【アーツカウンシルしずおか】五輪の「遺産」はスポーツだけじゃない!静岡県にまかれた文化・芸術領域の種とは?
静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「アーツカウンシルしずおか」。先生役は静岡新聞教育文化部長の橋爪充が務めます。 (SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」2024年7月3日放送)
(橋爪)2021年に東京五輪がありましたが、いろいろなところで「レガシー」「遺産」ということが言われています。レガシーというのはスポーツの世界だけではないんです。私は文化・芸術の領域で東京五輪が静岡県内に残した最大の遺産が静岡県文化財団の「アーツカウンシルしずおか」だと思っています。今日はその話をします。
(山田)お願いします。
(橋爪)「ゴゴボラケ」には「アーツカウンシルしずおか」のプログラム・コーディネーターの立石沙織さんが出演したこともありますよね。
(山田)昨年の5月ごろに出演していただきました。
(橋爪)その時のお話と少し重なるところがあるかもしれませんが、「『アーツカウンシルしずおか』ってなんだろう」と思う方もいると思うので、ひとまずおさらいからいきますね。
(山田)「アーツカウンシル」って何?というとこですね。
(橋爪)「アーツカウンシルしずおか」は2021年にスタートしました。紋切り型に言えば「県民による文化芸術活動の支援を行う専門機関」です。JR東静岡駅にあるグランシップに静岡県文化財団の事務所がありまして、その中の組織という位置づけで活動しています。
さきほど五輪の遺産だと言ったのはどういうことか。東京五輪・パラリンピックでは、文化プログラムというものを展開していました。覚えてますか?
(山田)文化プログラム?
五輪憲章には「文化活動の発信」の項目も
(橋爪)五輪憲章には、「五輪・パラリンピックを契機に開催地の文化資源や人材を掘り起こし、地域ならではの文化活動を世界に発信するように」と書かれています。なので、いろんな五輪の開催地では必ず文化プログラムを実施しています。
静岡県も東京五輪の開催地でしたから、県が主導して2016年度以降「文化プログラム(文プロ)」と題して、さまざまな地域イベントや文化団体の支援を行ったんです。
(山田)僕もやってますね。
(橋爪)私が見た資料によると、トータルで1100件超の事業を認証して、助成金支給やプログラム実施のアドバイス、情報発信の支援などを行いました。
(山田)今話を聞いて、静岡県内では自転車競技があったので、海外から来る観客向けの観光案内の研修やイベントを担当させてもらったことを思い出しました。
(橋爪)「アーツカウンシルしずおか」はこの文化プログラムを主導してきた県の委員会を継ぐ形で発足しました。
住民主体のアートプロジェクトの支援を通じて、文化芸術を社会課題の解決のために役立てようというのが目指すところです。専門的な知見を持ったスタッフが5人いて、県内各地の住民主体で行うアートプロジェクトの実施団体の伴走支援を行ったり、新しくアートプロジェクトを始めたいという人の相談に乗ったりしています。
静岡県内各地に広まるアートプロジェクト
(山田)アートプロジェクトというと?
(橋爪)例えばこのコーナーでも以前紹介した「熱海怪獣映画祭」もプロジェクトの一つです。2023年度の活動として最も注目されたのは、これも前にお話した「超老芸術」展です。静岡市駿河区のグランシップで開かれ、「遅咲きのトップランナー大暴走!」と副題がついた高齢者によるちょっと変わった展覧会ですが、非常に高い評価を得ました。
「アーツカウンシルしずおか」は7月2日に、本年度助成対象とした「文化芸術による地域振興プログラム」を実施する29団体を集めた会合を静岡市駿河区のグランシップで開きました。私も取材に行ってきましたが、西は湖西から東は熱海、伊豆全域まで静岡県内津々浦々、さまざまな活動をしている方々が一堂に顔をそろえて壮観でした。
(山田)面白いですね。
(橋爪)自分が知っている団体も多く、取材に出かけたりしたプログラムもありました。例えば熱海怪獣映画祭、熱海未来音楽祭、藤枝ノ演劇祭、富士の山ビエンナーレ、かけがわ茶エンナーレなどなど。「クリエイティブサポート・レッツ」はご存知ですか?
(山田)もちろん知っています。浜松にある障害者の表現活動を支援するNPO法人ですよね。
(橋爪)この団体も「アーツカウンシルしずおか」の文化芸術による地域振興プログラムを実践しています。
(山田)そうなんですね。
(橋爪)一方で、今回初めて助成の対象になったり、単に私が存じ上げなかったプロジェクトの中に、とても面白そうなものがあったので、いくつか紹介したいと思います。
(山田)ぜひ教えてください。
インクルーシブシアターやオペレッタに注目!
