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坂本九の魅力は「上を向いて歩こう」だけじゃない!稀代のエンタテナーのコミカルとシリアス

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1963年05月01日 坂本九のシングル「見上げてごらん夜の星を」発売日

2025年夏、新たに編集された坂本九のベストアルバム『坂本九』では「上を向いて歩こう」「見上げてごらん夜の星を」に代表される数々のヒット曲はもちろん、通常のベスト盤には収められない珍しい曲や、ライブやトークなどのレア音源も聴くことができる。

コミカルな作品に坂本九の本領が発揮


《DISC-1》は「上を向いて歩こう」を筆頭に、「九ちゃん音頭」「涙くんさよなら」「レットキス(ジェンカ)」など、お馴染みのヒット曲を計23曲収録。初期は外国曲のカバーも多かったが、やはりオリジナル曲、中でもコミカルな作品に本領が発揮されている。

シングル盤のローテーションの中で、臨時発売扱いだった「上を向いて歩こう」のB面曲として急遽作られることになった「あの娘の名前はなんてんかな」は永六輔のアイデアで、身近な女性の名前が歌詞に織り込まれた曲。“みさ” は渡辺プロの渡邊美佐、“のぶ子” はマナセプロの曲直瀬信子、“まさ子” は永六輔夫人の昌子、“いく” は坂本九の母、“てつ子” は黒柳徹子、“すみ子” は坂本スミ子、“かよ” は森山加代子、といった具合で、曲のラストでしっかりオチもつくノベルティソング。

もちろん真摯なメロディーの傑作も多い。1964年の「サヨナラ東京」はオリンピック東京大会開催を控え、“東京をテーマにした曲” の1つとして、開幕3ヶ月前となる7月に発売された。永六輔と中村八大の黄金コンビの作詞・作曲による作品で、坂本はオリンピックのウェルカムパーティーに招かれて歌唱した。閉会式でも曲が流されて世紀の祭典の終焉が惜しまれたほか、同年大晦日の『第15回NHK紅白歌合戦』に出場した際にも歌われ、オリンピックイヤーを象徴する1曲となった。

1965年3月に発売された「ともだち」は、喜劇界の大御所であった森繁久彌と伴淳三郎が、小児麻痺患者の少年少女たちを救うために結成したチャリティー団体『あゆみの箱』のテーマソングとして親しまれた曲。もともとは宮城県の支援学校で応援歌として制作された曲であったが、レコードが発売された際に日本武道館で開催された『第2回 あゆみの箱チャリティーコンサート』で初披露されて反響を呼んだ。同年末の『第16回NHK紅白歌合戦』で歌われ、翌春の『第38回選抜高校野球』の入場行進曲にも選ばれている。

「レットキス」は当初シングル「皆んなで笑いましょ」のカップリング曲であったが、次第にこちらに人気が集中してAB面が入れ替わった。世代によっては幼稚園や小学校のレクリエーションで踊らされた方も多いはずだ。永六輔の作詞だが、もともとは日本テレビ系のバラエティー番組『九ちゃん!』から生まれた歌で、原型版の詞は番組プロデューサーの井原高忠氏のペンによるものだった。当初の曲名「ジェンカ」から、途中で「レットキス」に改められてロングセラーとなった。

当時の子どもたちにとって忘れられない「新八犬伝」の主題歌「夕やけの空」


万博ソング「世界の国からこんにちは」で始まる《DISC-2》には少し珍しめの作品が並ぶ。「さよなら さよなら」は1967年5月に発売されたシングル。中村八大が作曲し、作詞は「バラが咲いた」のヒットでフォーク界のニュースターとなっていたマイク真木が手がけている。ショウのラストソングとしてよく歌われ、同年11月に渋谷公会堂で開催されたリサイタル『芸人(Showman)その九年目』でも披露され、超満員の会場に歌声が響き渡った。また、1973年から2年間放送されたNHKの連続人形劇『新八犬伝』の主題歌だった「夕やけの空」は、番組を見ていた当時の子どもたちにとって忘れられない歌だろう。

“六八九トリオ” が久々に再会し、リサイタルも開かれた1979年、6月にアルバム『689』が出され、その収録曲「あの時の約束」と「そして想い出」をカップリングしたシングルも同時発売された。「そして想い出」は、当時はまだろう学校でも手話の使用が認められておらず、そのために健常者とのコミュニケーションが取れないことに悩む聴覚障害者の子供が多かったことを憂いた坂本が「手話の歌を作りたい」と永六輔に持ちかけて生まれた曲。世界で初めての “手話で歌うことを前提とした歌” の誕生であった。

1983年に覆面歌手 “XQS(エクスキューズ)” 名義で出された「ぶっちぎりNO文句 / おとなの童話〜今だからいうけれど〜」は知る人ぞ知る珍しい作品。「心の瞳」は2017年に家族ユニット、柏木由紀子、大島花子、舞坂ゆき子のママ・エセフィーユのコーラス入りバージョンと、あい混声合唱団による合唱バージョンが共に収録されている。「おふくろ」「背のび」はいずれも1994年にリリースされた『坂本九 メモリアル・ボックス』にのみ収録されていた当時の未発表曲である。

幻のデビュー曲「題名のない唄だけど」


当時のソノシートに収録されていた軽妙なおしゃべりやライブ音源も聴くことができる《DISC-3》はレアトラック集。なんと、幻のデビュー曲「題名のない唄だけど」(1959年)も収められている。

当時は、A面の「何もいらない俺だけど」でパラダイス・キングの増田多夢がフィーチャーされ、B面で坂本がソロをとるシングルだった。あくまでもダニー飯田とパラダイス・キング名義ながら “唄・坂本九” としっかりクレジットされ、ジャケットの写真でも中心にいる。両面共にリーダーのダニー飯田の作詞・作曲によるナンバーであったが、ヒットすることはなく、シングル盤は同時期に出された10インチLPやソノシート以上に中古市場でも滅多にお目にかかれない1枚である。

数えきれないほどの歌番組や多くの主演映画、その他のテレビ番組やステージでいつも見せてくれていた優しい笑顔はいつまでも我々の記憶に刻まれて薄れることがない。日本が世界に誇る不世出の歌手、坂本九の歌はこれからもずっと愛され続け、歌い継がれてゆくに違いないのだ。来年(2026年)には中村八大をフィーチャーした映画『SUKIYAKI 上を向いて歩こう』の公開も予定されている。

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