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“ 競争から降りたら終わり”と信じていた。がん宣告で知った「自分らしく」働くキャリア選択。著述家・勅使川原真衣

新しい働き方メディア

「能力の証明こそが命」と信じていた著述家・勅使川原真衣氏。慶應義塾大学、東京大学大学院を修了後、外資系コンサルティングファームで活躍してきた輝かしい経歴に襲いかかった乳がん告知。病に侵された身体が発したSOSと、それに気づけないほど自分を追い込んでいた「能力主義」からどのように方向転換したのかを、『後悔しない がんの病院と名医の探し方』(大和書房)を上梓したばかりの医療コンサルタントであり、がん患者のためのポータルサイト「イシュラン」を運営する鈴木英介氏が聞いた。

競争のために頑張り続けることの限界

Q. がんの経験を経て、仕事以外で変わったことはありますか?

一番大きいのは、自分を、そして他者を「大事にする」という感覚を、本当の意味で理解できたことです。以前の私は、自分の主観を押し殺して生きてきました。そのねじれが、非科学的なスピリチュアル整体師に傾倒し、がんの発見を遅らせてしまったのかもしれません。

誰にだって言えないけど「言いたいこと」がある。それを尊重できるようになったのは、大きな変化です。

特に子育てにおいて、その変化は顕著ですね。うちの子は少し変わっていて、いわゆる「普通」の枠には収まらないタイプ。能力主義的な視点で見れば、「あれも直さなきゃ、これも直さなきゃ」となってしまいます。でも今は、それを彼の「持ち味」だと捉えられるようになりました。

病気になったことで、競争して頑張り続けることの限界を知りました。結果的に、今の方がずっと楽に、自分らしく生きられています。友と一緒に何かを作っていけばよかったんだ、と心からそう思えます。

Q. もっと早い段階でがんが見つかっていたら、生き方は変わっていたと思いますか?

変わっていなかったかもしれません。

がんって、見つかるべきタイミングで見つかるような気がするんです。私の場合は6cmになるまで気づかなかった。でも、ステージ3Cという、一歩間違えれば手術もできない状況だったからこそ、「このままでは死んでしまう」という強い衝撃がありました。主治医からは「あのままほっといたら危なかったよ」と言われました。それくらいのパンチがなければ、私は生き方を変えられなかったのだと思います。

今となっては、不思議なことに、がんが何か自分にとっての「見つかるべきタイミング」だったように感じています。早く見つかっていたら、もしかすると生き方や価値観に、そこまでの大きな変化はなかったかもしれません。

絶えず「能力の証明」に焦燥感を感じる日々

Q. 「能力主義」の価値観で生きていた頃、どんな目標があったのでしょうか?

今振り返ると、明確な目標があったのかどうか……。当時は、ただ目の前の山を登り続けることに必死でした。能力の証明をしないと、命がない、と信じ込んでいるような焦燥感に絶えず襲われていました。より大きなクライアント、より難しいプロジェクトへと、常に上を目指していないと、一人前ではない、と言われているような気がしていました。

能力主義の特徴に、他者比較と序列化があります。ほぼ無意識に周りと自分を比べ、格上か格下か、とひとり相撲してしまうんですね。そんな心境で働いても、喜びよりも苦しみの方が大きかった。けれど、「競争から降りたらおしまいだ」という強迫観念で、自分を追い立てていましたね。独立したきっかけも、寝る間もなく働き続けて、心身ともに限界だったからです。がんになったから「やっと仕事が休める」と感じたほどです。

Q. とはいえ、お子さんが二人いて、独立後すぐというタイミングでの病気は大変だったのでは?

はい。子供が二人いて、独立して間もない頃にがんになりました。正直、売り上げが作れなかったらどうしようと、生活への不安は常にありました。能力やキャリア以前に、とにかく家族を食わせていかなくてはならないという強いプレッシャーです。だからこそ、病気で「やっと休める」という思いと、「なんとかしなきゃ」という思いが同時に存在していました。

今ならわかる「好きな人たちとの食事の時間」

Q. 現在の人生の目標や、喜びを感じる瞬間はどんな時ですか?

目標、と言われると難しいですが、「美味しいものを、好きな人たちと食べる」ことでしょうか。結局は、「自分を大事にする」ということに尽きるのだと思います。

以前は、食事も「利害関係」の中でとることが多かった。でも今は、利害を抜きにして、純粋にその時間を楽しめる友人と過ごすことが、何よりの喜びです。

コロナ禍でリモートワークが当たり前になったことも、幸運でした。世の中全体が変化するタイミングだったからこそ、私も新しい働き方や生き方にスムーズに移行できたのだと思います。本当に、いろんな奇跡が重なって今があると感じています。

文/長谷川恵子

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