造の「竹林」をテイスティング。さらに「地域循環」では、籾殻や酒粕を地域のなかで循環させている、関谷醸造の「蓬莱泉 純米大吟醸 摩訶®」を、「自然」では、自然栽培米を使用した、仁井田本家の「にいだぐらんくりゅ」を味わった。

22蔵の日本酒&特製フードがずらり!参加者同士で交流も

赤坂ビストロMARIOより、今回の日本酒をイメージしたフードが用意された。苦味、甘味、酸味など五味を表現している。

その後「農!と言える酒蔵の会」に参加している22蔵の日本酒を自由にテイスティング。22蔵の日本酒が会場にずらりと並ぶ様子は圧巻だ。各日本酒には説明パネルが設置され、参加者はパネルを読みながら、自由に試飲や撮影を楽しんだ。さらに、この日のために赤坂のビストロ「MARIO」に特注したフィンガーフードをペアリング。日本酒と料理を囲み、参加者同士で日本酒やサステナブルについて楽しそうに話す様子から、イベントへの満足度の高さがうかがえた。

日本酒を楽しみながらサステナブルなアクションを

サステナブルな暮らしは我慢がつきもの、というイメージを持つ人も少なくない。そんななか、日本酒を飲むことがサステナブルなアクションになるというのは、多くの人にとって朗報となるだろう。せっかくなら、「農!と言える酒蔵の会」のように米づくりから酒造りを行なっている蔵元の日本酒を選び、つくり手の思いや取り組みに意識をむけながら、日本酒を味わってみてはいかがだろうか。

ELEMINIST SHOPでは、期間限定で「農!と言える酒蔵の会」の22蔵が扱うオリジナル商品や、酒蔵と縁ある商品をセレクトしたポップアップショップを開催中。酒蔵の取り組みを知り、応援できる機会として、ぜひチェックしてほしい。

撮影/ELEMINIST編集部 取材・執筆/永原彩代 編集/後藤未央(ELEMINIST編集部)

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