(橋爪)まず、今年初採択になった静岡市の「一般財団法人静岡市国際交流協会」のアートプロジェクト「夏休みインクルーシブこどもシアター」です。
(山田)ほう。
(橋爪)これは、外国にルーツを持つ児童生徒と日本人の児童生徒が演劇を一緒につくると。これはありそうでなかったのではないかと思います。
(山田)確かにそうですね。セリフはどちらの言葉で話すんだろう。
(橋爪)まず、そこからどうなるんだろうという感じがしますよね。「包括的な社会」を実現する上で、演劇はとても有効だと思うんですが、それを証明するような成果になるんじゃないかという期待感があります。
演劇つながりでいうと、島田市の「伊久美茶話クラブNEO」の「オペレッタ会議〜伊久美小オペレッタの継承と発展を考える会」というのも気になります。
(山田)そちらは?
(橋爪)伊久美地区というのは島田市北部にある集落なんですけど、そこにあった伊久美小学校で伝統的に創作歌劇のオペレッタをやっていたんですね。今年の3月で閉校になったんですけど、オペレッタは40年間受け継がれてきたそうです。
その歴史を、昨年夏に大阪から島田市伊久美に拠点を移した演出家の仲田恭子さんと俳優の杉山雅紀さんによる劇団「アートひかり」が、「伊久美茶話クラブNEO」という名称で再興しようというプロジェクトです。
伊久美小では地元の逸話や人物、歴史などを題材にして劇を作っていくことをしていて、それを踏まえたオリジナルソングなども交えて公演していたようなので、今度はプロの劇団の方々がどのようにしていくのかというところはとても興味があります。
(山田)学校はなくなったけども続けていこうということですね。
(橋爪)学校だけで40年間続けてきたこと自体がすごいですけどね。そして最後に、静岡市「三保海浜マラソン実行委員会」の「第3回三保海浜マラソン」。どこがアートやねんという感じですけど。
(山田)確かに。スポーツな感じがしますけどね。
(橋爪)私もよく分かっていないんですが、こちらの主催者は大学生が主体で、三保の海岸でマラソン大会を実施しているそうです。今回が第3回。
(山田)知らなかった。
(橋爪)マラソン大会でアート的なアプローチをしていこうという方向性のようです。
(山田)どうやってるんですかね。
(橋爪)今回から「競争的でない、文化芸術の要素を取り込んだ」部門をつくるようです。
(山田)競争じゃないんですかね。
(橋爪)競争部門は競争部門であると思いますが、それ以外に文化芸術の要素を取り込んだ種目を設けるのではないでしょうか。
(山田)もしかしたら仮装するとかもあるかもしれませんね。
(橋爪)そんな予感もしますね。一定区間を区切って、何かを表現しながら走ることを推奨するという感じなのかなと想像します。表現には見る人が伴いますよね。見る側にも表現に対するリアクションというのがあるでしょうし、その混合ということも考えられますね。
(山田)面白いことを考える人たちがたくさんいますね。
(橋爪)マラソン大会でアートという発想がなかなかないですよね。この辺りがアーツカウンシルという組織の目指している方向性を特徴づけているのかなという気もしました。
(山田)先日の会合では、こういう団体がどんなことをやろうとしているかなどについて意見交換したということなんですね。
目指すは「静岡県民全員が表現者」
(橋爪)例えば、こういうアプローチをしたら集客がうまくいったとか、こういうことをやったけどうまくいかなかったなどと情報交換を行ったり、「今度はこちらの活動に参加してください」といったようなことが話し合われていたりして、なかなか良い会合だなという印象でした。
(山田)東京五輪・パラリンピックの文化プログラムからの流れだという話でしたが、こういうことをやっているのは静岡県以外にもあるんですか。
(橋爪)全国的にありますね。例えば東京にもアーツカウンシルはありますし、特に岡山、新潟、沖縄ではアートプロジェクトを支援する活動が盛んに行われています。
基本的にはアートで地域を良くしようとする活動なので、見かけたらぜひ応援してあげてほしいですね。もっと言うと、アーツカウンシルは「県民全員を表現者にする」というのがコンセプトなので。
(山田)われわれも表現者?
(橋爪)はい。あなたも表現者、私も表現者です。おそらく山田さんも何かしら関わることになると思いますよ。
(山田)聞いてていくつか知っている団体が出てきましたので、関わるかもしれませんね。楽しみにしています。今日の勉強はこれでおしまい!